第3話 アルカディア


 その組織は怪人で構成されていた。

 名をアルカディア。

 竜に賛意を示した「弱者」の組織である。

 表向きは。

 その実体は飛蝗の怪人を統領の一人に置いた「強者」の組織である。

 「飛蝗」「鍬形」「蟷螂」の三幹部を抱え、人間を「狩って」いる。

 今日もまた狩りが始まる。

『こちらG班! 応援求む! 鍬形が現れ――ザザザッ』

『こちらF班! 蟷螂が! 蟷螂がががザザザッ』

 討伐班本部。

 指令室兼通信室では指令である木戸大輝きどたいきが歯噛みしていた。

 補佐官が耳打ちする。

「S班を出しますか?」

「S班は対竜用の虎の子だ……迂闊には動かせん」

「しかし敵はアルカディアと名乗り、堂々と統率を取って動いています」

「分かっている!!」

 机を叩く木戸、補佐官は引き下がる。

「こちらとしても打つ手は尽くしているんだ……」

「……本当にそうでしょうか」

 部屋に入って来る男が一人。

 研究員の美鈴義景みすずよしかげだった。

「美鈴研究員……何の用だ」

「貴方はまだ『Kシステム』の実施を認可していませんね」

「それは前にも話したはずだ! 怪人に頼ったシステムなど破綻していると!」

「果たしてそうでしょうか。最後の一匹になるまで狩り尽くせばいい。そういう話では?」

 木戸は美鈴を睨みつける。

 彼はそれを意にも介さずアタッシュケースから腕輪型のデバイスを取り出す。

「……それがKシステムか」

「ええ、先日、S班が狩った甲虫型怪人から作った特注です。かなりの戦力になるかと」

「我々の急務は、宇宙から飛来する怪人化現象の阻止であり、人間の怪人化ではない!」

「これは怪人化などではありませんよ。怪人を見に纏う。ただそれだけの事です」

「同じ事だ!」

 話は平行線を迎える。

 そして通信が入って来る。

『鍬形がC地区に進出! 繰り返す! 鍬形がC地区に――』

「さあ、どうします」

「……装着者は誰がする。言っておくがS班からは出さないからな」

「ええ、こちらで適正者を用意してあります」

「勝手にしろ」

 深々と頭を下げ美鈴は退出する。

 それに対し木戸は思い切り舌打ちをした。

「怪人を倒すために怪人の力を使う? それではあの竜と何が違うというんだ……!」

 実験室。

 そこには一人の青年。

「出番だ。ケン」

「やっとか、ヨシカゲ」

「待たせて悪かった。目標は『クワガタ』それ以外は殺すな」

「了解だ……やっと暴れられる」

「Kシステム、モデルビートル、起動5,4,3,2,1」

 ケンの姿が変わっていく。

 それは機械の人型甲虫。

 そうとしか言いようがない代物だった。

『結構馴染むなぁ』

「そういう風に調整したからな」

『じゃあ行って来る』

 機械の甲虫は羽根を広げ飛び立った。

 実験室の天井が開き空が見える。

「今日は雲っているな」

 美鈴がそんな事を一人ごちた。

 C地区に到着するケン。

 そこは惨劇の跡だった。

 あちこちにクレーターが穿たれ、そこにひしゃげた人の死体が転がっていた。

 その中心にいる一体の怪人。

『お前がクワガタ?』

「……なんだお前は」

『説明する前に死んでくれ。面倒くさいから』

 一足飛びに蹴りを放つケン、鍬形はそれを受け止めると吹き飛ばされた。

『一発じゃ仕留めきれないか!』

 地面を転がる鍬形。すぐさま起き上がり臨戦態勢を取る。

「人間か!」

『今更!』

 拳と拳がぶつかり合う。互角、かに見えた。

 砕ける鍬形の拳。

 そのまま回し蹴りを首に喰らわせるケン。

 骨まで折れる音がした。

 そのまま土煙を上げて地面を転がる鍬形。

『これが三幹部? 弱すぎないか?』

「ああ……少し手を抜き過ぎた……」

 起き上がった鍬形の様子がおかしい。

 ソイツの身体は赤熱している。

 そして殻は溶けだし新たな身体が現れた。

『へぇ!』

第二段階フェーズ2だ……!」

 高速で動く鍬形、羽根を広げ一気にケンへ迫る。

 そこで通信が入る。

『下がれケン。深追いするな』

「面白くなって来たんだぜ? 標的は鍬形のままだ」

『竜の飛来を確認した』

 その一言でケンは一気に己をクールダウンさせ、鍬形をいなすと羽根を広げその場を飛び去った。

 空中で遠巻きに竜とすれ違う。

 火球が飛んで来たが寸でのところでかわした。

 鍬形も竜の気配を察知して逃げたようだった。

 竜。

 奴は間違いなく最強種であり。

 この都市の行く末を決める者だった。

 今は、まだ。

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