第15話 死を直感する
あれから二週間ほど経った。最近では魔剣ではなく包丁で狩りをしている。
細かく素早く対象を殺害出来るのと、料理を教わっているので、包丁の方が使いやすいからと言う理由がある。
レベルもだいぶ上がったし、常連さんとの会話も良く出来る様に成った。
これが成長と言うモノだろう。
「もうすぐ冬休みか。そろそろお金も貯まって来たし、クリスマスに良いプレゼントを渡そう」
そう決めて、校門へと差し支える。
そこには、あの男が立っていた。
「世羅ちゃん! 最近良く見えないから⋯⋯家とは違う方向から来たよね? どうしたの?」
「い、いや。なんでも」
さっさと話を終わらせて教室に行こう。
⋯⋯それで良いのか?
きちんと言わないと相手には伝わらない。それがこの二週間で良く分かった筈だ。
まずは、相手の目を見て話す。紗波さんから言われたじゃないか。
歯を食いしばり、男の目を見る。
「⋯⋯ッ!」
お客さんや紗波さん達の目ならいくら見ても怖く無かった。
それは年上だからかもしれない。そうでない人もいるけど。
同年代だからか、その目は悪魔そのモノに見えた。
何を考えているか分からない。ただの闇。
深く深く暗い目の奥に恐怖を感じる。
久しく見ていなかった相手の目。それがこれ程までに怖いとは思わなかった。
人の目なんて気にした事は無かった。
疑問が表に出た目が私の恐怖心を撫でて来る。
寒い。内側から寒さを感じる。
相手から目を離せば多少は良くなった。
「だ、大丈夫?」
「⋯⋯ぅ。ぁ、うん。大丈夫」
名前すらもう思い出せない男。
そいつの横を通って走って教室に向かった。
無理だ。客や紗波さん達ならともかく、同年代、それもこの学校の人とは無理だ。
関われる気がしない。
今日一日、周りの視線がとても気になった。
嘲笑ったその目。
⋯⋯もうヤダ。
そして土曜日。本当にあと少しで冬休み。
さっさと成って欲しい。学校に行きたくない。
言葉に表せない恐怖を毎日の様に感じる。
無理して相手の目なんて見るんじゃなった。後悔してもしたりない。
「田中さん。今日はどうするんですか?」
「見てくださいよ鈴木さん! コレを!」
差し出されたスマホの画面を見る。
そこには場所を指すマーカーと推奨レベルが書かれたダンジョンが映っていた。
「ボス攻略の抽選が通りました! 推奨レベルも、私達なら問題ないです!」
「良く近場で手に入ったね」
ダンジョンの数と探索者の数、それは当然合わない。
攻略するとダンジョンは消える為、ボスは基本的にダンジョンが探索し終わってから挑む。
そして、それらは探索者管理局が管理している。
無断でダンジョン攻略したら、討伐完了後にゲートが会った位置に出るので、あちこちから叩かれる。
下手したら探索者としての資格を剥奪される可能性もある。
唯一の例外としては、ダンジョンが現れてから半年後に起こる崩壊の時だけだ。
「あと一ヶ月で期限切れらしいです」
期限切れと呼ばれるそれはダンジョンが崩壊するまでの日にちを意味指す。
ま、そんな事は私には関係ない。
そのダンジョンに向かいゲートを通る。
ボス戦が許可されたダンジョンなので、人気はゼロと言って良い。
それでもモンスターは湧くのでタチが悪い。
崩壊すると、この中に居るモンスターが全て外に吐き出される。
「なんか顔色悪くないですか?」
流石に二週間共に戦えば、顔くらいは見れる様に成った。
ま、一方的ではあるが。
「人の目を見てな。昔から知っいる筈の人の目、なのにそれが、とても怖かったんだ。周りも同じ。皆同じ目。それが堪らなく怖いと知った」
「そうですか。と、そろそろ見えますよ!」
ヒノで飛んでいる。ヒノで寝たのに、精神が回復しない。
今も思い出す。あの男の表情を、あの目を。
言葉で表わせと言われても困るが、とにかく怖い目。
「気を取り戻すか。何回考えても意味ないし」
ヒノから包丁を取り出し、地面に足を着けて、二人でボス部屋へと繋がる扉を押す。
ゆっくりと開き、中には大きな鉈を持ったオークを見る。
ゲームで良く見るタイプのオークだ。
めっちゃ怖い。オークもゴブリンに近いイメージが一部存在するが、アレは完全戦闘タイプだ。
と言うか、初日のアレ以来、モンスターは基本的に人間は殺しに来る。問答無用で。アレは例外だった可能性がある。
「何時も通り、行くか」
「ダンジョン主も同じですか〜」
「当たり前でしょう。安全なら安全な方を取る」
ヒノで飛んで空中から魔法攻撃で倒す。
「火属性魔法、
火の円が回転しながらオークに向かって突き進む。
薄暗いこの空間を明るく照らす火を鉈で軽く切り裂いた。
「「ッ!」」
足に力を込めて、高く跳躍する。
私達と同じ高さに来て、鉈を掲げる。
「ヒノ、吹き飛ばせ!」
田中さんを地面に向かって吹き飛ばし、ヒノは私ごと横に素早く飛ぶ。
ヒノも今ではレベルが上がっている。その反応速度は確かに、上がっている。
「魔剣を育てていれば、もっと楽に倒せたのかな?」
オークがゆっくりとこちらを向いて来る。
鼻から空気を強く出しながら、迫って来る。
「大き過ぎなんだよ!」
振るわれる鉈に合わせて左手に持っているヒノが飛び、それを避ける。
相手の背後に飛び回れば、私が包丁を垂直に放つ。
パリン、軽く包丁は弾かれた。純粋に包丁の耐久力が無かった。
数はある。ヒノの回転を掛けた武器飛ばしでも意味があるかは分からない。
魔剣を取り出す。
相手の大きさを考えて、ヒノが【硬質化】したところで、攻撃は受け止めれない。
だから、避ける事にする。
「光属性魔法、
光の弾が私の横をすり抜けてオークに向かって放たれた。
かなりの速度だが、鉈でそれを弾いた。
しかし、大きな巨体での大振りはそれだけで内側に大きな隙が出来る。
ヒノのスピードなら、その隙で懐に入る事は造作もない。
「はあああああ!」
スピードに乗せて魔剣を突き刺し、ヒノと共に上へと飛んで切り裂いて行く。
血を吸って行く魔剣。
『ああああああ!』
オークの左手の叩きが迫って来る。
ヒノがくるりと私を包み込み、衝撃を和らげる。
壁に激突して、開放されると、目の前に鉈を突き出しながら迫って来るオークが正面に居た。
「ヤバっ」
壁にめり込む鉈。舞う鮮血。
ヒノのお陰で、少しだけ場所をズラす事が出来た。
しかし、深めに横腹を裂かれた。地面に転がり、床に血が広がって行く。
忘れていた。今までの経験から目を背けていた。
防具を買ってない。ダンジョンからも入手出来なかった。或いはサイズが合わなかった。
だからこそ、ジャージに血が染みて、ヌメっとした感覚が手に感じる。手が真っ赤だ。
熱く痛い。
声が出せない。それだけの痛みを私は感じている。
死ぬ⋯⋯そう直感させるには十分な痛みだ。
怖い。これが死の恐怖。
人の目とは感じる恐怖が正に別物。
あっちはトラウマ、こっちは死。
「がはっ」
逆流する感覚に抗えず、口から血が出る。
叫び出したい。泣き出したい。逃げ出したい。
しかし、一度入ったらボス部屋からは逃げ出せない。それが余計に恐怖を増して行く。
「火属性魔法、風属性魔法、
螺旋を描く火の槍がオークを攻撃し、私からのヘイトを変えた。
その隙にヒノが回復してくれる。魔剣の再生も使う。
痛みが引いて行く。
「なんで。なんで魔法が、⋯⋯効いてないの! 推奨レベルでは問題ないのに」
推奨レベルはあくまで推奨。
確実なモノではない。
我々人間は日々成長する。私も成長した。成長に寄って感じる恐怖も感じた。
現実に取って確実と言うモノは本当に少ない。
「いや⋯⋯」
閃光の如く振るわれた鉈。その軌道の先には当然、田中さんが居る。
「あああああ!」
痛い。まだ痛い。怖い。動きたくない。なんで戦わないといけない。
なんで死の恐怖を感じないといけないんだ。
私は安心安全であわよくば楽して稼ぎたい。でも、それだと結局私と言う人間は変わらない。
私は甘い。心の何処かでヒノがいれば安心だと思ってた。
「田中さん。全力で行きます!」
「え、ええ?」
「私は貴方を守る。だから貴方も私を守って。そして、二人のカバーをヒノがする」
先日から恐怖を感じてばかりだ。克服出来るか分からない。
だけど、これだけは言える。
「殺すっ」
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