第16話


 イングルビーさんと五人の木こり、私と助祭で森に向かっている。

 キャンプから最も近い森はここから見えるが、少し遠い。

 イングルビーさん達が前を歩いて、私は助祭と話をしながら歩いていた。銃を持った四人の内、一人くらいは私に付いてくるのかと思っていたが、彼らも仕事があるようで近くにいない。


「だから言ってるでしょ。私が祈れば水が生まれて相手に当たると爆発するの」


 先ほどから祈りはどう行っているか、その結果、出てきた水は自分で形を想像して

いるかと聞いているのだが、祈れば出てくるとしか言わない。


「そうですか、例えばこれ」


 そう言っていつもよりも地力を多く使い、手のひらに土の球を生み出す。


「私は祈ってもない。形を想像して体に流れる力を使い作っただけです」

「それなら私も。ほら!」


 うれしそうに、水の球を作った助祭はこちらに見せてくる。


「それは祈りましたか?」

「いいえ、祈りが必要になるのはこの後」

「助祭。少し前は祈れば水が生み出されると言ってましたよ」

「そうだったかしら?」


 分かっていてそうしているのか、本当に覚えていないのか。

 最初の怯えはどこかへ行ったようで、助祭は楽し気に話してくる。


「これに祈っていれば爆発させられるの」

「助祭。それはどのように祈るのですか?」


 私の質問にニヤニヤ顔が止まらない助祭。


「やはり戦闘司祭は水教会の力を知りたいという事ね?」

「その必要はありません。ただの確認です」


 そう言って私は土の球に祈力を充満させて、腕に溜めた時と同じように爆発させる準備は整った。

 そして土の球を誰もいない遠くに向かって投げた。


「見ていてください」


 助祭にそう言った瞬間、指向性を与えず、威力の調整を全く行わなかった土の球が爆発した。

 離れているとはいえ、大きい爆発だったから木こり達も足を止めて音の方向を向いていた。


「司祭様、魔物ですか!?」

「いいえ、驚かせてすみません。問題ありませんから進みましょう」


 変異動物を魔物というのは教会員ではない町の人達だ。肉屋は変異動物といって肉を渡しているのだが、魔物と呼ぶ人の方が多い。

 昔から、売れている本の影響だと聞いている。

 実際、私も読んだことがある。その本は旧時代製の設備で作られていた。

 内容は魔物を倒す狩人の話で、人の体よりも大きい武器を使い一人から複数人で魔物を倒す戦闘の描写が多い話だった。


「あれ。どうやったの?」

「どうやったと思いますか?」


 助祭は先ほどの楽し気な雰囲気がなくなり、こちらを問い詰めて吐かせてやると言わんばかりの顔をしている。


「水教会のカミに祈ったの?」

「私はそもそも爆発させることが出来ましたよ」


 出来たことすら忘れるほど、驚いたという事だろうか。


「どうやったの?」

「教えてもいいですが、カミはいないと証明することになりますよ」

「いいえ、カミはいるわ。私がそれを信じているもの」

「それは信仰です。信仰というのは心を保つ一つの手段です。しかし、この証明により保てなくなれば、あなたは助祭として水教会を支えることが出来なくなるかもしれません」

「それでもいいわ。衰退の一途をたどる水教会を昔のように戻せるなら」


 強い覚悟のようなものを助祭から感じた。

 カミという存在に執着しているわけではなく、水教会の存続に執着しているわけだ。


「そうですか。地教会は他の宗教に干渉しません。戦闘を仕掛けて来なければ。干渉しないと言ったことを破って教えますから、戦闘仕掛けてきた場合、殺しますからね」

「もう、分かったから、早く教えたらどうなの。カミはいないんでしょ」

 結構投げやりな助祭だ。信仰がどうこう言っていたのに。まあ、口だけなのだろう。

「教えますよ。祈るような状態が大事なんです。ですからカミ以外に祈ってください」

「何に祈れって言うの?」


 他に祈る対象はないと言わんばかりだ。


「朝食べた肉に祈りましょう。ありがとう、美味しかったよと」

「本気?」

「やってみてください」


 嫌そうな顔をしていた助祭はすぐに目を閉じて、祈り始めた。恐らく肉に。

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