第3話
「ブラッド、私はウィルの所に行ってくるから、ダレルさん家に行って何があったか説明してきなさい。これからどうしたいかも言うんだ。分かったね」
「分かったけど、ウィルは⁉」
ようやっと自分のしたことがどういう事態を引き起こしているのか、理解し始めたようだ。
「私が連れて帰ってくる。さあ、行っておいで」
そしてブラッドがその場を離れるまで、待ってから私も動き出した。
「すみません」
そう言って声を掛けた相手は、門番をしている自警団員だ。
「はい、どうしました?」
「ウィルという男の子が川の方に行ったみたいなのですが、見ましたか?」
「いえ、出入りは私達が確認していますので、ないと思います」
自警団員は不思議そうな顔をしていたから、実際に知らないのだろう。
「そうですか、ありがとうございます。後、お願いがありまして、中型砲の弾一発貰えませんか?」
「地教会員の方であれば、もちろんです」
「すみません」
そう言って自警団員から弾を貰い、護身用の銃である、回転弾倉式半自動小型砲に装填した。
右手に護身銃を持ったまま、門を出て走り出す。
偶に状況を把握しようと意識を少し集中したくなるが、動きを止めるとそれだけウィルの下に到着するのが遅くなる。
門の前で意識を集中させ感じたウィルの場所に近づく、足音が聞こえてきた。
護身銃を胸の前で持ち、戦闘へ移行できる状態にする。
その状態で一歩足音の方向に近づく。
戦闘司祭が圧倒的武力を持つ理由は力にある。
戦闘司祭としての適性に、体力、気力、祈力、地力がある。
体力と気力は生き抜く力と持久力のようなものだ。
祈力は武力として応用の利く力。地力は地面に関する力だ。
私が踏み出した一歩は目に見えない波紋のように広がっていき、視界が遮られた場所でも私の視界の代わりをしてくれる。
足音のした方向に走り続けていると、波紋が、疲れて走れなくなりそうなウィルを見つけた。
木を草を避け、ウィルのいるところまで走ると、ウィルに長くて太い針を突き刺そうと迫る飛行している変異動物が見えた。
丸々として胴体に埋まるように付いた顔、目は遮光用の眼鏡をしているように大きく黒い。
口は長くて太い針がついている。丸々とした胴から生えた羽は三対六枚。小さく薄い羽が目に見えないくらい小刻みに動いて飛んでいる。
ウィルに針を突き刺そうとしている変異動物の名前は青ゴミ鳥。羽の色から青という名前になった。ゴミというのはこの動物からは有用なものが何も取れないからだ。
ウィルの傍まで走り、青ゴミ鳥に向かって貰った弾を発射した。
小さな無数の球が青ゴミ鳥の体に穴を開けた。羽根の付いていない翼に穴を開け、丸々とした胴にも穴を開けた。
青ゴミ鳥の体から透明な液体が出て、地面を濡らすと咳が出そうな臭気を発し始めた。
針を突き刺した時に出す消化液だ。突き刺した箇所から相手を溶かして啜ることで食事をする。恐ろしい生態を持つ変異動物だ。
子供にとっては恐ろしいが、大人は気付きさえすれば対処できる変異動物だ。空を飛ぶ以外の移動方法がないのにもかかわらず、移動が遅い為、叩き落して踏めば殺せる。
今回は大事を取って銃を使った。
「ウィル、大丈夫か?」
地面に尻を着いて動かないウィルに声を掛けると放心状態だった。泣いてここから動けないよりはいい。
「ウィル?」
「え、え。ア、アル」
「怪我無いか?」
「うん。ない」
全く頭が働いてないのか、ボーっとしている。
「立てるか?」
「うん」
息は荒いが動けるようで、直ぐに立ち上がった。
それから全く動く気配がない為、ウィルをおんぶした。
減り始めた地力を使い周囲を警戒しながら、歩いて川を下る。
「ウィル。どうして、町の外に出たんだ?」
「もっといい石見つけに、川のぼった」
人に背負われて安心したのか、話す余裕が生まれてきたようだ。
「ブラッド、石捨てられたことを怒ってたぞ」
「もっといい石見つけたから」
「ブラッドにとっては大切だったんだ。ウィルどうしたらブラッドは許してくれると思う?」
私も子供の頃は自分に都合のいい考えばかりをしていた。院長によく怒られて渋々謝っていた覚えがある。
「あやまる」
「誰に対して、何を謝るんだ?」
人が何に対して怒るか、把握しないと人間関係は上手くいかない。
「ブラッドに。石捨てたこと」
「そうだ。謝りながら新しく取った石渡せば許してくれるだろう」
「ホント?」
「たぶんな。後、ブラッドと二人でウィルのお父さんお母さんに怒られるのも覚悟しておくように」
「怒られるの?」
「当たり前だ。外出ちゃダメって言われてるのに。柵から出たのか?」
「うん」
「みんなに謝るようにな」
そう言って返答がない為、ウィルを見ようとすると規則的な呼吸音が聞こえてきた。
寝てる。極度の緊張で疲労が襲ってきたようだ。
まあ、この後、そこら中から怒られるわけだから今は寝かしておこう。
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