第13話
助祭さんが起きてくる前に、川から開拓者たちが戻ってきた。
「皆、焼くのを変わってくれ。俺も川行ってくる」
そう言って肉を焼いていた男は他が行っていた為、許された水浴びをしに向かった。
帰ってきた者達は焚火を囲んで座り、肉が出来るのを待っていた。
「えーと、皆さんにお話があります」
私はそう言って先ほどの男同様に他の宗教のものだという話をした。
そしてこの質問である。
「地教会と水教会の違いはあるんですか?」
「はい。地教会は清貧を貴び、お金は貯蓄しなさいと教えます。もちろん、孤児院の運営費などに献金を使用しますが。水教会は献金で綺麗な服を作ると聞いています。献金を信仰の度合いとして考えるそうです。孤児院はなく、最近は信徒の数も少なくなっています」
「そうですか。信じるものが違って考え方が違うんですね」
「そうです。それより皆さん町から出てきたんですよね。地教会の事、ご存じないんですか?」
出入り口で見張っているし、町を歩けば教会員はどこにでもいる。
「知りません。近い教会が水教会だけだったので」
「そうなんですか。町を歩いていれば、どこにでもいたと思います。町を出る時もいませんでした?」
「司祭様よりも裾の長い服を着て銃を持った傭兵ならいましたが」
「それです。それ地教会員です」
「そうなんですか? 水教会の人は変異動物を狩る傭兵だと言っていましたが」
確かに、大雑把に言うとそうかもしれないが、それだけをしているわけではない。
「私の服も多少違いますが、その人達と同じですよね。地教会の者です」
「分かりました。誤解をしていて申し訳ありません」
「いえいえ、誤解が解けたのであれば問題ありません。それより食事しましょう」
そう言って食事を促した。私も食べていない為、お腹は空いている。
「そうしたいのですが、この肉はよく焼かねばならないらしいので、少しお待ちください」
「分かりました。それでは皆さんのお名前教えてください。私もこれからここの開拓者ですから」
そう言うと座っていた一人が立ち上がり、自己紹介してくれた。
「司祭様、俺は町で木こりとして働いてた、リック・イングルビーだ」
彼から始まり、二十人の名前を聞いたが、覚えるのは少し先になりそうだ。
イングルビーさんに関しては、私の護衛を受ける木こりだろうから覚えた。
「それで皆さんのお名前は?」
そう言って聞いたのは私の後ろにいる四人。緊張する二人と若者の二人だ。
「お、おれはミック・ジェファソン」
「あ。私は、ダスティン・トオノ」
「俺は、エドガー・コンロン」
「ハロルド・バッガス」
最初の二人は緊張する人達、あとの二人が若者だ。
若者の一人はキャンプの長である、ルカ・コンロンの子供だろうか。
ジェファソンさんとトオノさんはガタイがいい。常日頃から体を使って仕事をしているのだろう。
エドガーさんとバッガスさんは焚火を囲んでいる人達よりも体が細く、手を見る限り柔らかそうだ。
「肉が焼けたぞ」
そう言ったのは肉を見守っていたイングルビーさんだった。
イングルビーさんは焼ける肉を切って、葉っぱを持った人達に渡している。
肉を皿代わりの厚い葉っぱにのせている。かさばる食器は道中いらなかったのだろう。
そして葉っぱにのせたまま口へ運び、肉を食べている。
開拓初期はこういうものなのかもしれない。
「ほら、司祭様も」
そう言ってイングルビーさんは葉っぱに肉をのせて渡してくる。
「ありがとうございます」
肉は手のひらサイズで戦闘司祭用の服よりも薄い。それが三枚。
突然合流して飯の文句を言うほどではないが、これは早い内に改善させたいところだ。
私の後ろにいる四人の内、ジェファソン・トオノのペアは肉を貰っていた。
コンロン・バッガスのペアは肉を貰っていなかった。しかし、不満顔ではなかった。
別の食事があるようだ。しかも量は多い気がする。
皆が食事を喜び、笑顔があふれる状況。
そこに水を差すような声が聞こえてきた。
「ねぇ、今日は朝からお肉なの?」
焚火を囲むようにいる私達。それを囲むようにあるテント。
私がいる場所の右のテントから不満顔の金髪碧眼の女が現れた。
焚火を囲む皆は大半が黙り込む。イングルビーさんだけが女の質問に答えた。
「はい、昨日バッガスさんが狩ったやつです」
「私の分は?」
「こちらに」
そう言って私の前を示すイングルビーさん。
私の前には肉を焼いている金属板と同じようなものがあり、その上に葉っぱを皿にして肉が置いてあった。板は焚火の物と同じように柱があり、机のようになっている。
「ちょっと葉っぱの上に置かないでって言ったでしょ」
女はイングルビーさんを見て、文句を言いながらこちらに近づいてくる。
長い金髪、青い目。町生まれの特徴だ。
白い肌、銀色の首飾りと腕輪、体を覆うのは水教会員の服。
水教会員の服は二枚の布からできており、布は体の前と後ろを挟むように縫われている。
ズボンやスカートなどではなく、それ一枚で上下を覆っている。通常、腰ぐらいまでの裾がくるぶしまで伸びている服が水教会員の服だ。
腰で服の上からベルトを巻いて形を整えている。水教会の助祭さんはそうなっている。
強風が吹く日は服が巻き上がらないように、紐で縛れる穴があいている。
靴も華美なものかと思いきや、革製の頑丈そうなブーツだった。見えている範囲で靴紐は見えなかった。
一歩また一歩とこちらに近づいてくる女。
イングルビーさんから目を離し、肉を見て、足元から段々と目線は上がり、そして私と目があった。
「地教会!」
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