第35話 勝利の喜び
「【光流体】」
光となって電気から抜け出した。
「たっく。ボロボロじゃんか」
どうしてだうか? どうしてこの攻撃を諸に受けた?
奴のスピードなら確実に避ける事は可能だった。
そもそも何かしますよ感が強かったのに、なぜ動かなかった?
何が、何がきっかけだ?
「ちぃ。これでもくらいなよ!」
そう言って、懐に隠してあった袋を取り出し、中の物をばら撒く。
それは光を反射して、眩しく光る。
「鏡?」
目を離す事無く相手を観察する。
鏡の様なガラスの破片をばら撒いた花美は手を掲げる。
「あの動作は⋯⋯まさかっ!」
「バーン!」
虚空に光の球体が大量に出現し、それが鏡に向かって降り注いだ。
本来、精密に操れるのは二つか三つが限界だったであろう『バーン』の攻撃が、操る必要が無いので一気に迫り来る。
鏡の破片にぶつかり、反射して曲がる。
曲がった光はそのまま違う破片に当たり、また曲がる。
それを繰り返して私に迫って来る。
「見えない」
その反射速度は当然速く、目の前が見えなく成る。
横に動いても躱せるのか不明の段階でこの数だ。
なので、ヒノでぐるりと私の周囲を囲んで塞ぐ。
外界と完全に遮断したヒノの中は暖かい。
ヒノに衝突し貫こうとする光は内部からでも分かる。
「頼むよヒノ」
破壊されない事は分かってる。
そして、私はヒノを信じてるので問題ないだろう。
後は私の指示が間違わなければ問題ない。
ヒノが近くに入れば私に怖いモノはないのだ。
そう言う意気込みが出来る程にヒノの存在は私に絶大の信頼を与えている。
「⋯⋯今っ!」
ヒノが通常サイズに戻り、高く跳躍した。
私達が居た場所は果物ナイフの刃がグルグル巻にしようと迫っていた。
「予想通り!」
相手を拘束出来るなら、しない手は無いよね。
だから、ある程度の予想は出来ていた。
「これは避けれないよね!」
光を連れて私の横まで跳んで居た。
「火遁、火花!」
ヒノから素早く花火を取り出し火を火薬に直接着けた。
「なっ!」
これは私の完全憶測に基づいたモノである。
あの水を躱せ無かった理由⋯⋯それは動体視力。
奴は自分の扱う光なら問題ないが、自然界の光は問題。
光の動きなどをその動体視力で視て、そして脳が処理落ちを始める。
そのような仮説を立てたのだ。
ペットボトルの水が光を反射して奴の目に映した。
それによって、脳が処理落ちして、躱せなかった。
それが正しいと事を証明する為に、私は花火を利用した。
「殺す気かっ!」
「花火で火傷するのがレベル20程度、レベル30を超えれば通常の花火では一切ダメージを受けない!」
服は別なので、気をつける必要があるが。
バチバチと弾ける花火。近くに居るので、私も当然眩しく感じる。
だが、強化された動体視力を持つ花美はもっと酷い。
目の前で弾けた花火の爆音により耳が当分使い物に成らず、目は激しい光で当分使えないだろう。
しかも、見たモノを強制的に脳内処理するのなら、脳の働きも弱く成る。
「クソっ!」
果物ナイフを振るおうとするが、先程までの鋭さが存在しない。
簡単に懐に入り、拳を固める。
「終わりだっ!」
拳を突き出した。
ドンッと鈍い音が響き、一点に集中させた力が腹を凹ませる。
内部で一点に集中していたベクトルが弾け、体の内側から破壊する様な痛みを与える。
「がはっ」
そして、そのまま花美は意識を失う。
私の様な痛みに耐性があるのなら別だろうが、無いならこんな風に気絶するだろ。
「勝った、か。ギリギリ⋯⋯一か八かの大勝負、勝っぞヒノ!」
喜んだ。
もしもただ相手の攻撃を受けて、どのくらいのダメージを受けるのか確かめる為に受けたのなら、この作戦は意味が無かった。
しかし、そんな事無く、私の予想通り事は運び、勝つ事が出来た。
花火で相手の視覚と聴覚を奪う作戦⋯⋯今後も使えそうだ。
地面に転がした花美を見下ろす。
今思えば、こいつは自ら暴力を振るう事はしなかった。
ただ単に面倒だったのか、それともレベル差を気にしての事か。
基本的に悪口などだった。
「疲れたし、殴るのは辞めるか」
三人とも並べて、ヒノで寝かせる様に言う。
ヒノは心底嫌そうにしたが、無理言って聞かせた。
ヒノで寝かせれば、どんな傷でも完璧に治る。
「へ〜骨ってこんな風に再生するんだ」
基本的に自分が使うので、誰かの体が再生する所なんて見た事が無かった。
骨はにょきにょき再生する。
「某漫画の牛乳飲んだら歯が治る仕組みみたい」
そんな事を呟いた。
私は自分の拳を見て、もう何発か殴っておくか、そんな考えが脳裏に過ぎった。
しかし、それは思い留まり、スマホを確認する。
だいぶ前にスマホ自体は充電して使える様に成ってた。
連絡出来ていたら、お父さん達に連絡していただろう。
⋯⋯していただろうか?
「ま、どうでも良いか」
スマホを操作して、必要なモノを確認する。
後は、こいつらの写真でも撮ってやろうか?
それは辞めておくか。
「さーて、ヒノ。後はどのくらい話題に成るかだよなぁ」
回復が終わるまで、再生するのを観察しておく。
別に観察してもなんの意味もないのだが、暇なので見ておく。
「帰るか」
回復が終わったので、私はヒノに乗って家に帰った。
私が最初に着いたらしいので、鍵を開けて中に入る。
「裕也さん達は何してるんだろ?」
店の掃除を軽く済ませて、晩御飯の準備でも始める事にする。
ヒノが入れば掃除も簡単である。ヒノが掃除機や雑巾を使えば良いのだ。
ヒノを雑巾代わりにする事は絶対に出来ない。
「ヒノ、何か食べたいモノある?」
って、なんもないよね〜知ってた。
紗奈さんとのダンジョン探索は土日に集中させる事にした。
今ではメッセージできちんとやり取りをしている。
来てないのかなって、定期的に確認している。
通知が来たら一瞬で反応して返信している。
「そろそろ世奈が帰ってくる時間か」
ヒノに迎えに行かせる事にする。
バス停までそんなに距離は離れてないが、心配なモノは心配だ。
後は火を通しながら待つだけであり、ヒノも居なく成ったのでテレビを付ける。
余裕が出来ると、とても暇である。
「あー、脳内お花畑の勇者さん、日本で八人目のレベル1000超えに成ったのか。勇者の力ってすげぇ」
しかも世界最速らしい。
『興味が湧いたか?』
「余程の事が無いと話して来ない癖に⋯⋯これはそんなに重要な事か?」
『当たり前だ! 正式な契約を⋯⋯』
「しねぇよ! 勇者だの興味無いっての。そもそもアンタが今焦ってるのって、魔王に成る可能性があるからだろ? 早く私で何するか決めろよ」
そう言ってると、扉が開いた。いや、開いていた。
「お姉ちゃん」
「せ、な」
その目はなんと言うか、同情的と言うか冷ややかと言うか、うん。これから神との会話は気をつけようと思う。
「て、その顔の傷何っ!」
「あ、いやこれは」
私は焦った。これはまだ、残す必要がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます