第32話 VSいじめっ子

 今の家から登校すると、世奈と途中まで一緒に成る事が判明した。

 中学が近くて安心、そんな感想しか出て来なかった。


「それじゃ、気をつけて行きなね」


「お姉ちゃんもね」


「あいよ」


 そして学校まであと少しと言う所で、あの男がやって来た。

 大丈夫。名前は⋯⋯覚えてる。


「おはよう世羅ちゃん」


 少し気まづい雰囲気を出しながらそう言って来る。

 私は一度立ち止まり、深呼吸して激しく鼓動する心臓を落ち着かせる。

 そして、振り返り目と目を合わせる。⋯⋯大丈夫、見える。

 悪魔では無く人間に見える。

 大丈夫。


「お、おはよう⋯⋯ございます」


 途中で目を逸らしてしまったが、言えた。挨拶出来た。

 裕也さん達の所に行ってから、まともに会話も出来なかった人と、久しぶりのまともな会話をした気がする。

 一切動かない相手に不審がり、私は恐る恐る顔を横目で覗く。

 ボケーッとした男がブラリと立っていた。


「だ、大丈夫?」


 前の調子が戻って来たのか、先程よりも滑らかに言葉が出て来た。

 少し近づいて顔を覗き込むと、一歩退かれてしまった。


「あ、ごめん」


「あ、いや。そうじゃなくてね。ちょっとドキッとしたって言うか。あはは」


「そっか」


 二人で校門を潜る。何故か、周りの視線が気になった。

 ただ、いつものとは違い、変わった目だ。

 なんて言えば良いのか分からないのだが、嫌悪されてない事は分かる。

 あの事件があったのだ。私の人生は、変わっているのかもしれない。


 そう、思っていた。

 しかし、私はいつものように呼び出された。

 羽織、美波、花美のクソサンメンバーである。


「ちょっと強く成ったからってチョーシ乗んなよ!」


 美波は傷が既に癒えている様で、いち早く牙を私に向けた。

 今日は珍しく、と言うか初めてかもしれない。あの男が教室までついて来たのだ。

 その影響か、三人ともイライラしている。


「そんなにカリカリしてるとシワが増えるぞ」


「ッ!」


 そう言うと、美波から割と速い拳が顔面に飛んで来た。

 なので、横に倒して避ける。修復して強化もされただろう、体育館の壁はその打撃を無傷で耐えた。

 あのオーガの攻撃をどこまで耐えられるのだろうか。


「腹はもう良いのか?」


「陰キャのカスが、イキがるな!」


 足の振り上げ。流石は武術経験者。その蹴り上げは速く鋭かった。

 しかし、軽く横にステップしたら避けられるし、攻撃直後の隙で一撃を与えられる。


「ごふっ」


 力の流れを一点に集中して強い打撃を生み出す。

 そんな事をやった拳で美波を殴り飛ばした。

 一点に攻撃を集中した事により、普通のパンチよりも当然痛い。

 それだけではなく、衝撃も強く、美波は少しだけ吹き飛んでいた。


「あーあー、やっちゃったなぁ! これは完璧な暴力行為だなぁ!」


 羽織がそう叫ぶ。先にやってるのはお前だろうが。

 クソサンリーダーの羽織。こいつのレベルっていくつだろ?


「お前もう学校に⋯⋯がっ」


 頭を握り、そのまま地面に倒した。歯が数本折れた気がする。

 血も少し流れている。軽くやったけど、やりすぎたみたいだ。これがレベルの差ってヤツだね。


「そうだね。だからさ、最後くらい楽しくやろうかねぇ!」


「まじで、雑魚が、調子に、乗るな!」


 スキルを使用して、流れ星の様に移動して来た美波が拳を突き出す。

 武器を必要としない拳がメイン武器の場合、こう言う時に便利だ。

 確かに、今の私でもきちんと集中してないと殴られそうだ。

 だけどね。私は⋯⋯油断も何もしてない。


「調子に乗る? イキがってる? 残念だけどさ、私は至って冷静だし集中してるよ」


「なっ」


 拳を躱し、隙だらけの相手の腹に鋭い突き出しを放つ。

 そのまま背中を抑えて地面に突き倒す。一撃一撃の衝撃音が心を踊らされる。


「あ、あんた」


 少しだけ震えている花美。何もしてこないなら都合が良いので、二人を足で顔を上に向けさせる。

 そのままマウントポジションを取る。

 今からする事なんて一つだけなのに、自称神は何も言ってこない。

 見てないのか、それとも『世界』が重要であり、『個人』に興味はないのか。


「じゃ、一発目〜」


 まずはリーダー羽織。さっきので力加減は分かった。

 成る可く長くなる様に殴る。何か言っている気がするが、歯が無くて上手く喋れてない。

 段々と目に恐怖が現れて、涙を流し始める。


「人を殴るって何が楽しいのか私には分からなかった。でも、実際殴ってみると感想が出て来るね」


 とある作品では楽しくないとか面白くないとか言ってたりする。

 実際そんなもの、そんな感じだと私も思っていた。

 私は腐っているようだ。腐っている風を装っている主人公とは違い、私は本当に腐っている。


「弱い者を殴るって、結構楽しいね。サンドバッグを殴るのってこんな感じなのかな」


 羽織が完全に潰れたら、今度は美波を殴る。

 さっきよりも少しだけ力を込めれるのでもっと楽しいと感じた。

 だけど、ここで世奈や裕也さん達、家族の光景や紗奈さんが頭に浮かんだ。

 どんな事情があろうとも、この人達を殴るのは⋯⋯嫌だな。


「終わったか」


 だいぶ殴ったら、気絶した。残ったのは僕っ子で一番何もして来ない花美だけである。


「ドーン」


「ッ!」


 マウントポジションから足に力を込めて無理矢理跳躍する。

 地面を少し抉る高熱の光線が出現していた。

 焦った。もしもあれが直に当たっていたら制服が破けているどころか、体に穴が出来ている。


「へーあそこから躱すのか。本当に強く成ったね」


 猫なで声が基本で、僕っ子でぶりっ子な花美。

 そんな奴なのに、今出ている声はどす黒く、低い声だった。


「あーあー、ボロボロにしちゃって」


 羽織の顔に足を乗せてグリグリする。

 その光景に私は目を見開いた。


「何驚いてんの? 僕はこの二人が嫌いなんだよねぇ。親が僕の親よりも立場が上だからさぁ、偉そうにされてたんだよねぇ。だからちょーぴっりスッキリしてたりね」


 しかし、その声とは裏腹に、一瞬で肉薄して空気を切り裂く拳が突き出される。しかし、わざと私の顔の横に拳が来るように成っていた。


「うん。目で追えてるね」


 私は大きくバックステップして距離を取る。すると、準備運動を始める花美。


「まーこいつらと滝宮くんの事は別だから。なんであの人がてめぇに靡いているのか分かんねぇけどさ。その顔が更に傷付いたら問題ないかな?」


「はは。そりゃあ無いよ」


 刹那、花美の左目が蒼く輝いた。

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