第12話
「私は何からしましょうか?」
井戸を掘るのは地力を使えば可能だが、あまり普通でない力は見せないほうがいい。清書にもある。
『異常な力を持つ人を大多数は殺すのだ。隠す方が生きやすい』
「ノックスさんには森から木を伐り出す護衛をお願いしたい」
「分かりました。他にも何かあれば手伝います」
「食事が終われば、声を掛けられると思いますから、護衛よろしくお願いします」
長は私へ割り振る仕事を決めていたのか、これからの予定を悩み付きで話した後、直ぐに頼んできた。
他の四人も特に不満はなさそうだ。
「今日の食事はハロルドが狩ってきた変異動物の肉です。皆と共に食事をして開拓をがんばりましょう」
長はそう言ってテントから出て行った。
他の四人は座ってこちらを見つめている。
「どうしました?」
「ノックスさんは地教会の戦闘司祭なんですよね?」
「はい」
聞いてきたのは若者の内の一人だった。
「水教会の方みたいに何かする度にお金を取らないのでしょうか?」
「ハハハハハッ、私個人であればお金は発生しません。その日の食事と寝床、地教会の教えを話せるのであれば、何も問題ありません」
久々に水教会の名前を聞いた。
町には小さな教会があって地教会と違い、影響力もない。町に何か貢献しているかと言われれば、特にない。
「実は……水教会の助祭の方が教会を建てるべく、私達の開拓に同行しているんです」
「そうですか、お困りですか?」
「はい、あの……」
若者はとても言いづらそうだ。
「その方は水教会の力を使って木材を乾燥させる仕事をするのですが、仕事に対して払うお金が法外な値段なんです」
水教会は教会員も少なく、稼げるような仕事も少ない。
町では切ってきた木を保管して乾燥させていた。お金が掛からないから時間がかかっても安くできるのだ。
「そして私が任された仕事は水教会員と会う仕事なのですか?」
「はい。長がそうしたのだと思います」
「すみません、司祭様。私達の問題に巻き込んでしまって」
緊張していた男の一人が私に頭を下げてきた。もう一人の男も続いて頭を下げた。
「気にすることはありません。どういう形で利用されようと直面するのは私です。相手を知り、対処をします」
「ありがとうございます。お願いします」
再度、右前に座る二人が頭を下げてきた。
左前の若者はそれに対して特に反応を示していなかった。
それよりも私がホルスターに入れたままの銃が気になっていたようだ。
「ノックスさん。その銃、小型って言われてるやつだよな」
「はい」
「見せてくれるか?」
「乱暴に扱わなければいいですよ」
そう言って左のホルスターから銃を取り出す。
弾倉を取り出し、薬室に入った一発を排出していると、疑問があるのか若者が聞いてくる。
「乱暴に扱えばどうなるんだ?」
「殺します」
地教会は町の見回り、警護を自警団と共にしている。
犯罪者が出れば捕まえ、凶悪犯であれば殺す。
その仕事で町からお金を頂き、必要な設備を購入したり孤児院の食事費にあてたりしている。
言わば銃は仕事道具だ。
乱暴に扱われ、壊されれば仕事の続行が不可能になるかもしれない。
それは時間と労力の損失だ。
「乱暴には扱わないよ」
若者は笑いながら受け取り、どこがどう動くか確認していた。
「小型ってどこで手に入るんだ?」
「旧時代の遺跡に残っているのではないんですか?」
実際、地教会の本部から貰ったこの銃は、遺跡にある製造設備を使って作られている。
銃の名前を選択すると箱の中で作られるのを見ることが出来る。
この銃の名前は文字化けして見ることができなかった。
旧時代からある銃は名前が刻印されていたりするが、文字化けしているからか刻印もされていない。使用弾薬を探すのに苦労したと本部の人は言っていた。
「はいよ。ありがとう」
若者は銃口を自分の方に向けて渡してきた。中型を持っているから扱いは慣れているみたいだ。
受け取って作動の確認をして、弾倉を入れる。遊底を引き上から弾を一発装填してホルスターに戻した。
「司祭様。寝る場所ですが、他にテントが無い為、ここで寝てください」
「分かりました」
「もう、食事が出てくる頃だと思いますから、行きましょう」
そう言って四人共椅子から立ち上がり、テントを出て行く。
付いていくと焚火の中心で肉を焼こうとしている所だった。肉を焼こうとしている人は一人だけだ。
「他はどうした?」
若者の一人が聞いた。
「川で体綺麗にしてます」
「それは仕事してからだろう?」
「いえ、司祭様が来て下さったんです。教会の方は汚いのがダメなんです」
「そうなんですか? ノックスさん」
知らない。
聞いたこともない。体が汚れていることはよくあることだ。
地教会員も綺麗にすることを心掛けるが、土へ頭をつけて祈るのだ。そこまで気にはしないだろう。
「地教会で綺麗にしてくださいと言う事はありません。綺麗に保てることはいい事だと考えますが、無理なのであれば構いません」
「司祭様、それは本当ですか?」
「はい。誰から綺麗にしなさいと言われたのですか?」
「ここにいる助祭様です」
「フッフッフッ。他の宗教の教えではそうなっているのでしょう。その方は水教会の方だそうですよ。地教会には関係ありませんから、私相手であれば気にしないで下さい」
早速、水教会の面倒が地教会のものだと思われた。
意識改革は少しずつ、一歩ずつだ。
「水教会の助祭さんはどちらですか?」
「朝食の時間になると起きてきます。そろそろですよ」
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