第14話
体は仰け反り、肉までたどり着けていない。
私の目から逸らした視線は体を見て、また反応する。
「左の襟に地教会の紋、腰に二丁の銃。戦闘司祭! どうしてここに⁉」
どうしてそこまで水教会員が驚くのか、分からない。
「戦闘司祭だからここにいるんですよ。水教会の助祭さん」
「私はこのキャンプで教会を建てるつもりです。戦闘司祭はその邪魔をしますか?」
「いいえ。地教会は戦闘を仕掛けられない限り、他の宗教に関わりません。それに私も開拓を手伝い、教会を建てたいと考えています」
「それが邪魔だと理解していますか?」
「いいえ。それが邪魔であるならば、あなたが教会を建てた場合は宣戦布告ですね」
面倒な人と出会ってしまったようだ。
無駄遣いが水教会の特性だと思っていたのだが、噛み付いてくることがあるとは。
手に持った肉を一切れ頬張り、助祭さんの返答を待つ。
「戦闘司祭、それは本気?」
互いに冗談で済ませようと宣戦布告の言葉を出したのだが、理解しているのか?
「助祭さん、話し合いは食事をしてからにしましょう。美味しいものは美味しい時にです」
「それは地教会のカミの言葉?」
「地教会にカミはいません。旧時代の人が記した理想を体現する組織です」
もう一切れ頬張る。
「あら、そうなの。水教会にはカミがいるわ。祈ればそれに応え、戦う力をくれるの」
聞いたことがない、カミがいるなど。祈りに応えるなんて。
「皆さん、離れた方がいいと思いますが?」
助祭の言葉で周囲にいた全員が離れて行った。付いていた四人もすぐに離れた。
もしかして彼らは、その戦う力とやらを見たことがあるのではないだろうか。
対応の早さにそう感じた。
「場所を、変えま、しょう」
残った肉を口に放り込み、私がそう提案すると助祭は好戦的な顔をして言ってくる。
「あら? 地教会の戦闘司祭とあろう者が場所を変えないと戦闘できない、そんなことを言ってくるなんて」
そうでなはい。
そう思いたいのなら、思えばいい。
「そこまで望むのであれば、ここで始めましょうか」
ホルスターから銃が出てこないように、留め具を確認する。
祈れば貰える戦う力。その秘密を知ることは相手を殺すよりも重要だ。
苦手な近接戦闘を行わなければならない。
「こちらから行かせてもらいます」
掛け声と共に助祭が祈り始めた。
指を指の間に入れて手を掴み合わせ、祈り始めた。
その掴み方はその昔、カミと親密になりたいという者達が旧時代の資料から考案した『コイビトツナギ』というらしい。訓練所の座学『他の宗教の慣習』にその内容があった。
通常であれば祈っている今、撃ち殺すのだが、そうはいかない。
祈りが終わらない為、こちらも戦闘準備を整える。
両手を交差して肩に当てる。
その状態で祈力を込めて、腕に充満させる。
火薬の代わりになるような祈力が腕に溜まる。これで相手を殴るときに合わせて指向性を持たせて爆発させるのが、地教会の近接戦闘技だ。
私は指向性を持たせることが抜群に上手いと所長に褒められるくらいだが、威力の調整が絶妙に下手らしい。
人相手だとほぼ爆発させられなくて、もの相手だと過剰に爆発させる。
助祭は準備を終えたようで、こちらに掴み合わせた向けてきた。
「爆水玉」
何か言ってきたが、それよりも助祭の手の先から生まれた水に意識が向いた。
段々と大きくなっていった水は空中で留まった。
そして急に勢いよく、こちらに向かって飛んできた。
迎撃の為に左拳を突き出し、水の球と接触したタイミングで爆発させる。
拳の先から左腕に充満した祈力が抜けて、少し安堵した。
慣れていない頃よく暴発させて腕に傷を作っていたからだ。不思議だったのは腕の中に溜まっているのにも関わらず、暴発が腕の外で起こったことだ。
訓練所の所長もそういうものだと教わっていたらしい。
拳の先から指向性を得た爆発は水の球を飛沫に変えた。
轟音と共に助祭がいた方向へ水しぶきは飛んでいき、私は助祭へ一撃当てる為に走って近づいた。
消えた焚火を通り、ずぶ濡れの助祭の下までたどり着く。
轟音で気が動転したのか、両手を付き出した状態で固まる助祭。
チャンスだと思い、右の拳を付き出すと助祭は両手を挙げた。
「降参、こうさんっ!」
どうにか当てる前に止めて、祈力の暴発を抑える。
「本当ですか?」
「降参!」
右拳を空に向かって振り上げ、爆発させる。
轟音はなったが、助祭は固まっていなかった。
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