第5話
○
翌朝、戦闘司祭服に着替えて身支度を整えた。
戦闘司祭服は通常の司祭平服と違い、丈がお尻の少し上までの動きやすい服装になっている。また、靴も革靴でなくショートブーツになっている。革も分厚く頑丈な造りだ。
教会で最後の祈りを済ませた。
土の祈り場で両手と頭を土に付けるのが、地教会で最上の敬意を表した、祈りの体勢だ。
旧時代には土下座と言われていたらしい。
最上の敬意を表す礼だと、教会員となった直後に教わった。
「みんな、行ってきます」
孤児院の玄関で寝起きの皆に見送られる。
「アル、お前がするのは難しい事だ。無理だと思ったら帰ってきていいからな」
「院長、私は挫けないから戦闘司祭に成れたんです。無理でも頑張りますよ」
「そうか。頑張ってこい」
「はい。司祭オスカー・ガルシア、行ってきます」
「フフッ。お前はそういうのが好きだよな。戦闘司祭アルバート・ノックス。いつか会おう」
院長と握手を交わして、玄関に置いていた箱を背負う。金属製の箱に背負う為の紐が付いただけなので背負いづらい。
皆に見送られ町の東出入り口に向かう。
この町は教会本部を中心に広がっている。
孤児院があるのは北側で、教会は北の地教会と町民からは呼ばれている。
町は広く、住民も多いがそれぞれが農地を持っていることもあり、労働力を必要としている。その為、町の存在を聞いてやって来た渡民を受け入れる準備は整っている。
戦闘司祭として活動する私は、教えを広め教会を建設してもらう任がある。
しかし、教えを広める対象が少人数のグループや移動しながら生活している者達の場合、町への移住を進める。
教えを広めるコミュニティは大きいほど、他のコミュニティにも波及しやすいからだ。
町の端を囲む柵に沿って歩く。柵の外は平原が広がっている。
柵に沿って歩き続けていると東出入り口に着いた。
東出入り口には町の自警団員一人と教会から派遣された助祭が門番を務めている。
「おはようございます、アルバート。お気をつけて」
「おはよう、アメリア。お仕事頑張って」
助祭の名前はアメリア・スチュアート。
北の地教会に教会員となるべく来た女の子だ。
私が教会員としての知識を教え、教会員として必要な最低限の武力を教えもした。
一人しかいない私の教え子だ。
助祭となり、慢性的に人手不足の教会本部に勤め、門番として東出入り口へ派遣されている。
門番に必須の上下二連中型砲を持っている。
小さな金属球が無数に入った弾を発射する門番用の武器だ。
出入り口から少し離れた為、振り返ってみると門に立つ二人のどちらが簡単に倒せそうかと言われたら、自警団員の方だった。
武器の詳細を知らなくてもアメリアの方が威圧的だ。
しばらく見ていると出入り口は見えなくなった。
上り坂から下り坂に変わったからだ。
ここからは、ただ歩き続けて人との出会いを待つだけだ。
この先は平原がある程度続き、森になっている。木を切る為に入る人がいるから浅い所は道がある。
しかし、年々その浅い所が遠くなっている。木をたくさん使うようになったからだ。
今日の目的地は森の手前まで、木こりが偶にキャンプをしているらしいが今日はどうだろうか?
歩き続けて三時間。森はまだまだ遠い。
歩き続けて疲れてきた為、道の端に箱を下ろして水筒を取り出す。
昨日の内に水筒には井戸水を入れてある。この水筒で二日は保つだろうが、水源があればその都度補充しなくてはらなない。
どれだけ戦闘力があっても、生きるのに必要なものを欠いては負けるのだ。
それと今日の食事は運が悪ければ長期保存可能な旧時代の糧食になるだろう。
町にいる時は焼きたてのパンや鮮度の良い魚、食べ頃になった変異動物の肉がいつでもあった。
訓練の時、二日絶食しての戦闘訓練もあって、私はいい環境にいたと実感した。
これからは食事の心配もしなくてはならない。
服に関して戦闘服の予備はある。下着も三枚ずつある。
歩き通しでこれから生活をするわけだが、寝る場所は問題ない。
旧時代は移動手段も今とは違っていたと資料では見た。
金属製の箱に乗る『クルマ』、金属製の従順な鳥『ヒコウキ』、金属製の従順な魚『フネ』。私が気になっていたのは金属製の従順な獣『バイク』だ。アクセルという器官を動かすと走り出すらしい。
今の移動手段は歩き、変異馬、変異牛しかない。
変異馬と変異牛は動けば餌を大量に必要とする。だから基本は動かさない。
歩きが最も長旅をしやすいのだ。
箱の中に水筒を仕舞って背負う。まだ見えない森に向かって歩き出した。
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