第14話 嘘と嘘の虚像の塊
「火属性魔法、
杖の前に小さな火の球体が出現し、下に居る四速歩行の狼に向かって放たれた。
直撃し、焼ける様な痛みと苦痛を与えて行く。
もがき苦しむ狼に向かって、私はヒノから包丁を取り出して、投擲した。
刺さったかは不明だが、命中したのは確かだ。
狼が魔石へと変わった。
「チームの件、受けるよ。よろしくね」
「せめて顔を見せてくださいよ。あ、私田中
「私は鈴木凛子」
そんなこんなで、私は基本的に包丁で、田中さんは魔法で空中から狼を倒して行く。
超安定して楽な戦い。
移動中の田中さんはヒノの【催眠術】を利用して眠らせ、魔力を回復させている。
回復が終わると自然に起きる。モンスターを見つけても起こす。
「それにしても、このフワフワの空飛ぶ乗り物、凄いですね。一体どこでこんなマジックアイテムを? このレベルなら、かなりの高難度だったでしょう? それとも買ったんですか? 売ったら数千万はくだらないと思いますよ」
「数千万、ね」
ヒノが驚愕した気がした。
「売るつもりはないよ」
ヒノを安心させる様に言いながら、座っている部分を撫でる。
少し落ち着いたヒノに少しだけ口角が上がった。
私がヒノを売る筈がない。
「乗り物じゃないよ」
「そうなんですか?」
「うん。この子は、友達、いや家族だよ」
「む?」
そんな『この子頭大丈夫』みたいな顔で見ないで欲しい。
顔を自分の目で見た訳じゃないが、ヒノを通じてなんとなく分かる。
分かるから辛い。私はそこまで頭お花畑ではない。
そんな頭では既に枯れて、塞ぎ込んでいる。
いまさらだが、ここ最近さらにヒノとの繋がりらしきモノを感じる。
「物も仕舞えて、人を癒さて、飛んで移動出来る⋯⋯物も人も運べる⋯⋯凄すぎますよ。本当に、一体いくらするのか、気になりますね」
「売りませんよ」
何か自分に近いものを感じる。
人が増えてきそうなので、そろそろ降りる事にする。
それに寄って、田中さんはヒノをきちんと見た。
「枕?」
「枕で悪いですか?」
「あ、いえ」
ヒノは小さくなって、ポッケに入った。
今日の収穫は大量の武器だった。正直、ヒノを使った武器の投擲を見出した今、武器は売りたくない。
なので、今日の成果もゼロだゼロ。もう慣れたね。悲しくないさ。ただ、虚しいだけさ。
「大丈夫ですか?」
「うん」
結局、私達は顔を合わせる事はしないで解散とした。
明日はまた別のダンジョンで待ち合わせする事を約束して。
◆
田中慧と名乗った女性はそのまま路地裏へと入った。
そこで数分待つと、数名の男達がやって来た。
「どっかのボンボンか?」
「いやいや。ジャージだぜ? 防具ですらない。貧乏だ貧乏」
「しかし、あのマジックアイテムはなぁ」
そんな会話をしている。男達が慧に近づく度、慧の顔色は悪くなる。
「おい、
三人の男の中心に居る、一番細身でスピード特化に鍛えたリーダーがそう言う。
防御寄りで筋骨隆々の男が左側で慧を睨み、反対の大剣を持った男は空を眺めていた。
「う、うん」
「お前の父親が遺した借金はまだ沢山ある。だぁが、あのマジックアイテムは見た事も聞いた事も無い一級品だ。アレを金に替えれば⋯⋯いや、あれには長期的な利用価値もありそうだ。アレを手に入れたらお前の借金はチャラだ」
「ほ、ホントですか!」
「あぁ。俺は約束は守る。それに、おめぇ寄りもあのマジックアイテムの方が使えそうだ」
慧の顔に光が宿る。
(やっと終わる。この地獄が。誰か分からない人だったけど、良い人が釣れた。私の為に、犠牲に成ってね。鈴木凛子さん)
そして、男と慧は解散した。
◆
帰ると、そこには晩御飯が準備されていた。
丁度完成したのか、湯気が出ている。チャーハンだ。
「⋯⋯」
「良いんだよ、食べて」
もしも裕也さんじゃない人が私に手を伸ばしてくれても、きっと私は手を取らなかった。
裕也さんの優しさが、記憶にある父とそれだけ重なった。
チャーハンを一口食べる。
「う、うぅ」
「え、そんなに不味い!」
「違います。逆、です。美味しい、んです。紗波さん」
涙が止まらなかった。
母親からは受ける事の無かった愛情と料理。それだけで、荒んだ心が少し、癒された気がした。
ストックホルム症候群に近いかもしれない。
いやまぁ全く違うのだが。
裕也さん達とはたったの二日しか居ないし、元々警察を私は嫌っている。
まぁ、なんでも良いや。この恩をバイトで返そう。
その為に、私はコミュ力を上げなくては。
「あの、紗波さん」
涙声恥ずい。誰だって泣かれてる姿を見られたくはない。
小学校だったらバカにされて一生分の恥だ。
「料理を、教えて、くれませんか?」
「私は、厳しいぞ」
「頑張ります!」
ちなみに、料理の教えは、本当に厳しかった。
辞めようと思ったのは三度四度では無い。
だけど、紗波さんの誠意に答える為、頑張るのだった。
風呂場にて。
私は暖かい溜まった風呂に浸かっていた。目の前にはヒノが湯に浮かんでいる。
枕なのに、風呂に入る。大丈夫なのだろうか?
「暖かい風呂。もう二度と入る事は無いと思ってたのに」
家出の当日を思い出す。
ゴブリンと同程度の義父、そして無駄に使われた風呂。
「贅沢を今、私はしている。他人の家で、他人のお金で。ヒノ、頑張ろうね」
ちゃぷん、と動く。
やっぱりヒノは可愛い。
家の下にあるバーで私は常連さん達の名前と顔を覚えながら必死に会話をする。
まず、私はコミュ力が無い。絶望的に無い。
コミュ力のレベルがあるなら、マイナス100は行っている。
さらに、エクストラスキル的なレベルで【人見知り】があるだろう。
噛み噛みでカタコト、それでも必死に会話の内容を出す。
「雨水は降った水を使うのも良いんですが、翌日に流れるドブの水、これで大量の水が手に入るんですよ!」
私はドヤ顔で経験談を語った。正直、今すぐに爆ぜたい。
なんでこのチョイスをしたのか分からない。顔どころか全身真っ赤だ。
死にたい。心臓がギューッと握られている気持ちに成る。
浅知恵でドブの水に腹を痛めた。だが、今ではそれも真水に変えれて、良い水となっている。
ほんと、雨と言うのは素晴らしい。生命の母、始まりの水、全ては水から始まっている。
水に感謝しよう。
「ははは。面白いね。だが、体に危険だから、あまりするんじゃないぞ」
源さんが先に声を出して、そう言ってくれた。
私が楽しませる筈なのに、フォローされてしまった。
嬉しいような、恥ずかしいような。いや、普通に恥ずかしいな。だけど、助かった。
自分の黒歴史をドヤ顔で語っているんだ。恥じるべきだ。
これを笑いモノとして扱える人はいるだろうか?
どんな年齢でも、バカにされ弄られるネタに使われるだけだ。
しかし、源さんはそれをしなかった。
あぁ、やばい。この空間、とっても好きに成りそうだ。
それから、私は頑張って、常連さん達と会話をするのだった。殆ど、受け答えだったが。
いずれ、皆を楽しませる会話が出来ると良いな。⋯⋯私には無理だろう。
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