第22話 まだ、絶望してない
図体が大きいと集団で一斉に走るのは不便らしい。
オーガ達の上空を素早く飛んで先に進めば攻撃は当たらないし、割と逃げられる。
「魔法が使えたら、他にも戦い用はあったのかなぁ?」
私の持っているスキルなんて日頃の生活で培った耐性だけだった。
今では少し増えたが、直接的な戦闘で役立つ物は少ない。
魔剣の血も今のレベルではゴブリンはワンバン出来ると思うけど、オーガではあまり意味が無い。
レベルが上がれば、一度に操作出来る血の量が増えるので、火力は上がる。
「金棒ぶん投げるな! ヒノ!」
チャックを開けて大きく口を開けて金棒を呑み込む。
実はやってみたかった事。
なかなか武器を投擲してくれるモンスターがいなかったので、試す機会はなかった。
もしもこれが失敗してたら、私はかなりのダメージを受けて地面に激突、魔剣も仕舞っているので再生出来ずに死ぬ⋯⋯かもしれなかった。
ちょっとした賭けだが、勝ったので良しとする。
これで遠距離の武器攻撃は意味が無くなった。
まぁ、ある程度の余裕が無いと、これは出来ないけど。
チャックを開ける時間などが必要だからである。
「さて、あそこと違って階段は無いし、適当に探しますか」
私一人とヒノでオーガ二体倒せた。ならば、ボスも苦戦はしても勝てる筈だ。
手に入るアイテム、一体いくらに成るのだろう。
今のうちに買う物を考えておくか?
「あの二人、何あげても喜びそうだなぁ」
そう言えば、別居しているが息子がいるらしい。
私は会った事ないが、もしも会うなら絶対に修羅場になる。
「はは。良いぞオーガ共! もっと金棒(金)を渡せえええ! あーははは!」
オーガのように図体がでかい奴は機動力が低いらしく、どこぞの狼達と違い壁を走って来ない。
お陰様で、制空権が守られて安全安心の移動を続けれている。
オーガが外に出ていても、流石にそろそろプロの方が到着している筈だ。
私でも相手出来ているので、プロなら案外余裕なのではないだろうか。
魔法も放って来ないし、本当に退屈だ。
「ヒノぉ、もしかして君はボス部屋の場所が分かってるのかい?」
先程から曲がり角をサクサク曲がって進んでいる。
私に考える暇すら与えてない。
何か意思が頭の中に流れ込んで来る。
ボス部屋の開けた空間の空気が、大きな扉の隙間を通って流れ、それを辿っているらしい。
いまいち分からないが、僅かな風の流れで分かるようだ。
「そんな力あったのか」
いつもは既にボス部屋の場所が割れて、探索だけでこのヒノの力は判明しなかった。
今回はさっさとボスに向かうと言う目的があり、ヒノの新たな一面が出て来た訳だ。
子供の違う一面を知って喜ぶ親の気持ちって言うのかな。
そんな気持ちに成る。
「仲間思いのオーガ達は全員来ているのかな? てか、なんでモンスターって外に出て暴れるんだろ」
自称神から貰った世界の事が書いてある本の存在を一切合切忘れて私はそんな疑問を呟いた。
そんなくだらない事を呟ける程には暇なのである。
寝てしまいたいが、そんな事して落ちたら嫌だ。
「お、見つけた」
正面にボス部屋を発見したので、そのまま押し入る。
中はオークと戦った所と同じように広い空間。
階段が正面のあり、上には玉座が存在する。
そこに偉そうに座っている細マッチョの青年⋯⋯青年?
「え、なんで人が⋯⋯」
ヒノが私を掴んですぐに後ろに飛び去った。
その行動に一瞬頭が真っ白に成るが、すぐに理由が分かった。
目の前の青年が黒い刀を一閃させていた。
「え、いつの間に?」
確かに先程までの事で油断はしていた。だが、一切動きが見えなかった。
一瞬で肉薄され、一瞬で刀を振るわれた。
今更だが、冷や汗が流れて来た。ヒノが反応していなかったら、今、私は相手を見えているのだうか。
「魔剣」
意識を切り替えて、真剣に相手を見る。
こっからは瞬き厳禁な戦いだ。
青年の額には一本の立派な角が生えている。人間のような見た目故に、きっと機動力も高い。
『魔術、鬼炎』
刀を持ってない左手に炎を展開させ、それを放って来る。
銃弾かと錯覚する炎をヒノを盾に防ぐ。
そのまま私は一直線に駆けて、炎を防いだヒノが横を飛ぶ。
剣を振るおうとした⋯⋯だが、そこには鬼が居なかった。
「がっ」
背中に激しい痛みを感じる。焼かれる痛みと蹴られた衝撃の痛み。吹き飛び、壁に激突してめり込む。
魔剣は握っている。ヒノも吹き飛ばされたのか、私の上に乗っている。
ヒノの回復と魔剣の再生で回復していく。
「がは」
詰まっていた血が一気に吹き出て、肺に空気が一気に流れ込む。
一撃の蹴りで肺が潰されたようだ。
痛みを感じた。
前のオーガとは確実に強さが違う。次元が違う。
背中がスースーする。服が焼け切れている。
足に炎を纏わせて蹴り飛ばしたらしい。
「蹴られているのは慣れてるけどさ、一応女なんだからさ、手加減してよ」
女子差別? 違うねこれは区別だよ。
ま、レディーに優しくする概念がモンスターに存在するかは、考える余地があるけどね。
『鬼炎斬』
刀で虚空を払い、炎の斬撃を放って来る。
「無理無理。ヒノ!」
ヒノを鷲掴みにして、空を飛ぶ。
鬼は力を溜めて一気に跳躍し、天井に足をめり込ませる。
「は?」
なんだよその馬鹿みたいな身体能力。
ボスだからってやり過ぎだろ。少しはオーガ達と力を似せろよ。
オーガ達とは戦い方も力も全然違い過ぎる。あいつら泣いてるだろ。
手も天井に埋めて体勢を安定させ、私に向かって跳ぶ。
ヒノの盾なんて間に合わない。
でも、少しは足掻くだけである。
「【血流操作】刃!」
二本目の刃を生成して、刀とぶつけ合う。
激しい重みを感じ、そのまま吹き飛ばされる。
ヒノでは耐え切れず、そのまま壁に衝突する。
だが、さっきとは違いヒノがカバーに入っているので、ノーダメージだ。
壁を蹴って空中へと行き、魔剣を一度上空に投げ、その場で宙返りする。
ハンマーをヒノから取り出して、遠心力を利用した打撃を地面に立っている鬼に放つ。
刹那、ただの重いハンマーが拳で粉砕される。
粉砕された事により、私の体に乗った遠心力がそのままで、回転してしまう。
攻撃の際にはヒノの飛行は解除されており、隙だらけの体を鬼に晒してしまう。
『鬼炎斬』
「しゃっらああああああ!」
無理矢理ヒノが目の前に向かって飛行して、斬撃を躱す。
「ぐっ!」
少しだけ足に掠った。だが、これならすぐに再生する。
ヒノが大きく成って魔剣を回収した。
「ふぅ。まだ、絶望してない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます