第33話 VS花美
「はーい、ドーン!」
一筋の光が横切る。
目が無意識にその光を追い、死角が増えた左側から花美が接近して来る。
輝いている左目を見開きながら、拳を突き出して来る。
その拳にすら、高熱の光を纏わせている。
圧倒的に、この地面に転がってる二人より強い。
「おー避ける避ける」
腕を払い除け、その勢いを利用して距離を取る。
体勢を直しながら花美を視界に入れる。
「一人でダンジョン攻略するから本当にビックリしたよ? あそこで死んでれば楽で良かったのに。こいつも、そいつも、お前もさ!」
羽織、美波、そして私の順番に指を指しながらそう言って来る。
その顔は完全に怒りに染まっている。
「滝宮くんもなんでこんなブスを選んだよマジで。意味分かんないよ!」
「⋯⋯」
これはもう正当防衛で良いのではないだろうか。
前傾姿勢になりながら駆け出す。
空気の抵抗を体全身から感じるが、それすら気にならない程に集中力が高まる。
研ぎ澄まされた精神はたった一点に集中されている。
間合いが決まれば、繰り出すは骨を砕く一撃の回し蹴り。
しかし、相手はそれを華麗に受け流した。
「お前⋯⋯」
「雑魚がお前呼びすんなっ!」
空気の振動波が私の全身を襲う。
「ぐっ」
吹き飛ばされ、何回か地面をバウンドして止まる。
ゆっくりと立ち上がれば、銃のように親指を垂直に上げて、人差し指を伸ばしている花美が見える。
「ズドン」
先端に光が集まり、先程よりも太く速い一撃の光が襲い掛かる。
髪一重で横にステップして避ける事は成功した。
しかし、反対の手の人差し指が私に伸ばされる。
「ドーン」
「くっ!」
ステップした体勢から無理矢理跳躍を図る。
避ける事には成功したが、反動で骨が軋む。
無事に着地して、体を安定させる。深呼吸して呼吸を安定させる。
「あそこで皆死んでれば良かったのに、お前が守るからさ。本当に最悪だったよ! 一撃受けた癖にさ、美波は生きてるしよ! たかが40レベルで偉そうにしてさぁ! そんなん一日で終わったわ!」
「⋯⋯」
「ダンジョンに入ったから、お前は死んだ。滝宮くんは落ち込み、そこに付け入る予定だったのに、お前は攻略するしよぉ! ふざけんじゃねぇよ!」
「⋯⋯」
もしも、花美がダンジョンに挑んで、鬼と戦っていたら勝てていただろうか?
分からない。
私は勇者の力とヒノ、そして相手の油断を誘う為に煽りに煽ってなんとか勝てた相手だ。
分からない。しかし、花美は強い。
「レベル40がレベル112に偉そうにしてさ。親の立場が上だからってさ」
「れ、レベル112?」
三桁、だと?
私は鬼を倒して、その経験値を全て私が貰った。
魔剣での経験値獲得率も上がっている。
なのに、だと言うのに、そんな私よりもレベルが高い?
同じ年齢なのに? そんな事が、ありえるのか?
ありえて良いのか?
「流石に人殺しは良くない⋯⋯だけど、その顔はズタズタにしたいよね! バーン!」
片手を空に掲げ、虚空に光の球体が出現する。
そして、それが私を貫こうと迫って来る。
奴の意見通り、私を殺す位置では無いので、立ち止まっていれば致命傷は避けられる。
だが、制服が破ける! それだけは許容出来ない!
「はっ!」
一気に息を吐いて駆ける。
私を襲いに来ていた光は背後を捉えている。
体育館の壁をよじ登り行動範囲を広げる。体育館の壁はこの魔法に耐えられるらしい。
「はっ!」
体育館の壁を強く蹴り、加速して花美に迫る。
拳を固め、落下に合わせて突き出す。
それは軽いスライドステップで避けられる。
拳を開いて地面に乗せ、それを軸として回転し、踵を振るう。
「おっと」
仰け反る形で軽く避けられ、反撃と言わんばかりに銃のように手を作り、光を指先に集める。
「ズドン」
「ぬっあああ」
片手に力を込めて、それを一気に解き放つ。
高く飛び、反撃を躱して着地する。
しかし、その先に指先だけが向けられている。
「ドーン」
即発の光が頬を切り裂く。焼き切った場所はすぐにカサブタと成る。
「へぇ痛みに悶えないんだぁ?」
「生憎と、痛みにだけは耐性があるんでね」
「あっそう。あのサンドバッグから随分強くなったらしいけど、僕の敵じゃないね」
「それはお互い様でしょ?」
「そうかなぁ? 君の動きはスローモーションに見てるんだよ」
「その左目のお陰で?」
「正解。【
「成程、ね」
「そして【光操作】光を集めたり放ったり出来るスキル。魔法とは別モノ」
「説明どうも」
「そんな僕とお前が対等に戦える訳ないだろ?」
「成程成程」
私は邪悪な笑みを浮かべてやった。
どうしてこう輩はペラペラと無駄話をしてくれるのだろうか?
ありがたい事に色々と情報が得られると言うのに。
相手に情報を与えると言う事は、そこから性格などが読み取れると言う事。
ちょっとした復讐気分で戦っていたけど、こいつは別だ。
ガチの対人戦だと思わないと、負けてしまう。
怪我をしても回復は出来る。
だけど、出来ないモノも存在する。
「戦えるさ」
正直、それが正しいか分からない。
分からないけど、これが一番効果的だ。
私の記憶に無くても、奴がそう思うなら、そこを広げてやれば良い。
相手の嫌な部分を突いて、煽れば、人は、生物は、簡単に怒る。
「滝宮くんに一緒に告白したら、お前は負けんだろ?」
誰かは不明だが、使わせて貰うよ。
もしも会う機会があるならば、お礼を述べたいと思う。
「何? それで僕を煽ってるつもり?」
「あの人は言ってたよ。花美って奴はブスで性格も悪いから関わりたくないゴミだって!」
花美は女の私が見ても、顔立ちは良い。
性格が悪いのは確かだ。
「それを僕が信じるとでも?」
「その腐り曇った目で見て来たんじゃないの? 私と滝宮くんの関係を、さ」
「⋯⋯」
「もしもきっと彼がこの光景を見たらこう言うさ。『お前みたいなゴミが世羅に近づいて欲しくない』って!」
しかし、このセリフにより花美から徐々に出て来た苛立ちが消えた。
何故だろうか? なにか間違えたのだろうか?
いや、こう言う奴にはこう言うのが効果的だと思ったのだが⋯⋯事実途中まで順調だった。
「あははははは!」
急に笑いだした。
「ばーか。滝宮くんはお前の事、『世羅ちゃん』って言うんだよ!」
あー、滝宮くんってあの男か。
それは⋯⋯ミスったな。
「よ、良く観察してるね。あはは」
「僕を騙そうって、そうはいかないよ!」
「まぁでも、滝宮くんに関しては、お前は私の足元にも及ばないよね?」
「あぁん?」
「だって、(元)一緒に登下校してるし、(元)家は隣同士だし、昔は良く遊んだ幼馴染(多分)。家族ぐるみで仲が良かった(多分)お前の勝ち目はゼロ、諦めて身の丈に合った男を探せよ。ざーこ」
左手の中指を天に向かって伸ばし、今の気持ちを顔に表した。
相手の額に青筋が浮かぶ。
「あーウザ。もう、手加減しないから。【光加速】」
一瞬光り、私の斜め後ろには花美が立っている。
そして、視界には鮮血が舞っていた。頬から流れる血。
横目で見れば、刃物を取り出している花美の姿が映った。銀色の刃からは真っ赤な血が垂れている。
「顔だけじゃなくて、体全体切り刻んでやるよ。ざーこ」
中指をビンビンに立てている花美が私を嘲笑っていた。
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