第24話 勇者契約と覚悟
ゆっくりとゆっくりと足を動かして接近して来る鬼。
確実に負けて死ぬ。
死にたくない。生きたい。そう思っていたのに、いざ死ぬとなると、なんか納得してしまう。
はぁ、バカだった。なんで、独りで来たんだろ。
オーガ二体を独りで、ヒノと一緒に倒した事で調子に乗ったから?
再生能力があっても、結局は雑魚の私。
敵の全力すら測れず、いずれ勝てると踏んだ愚か者。
バカだ。バカ過ぎる。ただの女子高生だった私が、思い上がり過ぎた。
あぁごめん。ごめんね。ごめんなさい。
ヒノ、こんな弱くて愚かな主人の元に生まれて来てくれて、ありがとう。
裕也さん、拾ってくれて、ありがとう。人の暖かさを教えてくれてありがとう。
紗波さん、料理を教えてくれてありがとう。
源さん、私の節約術を楽しそうに聞いてくれて、ありがとう。
そしてごめん。
意識が朦朧とし、目が霞む。
もう助からない。痛みも感じない。寧ろ暖かい程だ。
私は少年漫画が嫌いだ。確実なハッピーエンド。
仲間は死ぬかもしれない。だけど、主人公は生きている。
仲間と共に成長して強くなる。超王道。
くだらない。仲間が居るから強くなれるなんて、そんなのは無い。
作者の考えたシナリオに沿って強くなるだけ、孤独の主人公だろうといずれ仲間は出来る。
何故か? 話が進まないからだ。
私は少女漫画が嫌いだ。
顔も性格も良い主人公が、これまた顔も良くて性格も良くて運動も出来る完璧ヒーローに助けられ惚れられる。
超王道。超嫌い。
現実にそんな都合の良い話は無い。ヒーローなんて存在しない。
警察も自衛隊も、どいつもこいつも、困っても助けてくれない。
なんで主人公には無条件に助けてくれる人が現れるんだろう。
世の中理不尽だ。
生まれた場所、自分のスペック、将来は産まれた時から決まっている。
待たざるもの、持っているもの、そこには確実な差が存在する。
弱者は永遠に弱者だ。それは変わらない。
あぁクソ。超クソ。
私の嫌いな『運命』と言う言葉が頭を支配する。
自分の力を勘違いし、調子に乗って死ぬ。
人は簡単に死ぬ。それは当然、私も例外では無い。
ほんと、クソたっれだ。
「⋯⋯」
私は諦めた。だが、ヒノは諦めなかった。
私の横を飛来して、勝てる筈も無いのに鬼に向かって体当たりした。
当然振るわれる刀。切断されずに地面に叩き倒される。
だが、それでも何回も当たりに行く。鬼は飽きたのか、私に向かって来る。
ヒノが必死に止める。伝わって来る。
私を殺さないでと。
必死に抗うヒノ。だが、それを無慈悲にも跳ね返す鬼。
ダメージは与えられない。血を吸わない蚊が近くを飛んでいる感じだろう。
なんで、なんでだよ。
なんで戦えるんだ。なんで動けるんだ。
壊れないからって、動ける訳が無い。怖いだろ。
なのに、なんで⋯⋯。
私が死んだら、ヒノも消えるからか?
消えたくないからか? ヒノも死にたくないよな。
でも、何か違う気がする。
あぁクソ。
ヒノが頑張ってるのに、まだ少しだけ意識があるのに、諦めてどうする。
ヒノが戦っていると、私も頑張らきゃって、戦わなきゃって、思っちゃうだろ。
ヒノにカッコイイ主って思われたいだろ。
だったら、動けよ。
ヒノは諦めてないんだ。なのに、主の私が諦めてどうする。
カッコイイよヒノは。こんな絶望的な状況の中でも、必死に戦う。
諦めずに必死に戦う。
こんなの、勇気が出るに決まってるだろ。
ずるいよ、私をここまで変えてさ。ヒノの為なら、まだ動けるって思えるんだから。
絶望した時、毎回ヒノが助けてくれる。今回も、ヒノが助けてくれた。
だからさ、今度は私が助ける番だろ。
「ぁぁ⋯⋯」
どっぷりと血塗られた手を伸ばしながら、体を引き摺らして魔剣へと進む。
進む度に血が更に飛び散る。
レベルが無ければ、もしももっと低ければ、確実に即死だ。
寧ろ、なんで生きているか不思議な程だ。
私は確実に勝てる力で無双する話が好きだ。私は強敵を前に怒りで覚醒する話が嫌いだ。
でも、今は逆だ。
私の思いに、答えてくれるなら、覚醒出来るなら、あの鬼を倒して、ヒノと一緒に帰れるなら、私は少年漫画の展開を望む!
「ぁ」
魔剣を握り、体の中に血が入り込んで来る。
ドクン、ドクンと心臓が鳴り、体が再生されて行く。
ヒノが足止めをしてくれている。だから、私も全力でその思いに応える!
「居るんだろ自称神! 契約だ! お前の力を貸せ!」
『その気に成ったか』
「御託は良い! 契約だ!」
『分かった!』
私の周囲に光り輝く魔法陣が展開される。
『契約を⋯⋯』
「契約内容は、私が自称神のお前の力を借りたいと願う時、力を貸せ! その代わり、力を借りる度にお前の願いも一つだけ聞いてやる! 交換条件だ。お前の力を借りる代わりに願いも聞く!」
『え、いや、え?』
「早く!」
『わ、分かった?』
魔法陣がさらに輝き、私の中に溶ける様に消えて行く。
その瞬間、世界の動きが少しだけゆっくりに感じた。
感覚が研ぎ澄まされて行く。
私の変化に気づいた鬼がヒノを蹴り飛ばして、肉薄する。
刀を掲げて振り下ろす。さっきまでの私なら、確実に死んでいる斬撃。
だが、今なら避ける事は可能。
「だが、避けない」
鬼の動きを思い出せ。体の動きを思い出せ。そして考えろ。どのように刀を振るっていたか!
「やあああああああ!」
下から刀に向かって魔剣を振り上げる。
カキン、と火花を散らして甲高い金属音を響かせて互いに弾く。
バックステップで距離を取り、ヒノが私の隣に飛んで来る。
心做しか嬉しそうだ。私もほっこりと安心する。
『お前の頭に剣術が浮かんでいる筈だ! それを使え!』
「断る!」
『何故だ! 勝てるのだぞ!』
「そんなの、私じゃない。大体、いきなり頭に浮かんだ剣術なんて咄嗟に使えるか。なんかスキルとか増えてないの?」
『パッシブで【思考加速】な、なに! 【英霊の眼】だと! これは凄いぞ!』
「どうでも良いから全部言え!」
相手の重い一撃を防ぐ。
本当にギリギリで防ぎ、そのまま後ろにステップする。
『【模倣】これは契約して、さっき活性化したスキルだな。君が奴のマネをしながら戦っていた結果だろう。そしてアクティブで【闇属性魔法】【自己再生】【腐敗魔法】【勇者の一撃】だ。契約直前だし、この程度か。これからスキルを増やして行こう!』
「くっそが!」
『え?』
魔法は練習しないとまず使えない。そもそもどんな魔法が使えるか分かんないし。
【勇者の一撃】だぁ? もっと良い名前なかったのか。弱そうに感じる。
「だけど、これに賭けるしかないな。ヒノ、生きるぞ!」
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