第8話

 地教会員であればこういう時の寝床の準備はすぐに終わる。慣れていればだが。

 両手を地面に置いて、自分の決めていた名を言う。

「一人用寝床」

 すると、一人の人がどうにか潜り込めるぐらいの箱が土で出来あがった。

 地力というのは地面に関する力。

 地教会員である必要はなく、出来る人はできる。

 それをいつでも使えるように求められるのが戦闘司祭だ。

 祈力と同じく地力も有限だ。

 地力はほとんどの人が使えることもあり、戦闘司祭の適性を見る時は長時間使い続けられる力が求められる。

 偶に地力の適性が無い人は教会で先祖返りとして保護され、一生を働くこともなく自由に過ごすことができるという。

 狭い寝床へ箱に入っている厚手の布を敷いていく。

 両脚の間に挟み、寝床に入って敷く。狭すぎて顔から入って襲われたら終わる。

 それから焼けるまでの間ですることがある。

 弾作りだ。

 戦闘司祭が旅を続けられるのは弾を自給できるからだ。

 銃が壊れた場合は近くの町に寄らねばならないが、壊れることはほぼない。

 弾を作ろうとしていると、地面に刺してあった土蜘蛛の足がジュッと音を立てた為、向きを変更して満遍なく火を当てる。

 地面に垂れる汁が今すぐにでも食べたいと思わせるが、まだ待たねば。

 気を取り直して弾を作る。

 弾の作製には金属製の小さな箱を使う。使わなくても出来はするが祈力と地力の消費が激しい。

 小さな箱を開けると、その中にはさらに八つの箱がある。

 今日使うのはその内の四つで、箱の表面に五と七の数字とどこの部品かが刻まれている金属製の箱だ。弾丸、薬莢、発火金、発火蓋の文字が刻まれている。

 箱は蝶番で繋がれており、開閉が楽に行える。

 四つの箱を開けると、それぞれの型がある。

 地面から土を取り、型に押し込む。

 箱を閉じて祈るように意識を集中する。

 この時、祈力と地力を同時に込めなければならない。

 開くと、いつも使っている弾と変わりない色をした部品が出来上がっている。

 これを四回繰り返し、弾丸を薬莢へ、薬莢に発火金と発火蓋を押し込むように手で合わせる。

 そして祈るように意識を集中して祈力と地力を込めると、弾が出来上がる。

 旧時代は火薬というものを湿度管理して使っていたようだが、現状は必要ない。

 訓練で聞いた内容によると祈力が火薬の代わりをしているそうだ。

 地力は多くあるが、祈力に限界が近づき始めた為、二十発目を作り切って今日は終わることにした。

 もちろん、土蜘蛛の足が焼けたからというのも理由の一つだ。

 一発作る度に少しずつ回して入念に火の管理をしていたこともあり、出来栄えは最高だ。

 最初あれだけ垂れていた汁も周りがカリッとしていることもあり、ほとんど出ていない。

 今日食べる足先を手に取って食べる。前に祈る。

 これからの旅を健康に、そして任を全うできますように。

 そして祈り終わればすぐに食べる。

 噛むと真っ直ぐな筋繊維一つ一つを噛みきっていくような感覚がある。他の変異動物より柔らかくて弾力がある。

 カリッと焼いて出てこなかった汁も、噛むごとに口の端に付くほどあふれ出てくる。

「うまいっ‼」

 足が大きいから食べても減るのは一部だけ、段々お腹が満たされてペースが落ちる頃には、後二口ほどになっていた。

 美味しいものを食べている時、戦闘司祭になってよかったと思う。

 町で働いているだけでは格別の美味さを持つものを食べられない。

 戦闘司祭の訓練で教官から、変異動物の美味しい食べ方を学んだ。

 二口を一口で頬張り、水筒の水を流し込み、残りの足を金属製の箱に入れる。

 今日に関してはやることをやった。

 腕に付けている時計を見ると八時頃だった。

 ベルトを外して護身用だけ持って他を金属製の箱に入れる。

 焚火の薪を少し散らして自然消化されるのを見ながら、狭い寝床で眠りについた。

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