第16話 私らしいボス戦
「取り敢えず、田中さんは降りてください。魔法の準備を」
「あ、うん」
「私の指示で動いてください。絶対に勝ちます」
「わ、分かった!」
「あ、隙を見て背中を火属性魔法で炙ってください。成る可く、柔らかくなる様に」
「はい!」
地面に田中さんを降ろして、ヒノの上に立つ。
魔剣をしまって包丁を一本取り出す。
オークの周りを飛んで、鉈を躱しながらヘイトを集める。
少し離れた位置の地面に着地する。
『おおおおおお!』
オークは咆哮して、地面をノシノシと駆ける。
「枕に攻撃力は無い。大した攻撃には成らない。だけど、工夫次第では、強い武器なんだ」
細長く捻れ、先端を尖らせるヒノ。ドリルの様な見た目だ。
ぎゅぎゅっと細くして行き、【硬質化】で硬く成る。
本当は防御力を上げて盾にするスキルだろうが、これは攻撃にこそ意味がある。
回転し始めるヒノ。正にドリルと思わんその動きで、飛来する。
空気を螺旋状に切り裂きながらオークの目に向かって突き進む。
オークは油断しないで動きを良く見て、鉈を振るい弾く。
「お前さ、遠距離攻撃を防ぐ時って、最初に鉈、振るうよな?」
鉈を大振りで振るうオーク。それに寄って、視界はかなり塞がる。
太い腕等の体格も原因だろう。
しかも、大振りなので、すぐさま攻撃に移せば回避も防御も不可能。
ヒノが弾かれ、半分が曲がるが、そのエネルギーすら利用して、私をオークに向かって放つ。
「肉や骨が硬くても、瞳は柔らかいよなぁ!」
吹き飛ばされる勢いを利用して、包丁を目に突き刺す。
グサリ、何時もとは違う感触に苛まれる。
気持ち悪さは不思議と感じない。今はただ、相手を殺す事に必死なのだ。
生きたい。死にたくない。人間としての当然の考え。そして闘争本能。
『おおおおおお!』
「うるさいよ」
腰にセットしていた『爆発石』と言う、ダンジョンで手に入った爆弾的な道具。
利用出来ると思って乱獲した。手に入れるのは大変だった。爆発させない様に即死させなといけないからね。
利用方法は簡単。軽い衝撃を与えれば良い。
相手の口の中に入れれば、簡単に爆発する。
「おお!」
ヒノが私を包み込み、ゴロゴロ転がり、止まる。
痛みに震え、血がチョロチョロ流れる右目を抑えて、私を見ている。
「痛そうだね。辛いよねぇ。悪いが、それはお前が私に与えた痛み寄りも弱いんだよボケっ!」
そう言うと、再び咆哮を上げて地面を駆けるのではなく、地面を抉って、その瓦礫を放って来る。
ヒノの力があれば、飛びながら回避は可能。
「右目を狙って、火属性の魔法を!」
「火属性魔法、
正確に命中し、貫かれた瞳が焼かれる。それに寄って、ヘイトが田中さんへと移る。
ヒノがオークの上空へと飛んで、回転する。
「目が回るぜ」
そのまま自由落下して行く。落下して行く度に増える運動エネルギー。
それを全て利用して、再びダンジョンで手に入れた戦鎚を出して行く。
「くらえ、ダンジョン入手、売値1000円の重みを!」
私の力では持てなかったただ重いハンマーを振り下ろす。
ブヂッと鈍い音を響かせながらオークの頭を撃ち落とす。
少しオークの膝が曲がったが、生きている様だ。
安心して欲しい。私も死んだとは微塵思ってないし考えてない。
「ヒノ、昇れ! 田中さんは走って離れて!」
「う、うん」
ハンマーを捨てて上空へと昇る。怒り浸透のオークがヒノを見上げる。
どんな目をしているか、場所的に見えない。
「爆ぜろ」
そして、ヒノの口を広げてパラパラと『爆発石』を落として行く。
一つ二千円で売れるが、利用価値があり、残していた。
ドバドバン、と連鎖で爆発して行く。
爆炎に包み込めるオークを見下ろし、オークはその中でも蠢く。
「ひぇー。流石はボスですかそうですか。楽に死んでくれたらどれ程嬉しい事か」
あともう一つの目を潰さないといけないのに。
「あ、そうだ。田中さん。服を脱ぐって意識しておいてください!」
「へ?」
そうじゃないと、ヒノを使った速攻着替えが出来ない。
さて、そろそろ爆炎が収まるので、私は落下する。
魔剣を構えて。
「死ねーーー(棒)」
『うおおおおお!』
赤く輝く鉈を振るう。斬撃でも飛ばすのだろうか?
ビンゴである。赤い斬撃を私に向かって放って来た。
「スキル使えるのかよ」
背中に隠れていたヒノが通常サイズに成り、私の落下軌道を変えて躱す。
目の前を過ぎ去る斬撃に怯えながらも、オークを見る。
「光とお別れをすませな」
魔剣の大きさと鋭さがあれば、目を突き刺せる。
血が噴水の様に出て来る。血を成る可く浴びる事にする。
ヌメっとした感覚に吐き気がする。臭い汚い。
最悪だ。もう帰りたい。
「ヒノ!」
手を伸ばして来るので、すぐさまヒノを左手で掴み、空を飛んで脱出する。
ヒノ飛び回避は良く使う。
「さーて、終わりにしようか」
私はすぐに田中さんに肉薄して、ヒノで包み込む。
適当にとある物を吐き出して、私はオークの上空に向かって、水の入ったペットボトルを投げる。
それを魔法で撃ち落として貰い、中の水がオークに降り掛かる。
「あの⋯⋯」
「シーー」
ここで音は出してはダメだ。重要なのは、相手の行動。
相手は化け物だ。だけど、考える知能はある。
鉈で遠距離攻撃をプログラムされたモンスターの様に弾いていたが、現実的に無意識で行う事がある。
それに掛ける。
「⋯⋯ニィ!」
私は笑みを浮かべた。相手の動きを見て、確実に勝てると分かったからだ。
相手は両目が機能しなく成った。痛みに悶えながらも、痛みを与えたゴミを処分する為に、その殺意を持って行動する。
ここで当然の事が思い浮かぶ。
目が見えない人はどの様に周囲を確認する?
棒を使って感覚で確認する。耳を頼りに音で確認する。
そして、無意識で行われるのは、使える中で一番優秀なモノを利用する事。
オークは、田中さんに向かって、鉈を振り下ろした。
ドンっと地面を殴った。埋まる鉈。かなりの力を込めた様だ。
田中さん⋯⋯そこには田中さんの服があった。
私のジャージも近くに置いてあったのだが、魔法を使う後方役を先に狙った様だ。
「豚は鼻が利く。だから鼻を利用して、臭いで場所を把握する。分かり易くてありがたいよ!」
私と田中さんの服を適当に放り出し、私達は水を浴びた。
成る可く臭いを落とす為だ。ジュースでも買っておけば、もっと成功率は上がったかもしれない。
ジャージにはオークの血もあるので、余計に信憑性を上げる。
服は念の為、今は着ないでおいた。
つまり、田中さんも私も裸だ。
「お前に水を掛けたのは、臭い分散と、電気を良く通す為」
さぁ、最後の準備と行こうか!
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