第6話 Kシステム


 竜の鱗をコアにして変身者は怪人。

 そんな異例とも言えるKシステムの運用が許可されたのは、猫型怪人が討伐班に所属してから一日後の事だった。

 ケンは激怒した。

「おい、ふざけんな博士! 怪人にKシステムを使わせるだと?」

 美鈴は肩を竦めて言う。

「最高の実験材料じゃないか」

「モルモットは俺で十分だ! 化け物はいらない!」

「まぁそう言うな、これはKシステム全体の強化に繋がる事だ」

「竜の鱗だけ奪えたならもうアレは用済みだろうが!」

「それがそうともいかなくてね、竜の奴、鱗に細工をしたらしい、猫怪人以外の誰にも、もちろん君にも、あの鱗をコアにしたKシステムは適合しなかったんだ」

 それを聞いて黙り込むケン。

 美鈴は苦笑いしながら。

「私も不承不承なのだよ。しかし進歩に犠牲はつきものだ」

「犠牲?」

「ああ、あの猫、竜種の反動バックファイアに耐えられて――三日だろうね」

「……」

 だから哀れだとか、思わなかった。

 むしろざまあみろとケンは思った。

 しかし、どうにもケンには猫型怪人がそれさえも許容しているように思えて、余計に苛立った。

 猫型怪人は言う。

「実験が成功したら真っ先に竜の丘に向かう」

『構わないとも。我々、人間に危害を加えないのなら、どんな行動も許そうじゃないか、これは討伐班の統括の意見と取ってもらっていい』

 もはや猫に階級や地位などはどうでも良かった。

 力さえ手に入るなら。

 それで良かった。

 ベルト型のKシステムを装着する。

 カウントダウンが始まる。

 5、4、3、2、1。

「――変身」

 猫型怪人が竜の鱗に包まれる。

 頭まで覆われた時、その姿は竜を模した騎士甲冑の様だった。

『素晴らしい!』

 美鈴が歓喜の声を上げる。

 ケンが数値を見て驚く。

 その出力は甲虫型の百倍はあった。

 しかし、その時、猫に注ぎ込まれていたのは竜種の力だけではない、記憶、意思、そして膨大な歴史だった。

 世界の一端を垣間見た彼は発狂寸前まで追い込まれるが、それを強靭な精神力で押し留めた。

『――お前はバランサーだ』『お前が選べ』『最強種なのだから』

「うるさい黙れ!」

 竜の騎士は翼を広げる。

 それこそ、最強種の証。

 翼竜の強き羽根。

「俺は俺のやりたいようにやる!!」

『――それで――いい――』

 力に飲まれる事も意思を乗っ取られる事も無い。

 ただ力のみを抽出した。

 完全な成功例。

 さあ今こそ決戦の時。

 小高い丘の上。

 竜種はただずんでいた。

 そこにはアルカディアの三幹部の姿もあった。

 飛蝗、鍬形、蟷螂。

「今日は客が多いな、お前らは待ち人じゃないんだが」

「竜種よ、今日こそその力貰い受ける」

「よもや猫などという雑魚に逆鱗を渡すとは思わなかったぞ」

「この憤り、どこにぶつけようか」

 竜はただ笑う。

「ああ、いいさ、今日はいい祭りにしよう。最期の仕上げだ」

 怪人と人間。

 結局は力ある者が生き残る。

 S班の車が到着したのは。

 三幹部と竜。

 その激突の瞬間だった。

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