第34話 VS果物ナイフの勇者
振り返ると、血を払った果物ナイフを握っている花美と目が合う。
刃物でも、果物ナイフと言う武器で私は少しだけ思考が止まった。だって、ねぇ。
こんなおかしな武器を扱うって⋯⋯これは確定として良いだろう。
自称神はこの事が分かっていたから黙っていた可能性もある。
「神器⋯⋯勇者か」
「⋯⋯ッ! こ、これは驚いたな。なんで知ってるのさ。世界の仕組みをさ」
知らん。断じて知らん。本当に驚いた素振りをしないでくれ。
世界の仕組みなど興味も無いし知る事も無かった。
だから、そんな知っている前提で話さないで欲しい。
一から、きちんと、順番に、話してくれ。多分聞かないけど。
「まぁいいや。ズタズタにする事には変わりないしね!」
そのまま突き進んで来る。相手が勇者なら、話が変わって来る。
これだった、ヒノを使う、つまりは本気で戦って良いのだ。
「防げ!」
「ぬっ!」
喉を狙って薙がれたナイフは【硬質化】したメタリックな枕が防いだ。ヒノは近くに潜んでいたのだ。
金属音が響き、火花が散る。
「まさかっ!」
「私は勇者じゃ無いよ」
ヒノを握り、そのまま片手でフルスイングする。
大きくステップを踏まれて避けられる。
自称神共は何をしているんだろうか。
ヒーロー大好き正義の為に行動する脳内お花畑のやばい女、人をいじめ虐げる事が好きで好きな男の細かい所まで調べて覚えるやばい女、自分さえ良ければそれで良い自己中で家族思いな女、センスが無い。無さすぎる。
「伸びろ!」
虚空に向かって大振りで振るわれたナイフの刀身だけが伸び、私の喉を狙う。
鋭く狙われた喉を守る為にヒノが動く。前傾姿勢と成り、私は駆ける。
「レベル三桁なら、多少の無茶は問題ないよねぇ!」
「それはこっちのセリフだよ!」
【硬質化】した枕と果物ナイフが同時に動き、衝突する。
互いに殺傷能力の乏しい道具なのだが、繰り出される衝撃は武器と武器をぶつけ合ったのと同等。
果物ナイフはそのまま伸びてしなり、不規則な動きで私の足を貫く為に進む。
「それはダメっ!」
スカートが貫かれたらダメだ。
ヒノを足場に、高く跳躍する。打ち合っていたヒノは通常サイズに戻り、私の手に収まって空中に停止する。
「【閃光直弾】」
果物ナイフの先端を私達に向け、刀身に光を集めて先端に集中させる。
それを解放する様に解き放ち、一気に加速して突っ込んで来る。
「広がれ!」
ヒノを空中でグルンと動かして広げ、盾としてその光を防いだ。
破壊されない特性を利用した盾は最強だ。
「ドーン!」
視界が塞がったのを狙い、私の横に一気に飛来して来る。
人差し指を向け、そこから一瞬で光を放った。
「ドーン」は人差し指だけで十分な攻撃。一撃の威力は平均的で射出速度が速い。
しかし、指を向けると言う動作が必要な為にヒノの飛行能力なら避ける事は余裕なのだ。
「らっあ!」
そのままの勢いを利用してヒノをフルスイング。
空気を切り裂くメタリックな枕は花美の胴体を捉えた。
力はスピードで強くなる。さらに硬くも成っている。
ある程度の攻撃には成ると思ったのだが、果物ナイフを伸ばして、それを鞭の様にしならせて受け流した。
「ズドン」
受け流し、回転して、銃の形をした手を向けて来る。
人差し指の先端に光を集中する為の時間により、「ドーン」よりも射出速度は遅い。
だが、発射した後の速度と威力はこっちの方が断然に高い。
しかし、前動作が長いのは、空中戦に置いて圧倒的に不利なんだよ。
「ちぃ!」
「くらぇ!」
空高く再び飛んで避け、回転してヒノを叩き落とす。
受け流しが間に合わない花美は防御姿勢をすぐさま取り、地面に向かって加速して落下する。
衝撃などは消したのか、平然と着地している。
「めんどくさいなぁ」
果物ナイフをクルクルと手で回転させながらそう呟く。
相手は私よりもダンジョンを攻略している日数が上だと考える。
そうすると、神器である武具も相手の方がレベルが上。
それだと、当然スキルは相手の方が多いし強いだろう。
でも、本当にそうなのかな?
「余所見してんなよ!」
「してねぇよ!」
下から振り上げられる果物ナイフを足で押して塞ぐが、そこからスピードを落とす事無くするりと抜けて上って来る。
「ぐっ!」
体を仰け反らせたが、顎が浅く切り裂かれた。制服切られて無いので問題なしっ!
ヒノが縦長に大きくなり、伸びる。
伸びる加速は私が振るうよりも遅い。遅い故に火力も出ない。
「はい残念」
片手で握られて止められる。
しかし、そのままさらに伸びて花美が空高く登る。
「にゅあ!」
途中で手を離し、地面に向かって落下して行く。
そこをヒノが襲い、拘束する。グルグルに蛇の様に花美を捕まえた。
「良し! ヒノ、【催眠術】! もっと締め上げろ!」
「うぐっ。かはっ」
私と違い耐性が無いのか、痛がる素振りを見せる。
レベル的に簡単に【催眠術】は効かないだろうが、弱らせて行けば効く筈だ。
「ッ!」
鋭く成った感覚が悲鳴を上げた。本能と言うべき感覚。
これもかれも勇者ではなく魔王関連のスキルの力なのが、自称神的に良いのだろうか?
まぁ、それはどうでも良くて、その本能に従ってヒノの元に跳躍する。
「ありゃま、躱された〜」
「幻影かよ」
ヒノが締め上げていた花美が霧状に成って空気に溶けて消えた。
通常サイズに成り、私の手に収まる。
「ゆっくり見て気づいたけど、それ枕かよ!」
「枕で悪い?」
「いーや。そんな寝る為の道具でここまで抵抗出来た事を褒めてやるよ」
「⋯⋯ヒノをバカにするなよ」
「してねぇよばーか! 僕がバカにするのはお前だけ」
「そっか、それなら良いよ」
ヒノをバカにされたら、私は何するか本当に分からないからね。
ヒノのカバーのチャックが開き、私はその中に手を突っ込む。
そして、水の入ったペットボトルを三本取り出す。
そして、花美の上空に向かって投げた。
「水遁、水流爆破」
今のレベルだとペットボトルを破壊する程度の爆発しか起きない。
水が爆発し、ペットボトルが破裂して、ペットボトルから水が飛び出る。
当然、重力に従って水は落下する。
「ちぃ」
「ん?」
これなら避けられるかと思ったが、花美は目を細めて立ち止まって、水を諸に受けた。
もう少し工夫が必要だと思ったがその必要は無いようだ。
「雷遁、鬼雷電波」
地面に触れて、電気を流す。
水を伝って花美に電流が流れる。そして、彼女の全身を電気で包む。
眩しく光る花美は白と黒に点滅する。
「ああああああああああ!」
「バカ正直に受けた⋯⋯?」
流石に、怪しすぎる。
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