第13話 自己満の人助けは善意ではない
同じ様な狩りを続けて、時間が来そうなので帰る事にした。
ゆっくりと飛んでいた時、掠れた、小さな声が聞こえた。
助けを求める声だろう。⋯⋯だけど、私には関係ない。
聞こえたから助けに行く、そんなカッコイイ存在は居ない。
それが現実だ。
「⋯⋯」
だけど、それは恥ずかしいのではないだろうか。
私は何度もヒノに助けられた。肉体的にも精神的にも探索的にも、全ての事においてヒノは私を助けてくれている。
そんなヒノを前にして、助けを求める人を分かって居ながら見捨てる⋯⋯そんなマネ、していいのだろうか。
私の考えはヒノに伝わっている筈だ。
「ヒノは、どうしたい?」
なんとなくだが、ヒノから思いが伝わって来る。
正直、どうでも良いと言う思いが。ヒノに取って、私が全てらしい。
嬉しい気持ちになる。
「そうだね。これは私のエゴだ。私は、ヒノにカッコイイと思われる主人が良いからね」
少し喜ぶヒノ。私の為に、嘘を付いていたようだ。
本当に主人想いな枕である。
声が聞こえた方に向かって飛ぶ。
そこには大きな杖を持って、尻餅を付いてプルプル震えている女子が居た。
「ウザ」
それは女の子に言った訳じゃない。昔の自分に言ったのだ。
彼女の姿といじめられた初期の自分が重なったのだ。
力を怯え、ただ誰かが助けてくれるのを懇願する滑稽な姿。ほんと、ウザイ。
状況は褒める事が可能な程に絶望的だった。
彼女は見た目的に魔法士、魔法を使う為の時間が至近距離で囲まれてら取れない。
数は四足歩行の狼が六匹、二足歩行の狼が二匹。
正直、逃げたい。
「ヒノ、行ける?」
右回転⋯⋯行くか。
私は地面に着地し、ヒノを回転させる。
「おら狼達! 餌はこっちにも居るぞ!」
全員が振り返り、凶悪な顔を向けて来る。漏れ出ている牙を見ると、とても逃げたくなる。
でも、私は変わりたいと思っている。そして、最初に変わるのは⋯⋯ヒノにカッコイイ主人であると思わせる所からだ。
私のレベルも上がった。武器も増えた。戦い方が増えた。
だから、殺れる!
「だけど、やっぱり怖いよね」
ヒノを高速で回転させ、二足歩行の狼を倒して手に入れた武器、包丁を二本放った。
四足歩行の狼に掠り、それに寄ってヘイトが集まった。
皆速い⋯⋯だが、全員地を走っている。
「行くよ、ヒノ!」
ヒノが上空へと飛び、大きくなってチャックを開いて大きく開ける。
その中が光り、網の様な鎖分銅が出て来た。
検証次いでにやったのだ。私の着替えがヒノの中で完結するなら、出来るかもしれないと考えたのだ。
ヒノの中にあるアイテムをヒノが操作して繋ぎ合わせる。
それが今の網である。
二足歩行の狼なら八割の確率で持っている鎖分銅を繋ぎ合わせて網状にしたのだ。
これで相手の動きを止める事が出来る。後は、一方的な攻撃で終わりだ。
「悪く思うなよ? 何をしてでも勝つ、勝った者こそが正義なんだ」
今ではもう馴れた肉を斬る感覚。魔剣で刺して数を減らして行く。
時々攻撃しようとして来るが、鎖のお陰でスピードが遅く、躱す事は可能だ。
攻撃は受けたくない。服が裂かれては勿体ない。
「ぬおっ!」
しかし、二足歩行の狼だけは手を使って抜け出して来た。
残り二匹。
片方は盾と短剣、片方は鎖分銅と盾。
どっちとも盾を持っていたが、鎖分銅の網に寄って、盾を出すのが苦戦したらしく放置された。
結果、短剣持ちと鎖分銅持ちである。
戦い方は、一応考えている。
「おうおう怒ってますね。そりゃあ怒りますよね」
鎖分銅を放って来て、もう片方の狼が私に向かって来る。
鎖分銅をヒノがその身で受け止める。絡まったのを確認して小さくなり脱出する。
【硬質化】を使用した鋼色のヒノが私に迫って来た狼に突進して、少し押した。
その少しが大きく、相手は転けた。
その隙を見逃す私では当然ない。
確実に仕留める。まずはヒノが大きくなって、相手の体を包み込む。
その上に素早く私が深く乗り、体重を使って動けない様にする。
魔剣を首を狙って突き刺す。
残虐? 非道? 誰がそんな事を言えるのか。
相手は確実に自分を殺して来る相手だ。それは相手の立場でも変わらない。
そんな命のやり取りで騎士道だの謳って戦う愚か者はただの馬鹿だ。
自分が生きていればそれで良い。それが正しい。勝てば、最後に立っている事で、全てが正義となるんだ。
「しまった!」
しかし、一匹倒すのに気を取られていた私は、右手首を鎖分銅で捕まえられた。
相手には武器がこれ以上無い。しかし、凶悪な爪や牙が存在する。
「⋯⋯ヒノ、殺れ」
【硬質化】を利用して殴る。
高速回転が可能なので、それを利用しての打撃も与える。
それは相当の威力らしく、血を流す。それでも、武器から手を離さない。
ヒノが一旦離れ、スキルを解除して回転し、武器を放った。
包丁が数本突き刺さる。それに寄って、鎖分銅から解放された。
駆けて、肉薄する。魔剣は大きいので投げて、包丁を広い両手で持ち、腹に突き刺す。
グルンと回転させて刃を上に向け、切り上げる。
何故って? この方が内蔵を切れるからだ。あくまで予測だけどね。
悔しい体の構造や、刃物の刺し方なんて知らない。知ってたら私はサイコパスだ。
それでも確実に殺す、それが私のポリシーだ。
「討伐、完了」
確かな成長を噛み締めながら、私はヒノを撫でる。
未だに地べたに座り込む女の子を見下ろしてから、踵を返す。
「ま、まま、待ってください」
疲れたので、ヒノに乗る事にする。枕にして寝ているので、あまり足とか尻とか乗せたくないが、疲れたので仕方ない。
高く飛ぶヒノ。人が多い所まで飛んで貰う事にしよう。
その方が楽だ。それに、寝ていれば回復も出来る。
やっぱ、ヒノタクシーありなのではないだろうか。
「ちょ、なんで行くんですか! 待ってください!」
私は何も言わないが、ヒノが動き出す。
「拘束せよ、チェーンエッジ!」
鎖の魔法をヒノが回避する。相手が全力で止めて来ると分かったので、私も地面に立つ事にする。
おっと、疲れが襲って来た。立つのが辛い。面倒なので、ヒノに背を預けたままだ。
「た、助けて、くれて、ありがとうございます!」
「あうん。それじゃ」
「待ってください! わ、私と、チームを組みませんか!」
「無理無理ありえない。君を助けたのは、自己満足の為だ。そこに善意の気持ちは無い。君がなんと思おうが自由だが、これ以上関わるつもりは無い」
「どこを向いて言ってるんですか!」
相手とは真反対の方向を向いて、私は言った。
どうだ! 人相手に長文だぞ? この私を知っている人が居たら褒めてくれる事だろう。⋯⋯いや、陰キャが調子に乗ってる、とか、勘違いブス女、そんな言葉で終わるか。
「私、役に立てます!」
ヒノが動き出すと、そのヒノにしがみついて来る。
「絶対に離しません!」
武器は既に仕舞った。彼女は私の秘密を知っている。仕方ないので、途中まで運ぶ事にした。
「本当に助かりました。囲まれて、仲間に裏切られて、本当にピンチだったんです。本当に絶望でした。貴女は私のヒーローです」
「ごめん、私ヒーローってのが嫌いなんだ。あまり言わないで」
「あ、はい」
相変わらず相手とは反対の方向を向きながら会話をする。
顔も直視してない。
「ま、逃げた仲間の方に大半の魔物が行ったんですけどね。ざまぁみろです! でも、あまりアイテム配分とかしてくれなかったので、何かしらの方法で生き残っているとは思いますけどね」
「それを私に言ってどうなるんだよ。少しは聞かされるこっちの身にも⋯⋯」
途中で口に出ている事に気づいた。疲れかな。本音が口からポロポロと零れてしまった。
反省反省。二度とこんな事はないと思うけど。
「私とチームを」
「無理っ!」
だが、この日を境に彼女とチームを組んでダンジョン攻略をする事となる。
彼女の力は素晴らしかった。私の思想とマッチしていたのだ。
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