第9話


 ○


 翌朝、起きたのは四時。

 陽が少し出ているのか、遠くの空が暗い紫色をしている。

 ベルトを付けて、厚手の布を箱に片付ける。

 箱から土蜘蛛の足半分と水筒を取り出して、食べ始めた。

 焼きたての時は柔らかく少し弾力があって美味しかった。

 しかし、今は冷えて弾力が増し、美味しい。

 朝はたくさん食べられないから、もう半分は今日の夕食になるだろう。


 教会本部で見ることのできた資料によると昔は動物がいて、それらが変化したものを変異動物と言うようだ。

 今は教会があるところでは教会員が変異動物を狩り、教会が無い所では変異動物を狩ることで生活をしている者達が狩っているようだ。

 訓練所で教えられた内容では動物はいないという事と、他人に危害を加えない変異動物はほぼいないとの事だった。

 変異動物を狩る者達は近接武器で倒す事も教えられた。銃は町に居る人達も持ってはいるが、弾によって威力が違う事、金額が高い事からお金を稼ぐ手段としては使いたくないらしい。


 狩る者達は集団で変異動物を狩る。

 一般に彼らは隊と呼ばれ、隊の名前にはリーダーの名前が付くとも教えられた。

 食事を終えて、軽く運動して身だしなみを整える。

 金属の箱を背負い、誰かと会えると良いなと考えながら森の中を歩き始めた。

 私が向かう先はまだ、開拓が進んでいない地域。森がいつまで続くのかも分からない。

 他の方角も所々にあるが、町から少し離れるとそうなるのは東側だけだ。


 旧時代、世界中で爆発が起きた。

 人々は散り散りになり、どうにか生き残った人達は手を取り合い地上に出られる日を夢見て生きた。

 そして地上へ出られるようになり、町をつくった。

 それが私の住んでいた町だ。


 訓練所で学んだのは地下で生き続けられる場所が他にも多くあったことだ。実際に教会本部の資料は旧時代の技術で出来ているものも多く、資料室に入って自分の名前を言うと壁一面に閲覧可能な資料が表示される。

 私の任の中には、このような旧時代の技術を集めることも含まれている。


 どれだけ私にすることがあっても人と会わなければ達成しようもない。

 歩き疲れたのと、良い時間という理由で森の中の少し開けた場所に座った。

 ぽっかりと空いた木の間から空が見える。

 もう真上にある太陽が雲の隙間から光を射している。

 水筒を取り出して少なくなり始めている水を飲んでいると、雲が太陽に掛かり光が和らぐ。


 そして見えていなかった煙が見えてきた。

 人だろう。

 目指す方向が分かった。

 特にお腹が空いていなかった為、朝残した半分を食べて再度歩き始めた。

 歩き始めて数分で珍しい相手に出会った。


 変異植物だ。

 町の周囲では全く見たことがなく、訓練中も一回しか見たことがなかった相手だ。

 変異植物の木人という。

 名前の通り、人の形をした木だ。

 胴はそこそこの太さを持つ木で、関節を大量の蔓が担っている。

 木人は倒せない変異植物で体のどこを撃っても意味がない。


 それに木人は近距離攻撃をする変異植物だ。銃を撃つ隙は少ない。

 木人は私の存在に気付いたのか、重い足音をさせながらこちらに走ってくる。

 距離はあるが銃を撃つよりも早い対処法がある。

 走ってくる木人に対して半身になり、攻撃を待つ。

 動かない相手に対する木人の攻撃は、重さを活かしたタックルだ。

 走ってくる木人を避けて、上がり切った右足部分を蹴って転げさせる。

 倒れた木人に急いで駆け寄り、脛部分を持って何度も回転させる。膝を担う蔓を千切るのだ。


 ナイフで切りたいところだが、力が強い為、両手で持って動きながら千切る方が速い。

 回転させ始めた時はものすごく重いが、段々軽くなってきて簡単に千切ることができた。

 木人が動き出すまでの間にどこか一部分を取ることが出来れば、木人を倒せる可能性が出てくる。

 木人の右足を投げ捨てると、木人は片足でどこかへ向かい始める。


 その後を付いていくと、森の中でひと際目立つ変異植物があった。

 赤い蕾が私よりも高い位置にあり、森にある木の幹と変わらない大きさの茎を持つ植物だ。

 この花を目当てに木人は来ていたようだ。


 木人は倒せない変異植物だが、間接的に倒す事が出来る。

 木人は分体変異植物だ。

 木人を作り出す本体があって、今回の本体はこの赤い蕾の変異植物のようだ。

 初めてみた訓練時は異臭を放つ木だった。

 片足で蕾に向かって行く木人を再度転がして、本体を切る時間を稼ぐ。


 蕾に近づくと花が咲いて花弁が開いた。開いた花弁がこちらに向きを変えて花の内部を見せてくる。

 異臭と共に見えたのは花弁にある大量の棘、茎と花弁の境目に二枚の舌、そして茎の中の赤い肉。何の肉かは分からないが、随分と水気があるように思えた。目が良い所為で見えてしまう。


 この花は外部からの栄養と地中からの栄養で生きている。

 どうやって栄養を摂っているか分からないが、茎を切れば死ぬのは分かっている。

 こちらに花弁が向いて全く動かない。木人が持ち上げて食事をさせるのだろうか。

 動かないならばと箱を下ろし、ナイフを取り出して茎を切る。

 切っている途中で血液のようなものが大量に流れ出てきた。


 戦闘司祭服を無駄に汚すわけにはいかない為、収まるまで待って腕を捲ってから根に近い茎を切り始めた。

 木人は立ち上がりこちらに来ようとしているが、立ち上がる度に転がしている。

 訓練所で教官が言っていたように、足があれば足で動こうとするようだ。

 何度か木人を転がして大きな茎をナイフで一周切ると、途端に花弁が閉じて茎が萎れた。


 切った茎から大量の変異動物の死骸が流れ出てくる。

 残った茎から私を攻撃する為か、必死に動いているがそもそも長さが無い為、意味がない。

 木人の本体は様々な変異植物になることから本体としか呼ばれていない。

 同じ種の変異植物よりも生命力が強く、栄養を多く必要とする。

 茎から流れ出てきた死体と血液のようなものが地面に浸み込むと、それを栄養として生きるかもしれない。


 戦闘司祭であれば、その問題は楽に解決できる。

 どのくらいの範囲を対象にするか確認して地力を使う。


「範囲陥没、地面強固」


 範囲陥没という私が決めた言葉によって、死骸ののっている地面が少し陥没する。

 そして地面強固によって、地面が固くなり水分のしみ込まない地面になる。

 戦闘が終了し、忘れていた木人を見ると地面に倒れていた。


 この状態で動くのか、判断はつかない。

 木の時は本体を切れば、動かない状態だった。

 今回は私一人で戦闘なので極力、心配事は減らす事にした。

 木人の傍に近づき、もう片方の足を何度も捻って千切り、放り投げる。

 それを千切れる箇所すべて行い、最後に頭を放り投げた。


 今度こそ戦闘終了だ。

 時計を見ると時刻は二時だった。

 大体一時間くらい木人を相手にしていたようだ。


 目的地は煙の出ていた所で、木人の本体はそこから少しそれた所にあった。

 木々の間から煙を見つけようとするが、そこからは光が差し込んでいて全然見えない。


 仕方なく地力を使い、元居た位置まで戻る。

 地面から私の歩いた位置を特定して戻っていく。

 結局、戻るのに十五分かかり、地力も余裕はあるが消費した。


「今日は十発くらいしか作れなさそうだな」


 空を見上げ煙の確認をすると、まだ出ているようだった。

 色が黒かったりするわけじゃないから、誰かを呼んでいるわけではなさそうだ。

 今度こそ目的地に向かい歩き出した。

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