いじめられっ子の陰キャJKは自分を変えるため、ダンジョンに挑む〜底辺弱者は枕とレベルアップで強者へと駆け上がる〜

第23話 絶望しなきゃ勝ち

「ああああああああ！」

　魔剣と刀を同時に突き出し、滑る様に流れる。

　火花を散らして進み、前足に力を乗せて一気に振り返る。

　回転に合わせて魔剣を振るい、刀と衝突して同時に弾かれる。

【硬質化】したヒノが地面を滑るギリギリのラインで飛行して体当たりしに行くが、拳で弾かれる。

「ぜぇぜぇ」

　だいぶ相手の動きに合わせる事が出来る様に成った。

　こう見えても私、中学の時は周りに合わせる事が得意だった。出来すぎて気持ち悪がられてボッチだったが。⋯⋯多分。

「はは。上手く行ったら剣術も上手くなったりしてね」

　だが、いくらマネしても、それはあくまでマネであり、相手に追い付けるモノじゃない。

　身体能力は五分五分なので、残るは技術。

　だが、鬼は魔法も使って来るので、私の方が圧倒的に不利である。

「鬼さん。少しは手加減して欲しいなぁ。出来れば負けてくらない？　私、帰る場所があるからさ」

　そう言った。時間稼ぎでもなんでもない純粋な本心だ。

　言ってて笑いそうになる。少しでも相手に良心があるなら、負けてくれないだろか。

　私？　私の場合はこう言っている間に攻撃を仕掛ける。

　素人から見ても隙だらけだからね。

　どちらかが死ぬまで出られないこの空間で、『負けてやる』なんて選択肢は存在しないのだ。

『帰琉場所我尾前似萌有琉之火』

「喋ったああああ！　ごほん。お前にもって、鬼さんにも帰る場所があるんですか？」

『嗚呼』

　どこが寂しい声音な気がする。それよりも会話が出来たぞ。びっくりすぎる。

　先程までの殺戮オーラーはどこへやら、ヒノからも疑問が伝わって来る。

　少しだけ余裕が生まれて適当に口から出した言葉が、まさかこんな展開になるとは。

　隣を飛んでいるヒノはクルクル回って疑問を表している。

『我似萌帰琉場所我有琉』

「⋯⋯は？」

　鬼は帰る場所があると言う。

　帰る場所、それはこのダンジョンじゃないのか？

　だが、この言い方的に違うのだろう。

　鬼が帰るべき場所？　ダンジョンが出来てから半年は崩壊しない。

　つまり、半年間ずっとここに居たのかもしれない。

「それは、どこですか」

『家族』

「⋯⋯だよね」

　私は少しだけ考える。

　この事を言ったらきっと彼は激怒するだろう。

　だけど、嘘を嘘のまま信じて突き進むよりかは、良いのかもしれない。

「貴方の家族はここの外には居ない」

『覇？』

「ここの外は人間が住まう世界だ。君と同じ様な人は誰一人として居ない」

『⋯⋯信地無意』

「信じない、ね。良いよそれで。どうせ、どっちかが死ぬまでここからは出られない」

　魔剣を構え、相手は中腰で刀を構える。

　その体勢をマネする。

『画竜点睛』

　額の一本の角の左右にそれぞれ角が生えて来る。

　鬼の体に模様が浮かび上がり筋肉がボワりと膨張する。

　鬼の背後にさらに大きい鬼の姿を感じる。

　これが強者から感じる恐怖なのだろう。体が押し潰されそうで、心臓がバクバクと成る。

　体温が急上昇するが、それでも頭の中は焦りばかり。

「絶望しなきゃ勝ち絶望しなきゃ勝ち！」

　相手が少しだけ前傾姿勢になる。これが一気に加速して前に出る合図。

　それに合わせて私も前に⋯⋯

「がはっ」

　瞬きはしなかった。しなかったのに、気づいたら、鬼は私の背後に居た。

　突き出している刀の先端から手に向かって流れている血。

　当然、私の血である。

　ヒノも反応出来ず、硬直している。自我が強く成っているのか、感情が強く成っている。

　前に向かって私は倒れた。横腹が抉られている。

　血が地面に垂れて赤い絨毯が早く広がっていく。

「ゲホッ」

　超痛い。まじで死にそう。こう考えれるだけまだマシと言うべきか。

　魔剣の【自己再生】で回復しているので、痛みは少しづつ引いている。

　だいぶ戦えるように成っても、それは底が同じ場合な時。

　底が上がった鬼相手には意味が無い。

「ヒノ、大丈夫、次は油断しな⋯⋯」

　何を間違った事を言いそうに成ったのだろうか。そう信じたいからか？

　次は油断しない？　バカだ。

　私はずっと油断していなかった。しっかり相手を見て観察していた。

　つまり、私の力では鬼の動きを見る事が出来ない。

「完全に負けだ」

　横腹を強く蹴れ、骨が粉砕されて吹き飛ばされる。

　骨が砕けたので、当然魔剣は手から落ちる。

　レベルのお陰か、ヒノが間に入ってくれたお陰か、生きている。

　生きているから、めっちゃ苦しい。

　絶望しなきゃ勝ち⋯⋯絶望したら負けである。

　圧倒的な力を前に、確実に負けると言う分かりきった現実を直視した結果、絶望した。

　もう、ただ死を待つだけである。

　既に神経が麻痺したのか、痛みを感じない。或いはスキルの影響か。

　もう、声も出ないよ。

　◆

「【龍星剣】！」

　金髪の女性が高速の斬撃を振るい、ダンジョンに内に蔓延るオーガを一撃で数十体屠る。

　素早い動きで壁を駆けて、跳躍し、剣を掲げる。

　剣が蒼色の光を激しく放つ。

「【龍星波】」

　地面に叩き付け、そこを中心に波紋上に蒼色の衝撃波を放ち、包み込まれたオーガは魔石へと姿を変える。

　緊急の要請を受けて近くの探索者達が集まり、ダンジョンを攻略しようと進んでいた。

　その中で先行しているのがスキルの関係で『蒼き星龍』の二つ名を持ち、僅か三ヶ月で日本探索者レベルランキング100位圏内に入った女性だ。

「なかなかの数ですね」

　女性は周りを見渡す。

「生徒達に迷惑を掛けて。死者が出なくて何よりですが⋯⋯それよりも、情報の女子生徒が見当たりませんね⋯⋯まさか、ね」

　しかし、ありえるかもしれない事実。

「少し急ぎますか。キー」

　彼女の隣に鍵が浮遊する。

「キー【解錠】」

　壁に鍵が刺さり、くるりと回転する。

　それと同じタイミングで鍵が開く時と同じ音、カチャリと鳴る。

　刹那、一辺二メートルの正方形の穴が完成し、次の通路が現れる。

「キー、主部屋まで一直線に行きますよ！」

　駆けて、目に入るオーガは攻撃の隙すら与えずに屠る。

　彼女が通った道、通る道に障壁も障害も存在しない。

　壁があれば開放し、敵が居れば問答無用で殺す。

「右ですか」

　そして、大きな扉の前に現れる。

　手を扉に当てて、強く押す。

「⋯⋯開かない。キー！」

　鍵の力を持ってしても、戦闘中のボス部屋には入れない。

「もしかして独りで？　レベルは大丈夫？　スキルは問題ない？　技術は？　嫌。自分の前で人は殺させない。⋯⋯ねえ！　聞こえているでしょ！　どうしたらこの中に入れるの！」

　剣に向かって叫ぶ。

「無いって⋯⋯貴方それでも神でしょ！　どうにか成らないの！　世界の輪とか、関係ないでしょ！　目の前の人が死にかけているかもしれないのに。じっとなんて出来ない！　自分は、人を助け救う、ヒーローに成るんだから。その為に契約したんだ！　救えないなら、意味無いじゃない！」