4. フレンのスキルと彼女達の優しさ
『疾風迅雷』のシェルトナ。
フレンが彼女の姿を見たのは王立サンスリン学園のランキング決定戦の時。
決定戦は一般公開されており、幼い頃のフレンは祖父に連れられて観戦に来ていた。
その時のシェルトナは学園ランキング暫定二位。
圧倒的な速さで相手を華麗に瞬殺する姿や、どれだけ不利な状況でも決して諦めずに最後まで戦い抜く姿に、フレンは憧れた。
自分もシェルトナのような強くて格好良い人物になりたい。
そう思ってその日から独自に戦闘訓練を始めて、サンスリン学園の門を叩いたのである。
「そうか、君も私と同じだったんだな」
「マセリーゼさんもですか!?」
「マリーで良いよ。同じ人物を敬愛する仲間だからな」
「あ……はい! マリーさん!」
トップテンという雲の上の存在と思っていた相手と距離が近づいたことをフレンは素直に喜んだ。
「となるとフレンも風魔法と雷魔法を使うのかい?」
「いえ、僕は魔法が苦手なので……でも違う道でもきっとシェルトナさんのようになれると信じてます!」
「ああ、分かるさ。彼女のような高潔で強い人物になるには、何も彼女の真似をする必要はないからな。むしろ彼女の在り方を目指す方が遥かに難しいだろう」
二人ともシェルトナの志に憧れていたため、その想いが同調したのだろう。
シェルトナはとある理由で良くも
「となるとフレンはどうやって戦うんだい。見たところ、木刀しか装備していないようだが」
「実はまだ何が得意なのか分かってないんです。この木刀も、訓練で使い慣れているだけで得意ってわけじゃないんです」
「ほぅ、そうなのか。そういえばフレンはユニークスキルを持っているんだったな。それに関係するスキルを鍛えるのはどうだろうか」
「はい、それも考えたのですが……」
「すまない、そのくらいは考えているよな」
「謝らないでください! そうやってアドバイス頂けるだけでも嬉しいですから」
これまでチームを組んだ相手もアドバイスはしてくれた。
でもそれはフレンそのものを鍛えるというよりも、そのチームで活躍すること前提での成長方針だった。
素直にフレンのことだけを考えてアドバイスしてくれたことが、とても嬉しかった。
「僕のユニークスキルは『仲間想い』なんです」
「まさにユニークなスキルだな」
「あはは、僕もそう思います。でもこれ、ユニークなだけなんですよ」
このタイミングで丁度ゴブリンを見つけたので、フレンは普通に木刀で攻撃を仕掛けた。
相手は一匹で雑魚魔物であるにも関わらず、傷だらけになってギリギリで勝利した。
それだけフレンが弱いということだ。
「次にユニークスキルを使って戦ってみます」
今度は『仲間想い』を発動してゴブリンと戦う。
だがその姿は先程とほとんど変わらず苦戦してゴブリンを撃破する。
先程よりも少しだけ傷を負う回数が減り、早めに倒せた程度の差しかない。
「はぁっはぁっ、こんな感じでちょっと強くなるだけなんです」
しかしフレンには違和感があった。
今回は今までよりも強くなったような気がしたのだ。
スキルが成長したのか、それともドラポン達への仲間意識が強くなっていたのか。
どちらにしろ戦力にはなりようがないのだが。
「なるほど、実に興味深いな」
「はい、とても素敵なスキルだと思います」
「それにフレンがめっちゃ優しいってことが分かったぜ」
「ふむふむ、もうボクらのことを想ってくれてるんだね。嬉しいよ」
「え?」
だがドラポン達はフレンのことを決して貶すことは無かった。
それどころか、使えないスキルとフレン自身の事を褒めてくれた。
がっかりすることもなく、苛立つこともなく、興味を失うこともなく、笑顔で受け入れてくれた。
会ったばかりでまだお互いの事をほとんど知らないはずなのに、それでも全く負の感情を見せなかった。
これまで見捨てられ続けて来たフレンにとって、あまりにも信じられない事だった。
「どうして……こんなに弱いのに」
これまで使いようによっては強くなるかもしれないと思ったいくつかのチームがフレンを入れてくれた。
だがそのいずれもが、使えないとの烙印を押して追い出した。
その中には申し訳なさそうにしてくれた人達もいる。
だがそれはあくまでも自分の都合でフレンを加入させたり追い出したことに対する負い目があるからであり、フレンそのものが使えないと思っていることに違いは無かった。
何故フレンの能力を知っても尚、期待を捨てないのかがどうしても分からなかった。
「今はまだ能力が弱いだけだろう。スキルを使い込めば基礎能力が格段に上昇する可能性があるんだだろう。夢のようなスキルじゃないか」
「それに『仲間想い』ですから、私達のことを仲間としてより強く想って頂くことで効果が上昇すると思われます。ポテンシャルは計り知れません」
「それに出会ったばかりなのにもうスキルの効果が出てるってことはオレ達の事をもう仲間だと思ってくれてるってことだよな。フレンめっちゃ良い奴じゃん!」
「うんうん、もっともっと仲良くなりたいって思ってたから嬉しいよ」
「みんな……」
学園に入学して以降、これまで一度もかけてもらったことのない優しい言葉の数々に思わず泣きそうになってしまった。
辛うじて堪えられたのは男の子としての矜持があるからか。
彼女達と一緒ならばスキルを使いこなすことが出来るかも知れない。
ドラポンが言うように、まだ出会ったばかりでスキルが発動するのはフレンにとっても予想外だった。
しかもその効果はこれまで発揮したものよりも大きく感じられたのだ。
この先、彼女達と絆を深めることで新たなステージに立てるかもしれない。
胸の高鳴りが止まらなかった。
そしてこんな自分に優しくしてくれた四人の力になりたいと強く強く願うのであった。
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