第10話

 ○

 

 結局、この日は煙の下まで着かなかった。

 段々と木々もまばらになってきて、もうすぐ森を抜けるところで野営だ。

 昨日と同じように枝を集めて燃やし始めると、少しずつ煙が出始めた。

 森に入る前の所よりも北側は木の水分量が多いようだ。


「一人用寝床」


 寝床を作り、背負っている箱から土蜘蛛の足を取り出す。

 残っている足はこれで最後だ。

 土蜘蛛の足を貫く枝を地面に差して、温める。

 多少焦げるが、プシューといって身から汁が溢れ出している。

 足を数度回転させながら、全体的に温かくなるのを待つ。


 その間に昨日同様、弾作りを行う。結局、十発作って終わったのは予想通りだった。


 弾作りが終わり、土蜘蛛の足を食べ始めると昨日よりも筋繊維に一体感があった。

 昨日は一つ一つ噛みきっていく感覚だったが、今日は身全体に一体感があり、身よりも肉という感想が一番近かった。


「今日も今日で美味い!」


 結局、早く食べきりすることがなくなった。

 目に沁みる焚火の煙を近くに感じながら眠りについた。


 翌朝は四時に起きた。

 今日の朝ご飯はない。煙の出ていた場所で朝ご飯を頂きたいものだ。

 服の土を払い、移動の準備をして軽く運動をしてから歩き始めた。


 歩くほどに木が少なくなってきて、一時間で平原に出た。

 目の前には川があり、西に見える遠くの山から続いているようだ。

 川を挟んで奥側の平原に煙の発生元が見えた。

 分厚い布で出来た多くのテントが目に入る。


 テントで見えないが、その真ん中から煙が出ているようだ。

 キャンプから人が出てきたのが見える。

 警戒する必要もない集団に見えるが、警戒しながら歩き出した。


 歩き始めるとキャンプから出てきた人は報告する為だろう、戻ったのが見える。

 キャンプに向けて歩いていると、キャンプからも五人くらいの人がこちらに向けて歩いてきた。


 近づていくと、彼らの容貌がはっきりと見えてくる。

 先頭を歩いている二人の男は銃を持っていた。見たところ単発式の中型砲だった。


 しかし、二人は体に力が入っている。そこそこ歳を重ねているように見えるが、教会員とは緊張する相手なのだろうか。見た目は彫が深く町に居た人達と同じような特徴があった。


 平たい顔の私とは大違いだ。

 緊張する二人の後ろを歩くのは、杖を片手間で付いている男だった。

 歳は先頭の二人と同じか高いくらいだろう。

 足腰がしっかりしているのに右手で杖を突いていて、体には緊張が見られない。

 その男の後ろに二人の若者がいた。

 若者も銃を持っていて先頭の二人と同じ銃だったが、緊張している感じはなかった。

 顔には笑みを浮かべており、何が起こるか楽しみにしている風だった。


 誰も彼もが町の人達と似たような顔をしていた。

 川に着くと対岸で五人が待っていた。


「司祭様、私達のキャンプに御用でしょうか?」


 私に話しかけてきたのは杖を持った男だった。


「私は戦闘司祭アルバート・ノックス。キャンプの煙が見えたのでこちらまで歩いてきました」


 私の事を司祭と認識していることから、何を求めて来ているかは知っていそうだ。


「そうですか、私達は開拓者として町から出た者達でございます。死者もなく森を越えましたので、この場所を開拓し、村にしていこうと準備をしていた所です」

「そうですか。であれば、その開拓、私もお手伝いさせていただきたいと思います」

「いえいえ、司祭様のお手を煩わせるなど、とんでもない」

「安心してください。私の戦闘司祭としての役目は教会の教えを広める事、そして教会を建てていただくことです。開拓はまたとない機会です」


 私は清書の内容を実行することを良しとしている。


『他人の目を気にしたばかりに為すべきを為せなかった。自らの願いは他人の視線よりは明らかに重い』

 私は他人の目を気にしない、ように動ける。


「そうですか。しかし、私達は教会の教えを多少は知っています。知らない方の方が重要なのでは?」


 地教会員の戦闘司祭は地力と祈力を使い、嘘を見抜くことができる。

 地力を使い足元から脈拍を測り、祈力を目と鼻に集中させて五感を強化することが出来る。

 目で相手の挙動を見逃さず、鼻から汗のにおいを感じ取る。これが祈力消費の最も少ない嘘の見抜き方だ。


「あなたがこのキャンプの長をしている方ですか?」


 先ほどから私と会話している男。鼻の下に髭を蓄えている。


「はい。ルカ・コンロンと申します」

「コンロンさん、私はここで開拓のお手伝いをしたいのですが、問題ありませんか?」

「え、ええ。問題はありません」


 顔もそうだが、脈拍に乱れがあり、脇に汗をかき始めたのか年相応のツンとするような臭いがした。


「そうですか。それでは、オホェッ、お手伝いさせていただきます」


 五感を強化した代償に臭いによって咽てしまった。

 五人は首を傾げていたが、特に気にならなかったようだ。

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