第31話 理想の日常

「え、待って! 裕也さんと紗波さんが⋯⋯え?」


 裕也さんはともかく、紗波さんは割と若そうな見た目だ。

 流石にそれが祖母だなんて、嘘に決まってる。


「そう言えば、私苗字聞いてないや」


「世羅がなんで、ここを?」


「⋯⋯実は」


 私は二人のことを話した。すると、お父さんは一筋の涙を流した。

 それを隠すために片手で目を覆う。

 私達は両親の親に一度も会った事がなかった。

 母親の両親は既にこの世におらず、お父さんの親は知らなかった。


「そのな。喧嘩して家を出て、それまでだったんだ。まさか、世羅が助けられていたなんて⋯⋯。世羅、母さんな、ああ見えても今は72歳だぞ」


「え⋯⋯」


 世奈が話に付いて行けてないが、私達は裕也さん達に会いに行く。

 なんとか、成るかもしれないから。


 面会、私とお父さん、そして世奈で二人に会う事に成った。

 面会室に入って来た二人はとにかく驚いていたが、私を見て安堵してくれた。

 その事が分かる私は、本当に嬉しく、そして申し訳なく感じた。


「そうか。お前の、娘だったんだな」


「ああ。助けてくれて、ありがとう」


 事情を話、お父さんが頭を下げる。

 ドンッと机を叩いた。


「違うだろ。なんで、実の娘の様子を定期的に確認しなかったんだ。世羅ちゃんが、どれだけ辛い思いをして来たのか、想像出来ないのか」


「知らなかったんだ。適当な報告ばかりで、それを信じて、仕事もあって、予定も合わなくて、会えなくて⋯⋯」


 私の予定なんて基本的に無いし、適当な理由付けでもしていたのだろう。

 母親がそこら辺の情報操作をしていたと考えると、余計に憎く感じる。


「そんなのは言い訳だ。分かってるだろ」


「あぁ」


 お父さんが辛そうだ。

 私は世奈を連れて外に出る。ここは、この三人の話の場所だ。


「裕也さん。紗波さん。待ってます」


 それだけ言い残して、近くのコンビニのフードーコートに座り、チキンでも食べながら待つ。


「ねえ、お姉ちゃん。あの二人は?」


「私の恩人。全てが嫌いになって、全てがどうでも良く成りそうな時に救われた。⋯⋯ま、まぁヒノの事は言えなかったけど」


 ビー玉サイズのヒノを掌に浮かせる。


「確かに、空飛ぶ枕なんて気味悪いからね」


 少しヒノが落ち込んだ。


「ヒノは優秀なんだぞ? 寝たら自由に傷も癒せるし、体力も魔力も回復する。飛べるし大きく成れるし、移動しながら寝ると言う事が出来るんだよ」


「だったら、その頬の傷はなんなの? と言うかお姉ちゃん、なんでダンジョンなんかに入っているの! 私、本当に怖くて、心配したんだからね!」


 目を腫らし、少しだけ顔が赤く、ぷいっと怒っている世奈。

 それが堪らなく愛おしくて、嬉しくもあった。

 それだけ、心配を掛けてしまったのだろう。

 だけど、この傷はまだ残す予定だ。これが無くなると、自分の覚悟が少しだけ小さくなる気がするから。


「心配掛けたね。本当にごめんね。でも、お陰で世奈に奢ってやるくらいの金の余裕はあるから、さ」


「お金を何兆積まれても、お姉ちゃんの命は買えないんだよ? 失ったモノはお金では、買い戻せないんだよ?」


「ごめんごめん」


 それからこれまでの話をした。まぁ、私は辛いことばかりで、そこら辺を上手く濁して誇張して話した。


「お姉ちゃんが友達三人! 凄いね! 昔なら『友達? そんなのが居て人生楽しくなるのか? 人生楽しくするのは自分の力だろ?』って言ってるのに」


 そ、そんな奴だったかなぁ私。

 ちなみに世奈は人気者らしく、友達は二桁だ。しょごいね。

 まぁ、友達は数とは言わないし。私はそもそも友と言える人は一人と一個。裕也さん達は友達って言うよりも⋯⋯今は家族かな?


「あ、そ、そう言えばさ、その。た、貴音く、くんは?」


「⋯⋯」


 誰だそいつ?

 この反応、世奈が好きな相手なのかもしれない。

 しかし、私の記憶にそんな奴は居ない。

 中学の人⋯⋯なら私に聞かないか。まじで分からない。


「⋯⋯お姉ちゃん?」


「そいつ、誰?」


「え」


「え」


「と、隣の家の幼馴染の男の子で! い、イケメンで優しくて、いつも私と遊んでくれた⋯⋯」


「⋯⋯あ、あぁ、あの人ね。う、うん。元気なんじゃ、ないかな?」


「家変わってなかったよ! 思い出して!」


「あーい、今、今頭の中に、来たよ?」


 えーと、隣の家のイケメンで優しい男⋯⋯。

 誰だぁ誰だぁ。⋯⋯あ、滝宮!


「元気元気。毎日話し掛けて来る人、だった筈」


「なんでそんな朧気なの!」


「てかさぁ、世奈、その人の事が好きなの?」


「へ? い、いや、そんなんじゃないし! ないし!」


 顔を真っ赤にして否定している。こりゃ図星だな。

 しかし、すぐに表情が平常に戻る。


「あの人は、お姉ちゃんが一番だから」


 なにかボソッと言った。私が一番?

 ないない。それだったら、あそこまで怖いと思う筈無いでしょ。

 顔とかも出て来ないし。今なら、大丈夫かな?


「あ、お父さん出て来た」


「え、ここからだと見えないよ?」


「お父さんの魔力の位置が変わったから分かる。行こ。もう外で待ってる」


 そして、お父さんと合流して、裕也さんと紗波さんはすぐに解放されると言われた。

 良かった。本当に、良かった。


 そして、お父さんと世奈が裕也さん達の家に来る事が決まった。

 つまり、一緒に住むのだ。


「お父さん、ありがと」


「こうしないと、世羅はあそこに毎日通うだろ?」


「まぁね」


 これは、私も頑張らないとな。

 まずは常連さんが戻って来る様に頑張って、警察のせいで悪くなった印象回復を目指そう。

 さーて、チャーハン作るぞぉ!


 ◆


「んーおはよう世奈」


「おはようお姉ちゃん」


「おうおう。どうしてそんなにカリカリしてるのかな?」


 ヒノが横長く大きく成った状態で、二人で同じベットに寝ていた。

 体の疲れも癒えた様だ。既に起きて着替えて立っている世奈。

 しかし、何故怒っているのだろうか。


「もう九時だよ! 学校!」


「待て待て。今日は土曜だ。行かない行かない」


「え、お姉ちゃん野球部のマネージャーとか、してないの?」


「なんでしないといけないの?」


「えー」


「えー」


 と言うか、そう言う世奈は部活は無いのだろか?

 聞いたら今日は無いとの事。そして、リビングに向かうと既にお父さんは仕事に出ていた。


「相変わらず休みの日は起きるの遅いね」


「ぐっすり寝ますからね」


 ヒノがあれば起きる時間も調整出来るのさ。

 さて、何時ものように起きて、何時ものような時間なので紗波さんが朝食を用意してくれている。

 当然、昼も食べれる様に量は少ない。


「てかさ、部活も何も休校なのにやれんだろ?」


「えーやるでしょ。壊れたの体育館なんでしょ?」


「いや、瓦礫とか吹き飛んでたし、色々ぶっ壊れてるし、こう言うのは学校と国の問題でもあるし、全部一度綺麗にされて修復されるだろ」


「そこまでするなら、また登校出来るのは火曜日かな?」


「だねーだいたい四日は掛かるらしいし」


 そんな会話を世奈と交わす。今時の工事なんて、大きく無かったり工程が長く無い限り、一日で終わる。


「世羅ちゃんの学校って、あのニュースであった⋯⋯大丈夫だったの!」


「世羅ちゃん?」


 二人が心配そうに聞いて来る。それに、少しだけ笑顔を作って、答えた。

 作るとは言っても、ほぼ無意識だけど。


「全く問題ないですよ!」

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