第12話 コンビ技)0:10

 目が覚めた。昨日は夜遅く寝たのにヒノのお陰で頗る体調が良い。

 ヒノ睡眠サービス、どうだろうか?

 ヒノは大きく成れるし、沢山の人を一度に寝かせる事が可能だ。

 出会い目的で利用してくれる人もいるかもしれない。

 しかし、その後私が使うので嫌だ。この案は無かった事にする。


 ヒノは嫉妬深い。私が他の枕を使おうとすると収納して出してくれないのだ。

 それが嬉しいやら可愛いやら面倒臭いやら、色々な感情が出て来る。

 まぁぶっちゃけ、ヒノで寝た後を経験した私は他の枕で寝たくない。

 ヒノは完璧な枕だ。流石は神器。


「朝ごはんよ〜」


 私は今、居候している。

 拾ってくれた旦那さんの名前は裕也ゆうやさん。奥さんが紗波さなみさん。

 紗波さんの朝食は和食であった。正直意外である。


「良いんでしょうか?」


「その分、働いて貰うわよ」


「⋯⋯頂きます」


 一口、焼き鮭を食べる。感想を一言、美味しい。

 箸が止まらない。美味しい。美味しい。

 と、言うか。久しぶりに料理を食べた気がする。

 基本的にコンビニのおにぎりとかカップ麺だし(贅沢)。後は生野菜。時には雑草かな。

 だから、本当に美味しかった。


 これは、頑張らないとな。

 今後の事も考えて、料理教えてくれないかなぁ。


「ご馳走でした」


 私は学校に向かう。「ここからでも大丈夫?」と聞かれたので「問題無し」と答えた。

 実際、ヒノを使えばすぐさま学校には行ける。

 今度から定期も要らないだろう。


「⋯⋯これから、ダンジョンどうしようか」


 正直、裕也さん達と居るのは心地が良かった。

 あの義父が居る家には帰りたくない。当分、お世話に成る事とする。

 ありがとう、お二人とも。


「ヒノ、何かお礼しないとね」


 学校に着く。

 いつもなら面倒な男が居るのだが、今日は当然居ない。

 もしも彼が飛べるなら話は変わるけど、そんなスキル持ってない⋯⋯と信じたい。

 そのままいつもの時間を過ごす。


 放課後、私は一人で路地裏へと入った。ヒノで帰る為に。


「いったい私が何をしたと言うんだ」


 今日は一段と暴力が苛烈だった。私のレベルが上がり、少し丈夫に成った事により力を上げたようだ。

 今でも腹がジンジンと痛む。

 バイトは夜から。昼間は暇。帰っても迷惑に成る可能性が高い。

 それに、昼間二人が何をしているか分からない。


 なので、その間の時間に私はダンジョンに行く事とした。

 家の前のダンジョンはもう無い。結局、アイテムとか見つけ出せずに終わった。

 契約しないと色々と教えてくれないから不親切だ。

 ま、もう二度と会う事はないだろう。魔剣の方に入っているっぽいけど、あっちからは話しかけて来ない。


 近場で、簡単で、それでいて良い条件のダンジョンを探す。

 見つけたのでそこに向かい、ゲートを潜る。

 中には帰ろうとしている探索者がちらほら居た。

 人が多い人気のダンジョンらしい。


 周りを見ても、武器を担いでいたり、厨二病ですかと問いたくなる格好の人も居た。

 あれが普通なのがこの世界だ。逆に言えば私は今、ジャージ。

 ヒノ着替えで制服から着替えてはいる。

 まぁ、ざっくり言えば、私が異質なのだ。

 他者の目がこちらに向けられるので、さっさと行く事にする。

 ヒノの事は世間に晒したくない。なので、途中まで自分の足で走る。


 走るって辛い。


 人気の無い場所に移動し、ヒノを使って飛ぶ。

 人が上を見ない限り見つかる事はないだろう。

 でも、一応警戒する。


 このダンジョンは基本的に狼が居るらしい。

 四足歩行から二足歩行、四足歩行の狼は突進噛み付きか爪での攻撃で、横にステップして避けて攻撃すれば簡単に倒せるとあった。

 逆に二足歩行は道具を使って来るから注意が必要。

 ま、誰が相手だろうとヒノの盾は崩せない。

 ヒノは破壊出来ないのだから。圧倒的な力で吹き飛ばされる事はあるけど。


 後は、ボス部屋は見つかっているが、まだダンジョン全域が探索された訳では無いので、まだアイテムが残っているかもしれないとの事。

 是が非でも金になるアイテムが欲しい。


 進むと、四足歩行の狼とエンカウントした。相手は一体。

 ならば処理は楽だ。

 狼は地面に居る私を餌として認識し、颯爽と駆けて来る。その目は完全に野生の野獣。

 相手は見た目通り狼、それに対して私はうさぎだ。弱い弱いうさぎ。

 そんな弱者は対等に戦うとか、真正面から戦うとか、そんなのは考えない。


『がうが?』


 ヒノが【サイズ変化】を応用して相手を絡まして行く。

【サイズ変化】は文字通り、サイズを変えるだけで形は変えられない。

 だが、縦だけを大きく(或いは伸ばす)事は可能である。

 それを利用して、細長くなり、相手に絡まして動きを封じる。

 ヒノは飛ぶ事が可能な枕なので、そのまま地面から狼を離す。


 そして、ヒノから先程取り出しておいた魔剣をヒノに向かって構える。

 後はヒノがこちらに向かって飛んで来て、魔剣に狼を突き刺す。

 本来、モンスターは絶命すると魔石とドロップアイテムを落とす。

 それはこの魔剣も例外では無い。しかし、この魔剣は食事を必要とする。

 それは血。


 モンスターから血を得るには生きている状態で沢山吸わせる必要がある。

 本来は沢山斬るのが良いだろう。あっさり倒したら効率が悪い。

 しかし、凶悪なモンスター相手にそんな悠長な事は出来ない。

 血のストックは魔剣を握っていれば、大まかだが分かる。


「名前⋯⋯まだ良いか」


 名前が長く、ずっと魔剣呼びだ。

 四足歩行の狼相手なら、一体だけなら余裕である。


 魔石はヒノが食べ、ドロップアイテムは無かった。

 さらに探索を続けると、二足歩行の狼と出会う。

 右手には包丁を、左手には鎖分銅を持っている。

 武器持ちで頭も良さそうだ。と、言う訳で逃げる事にする。

 私は安心安全で成る可く楽をして稼ぎたいのだ。

 ゴブリンならともかく、あんな相手は無理だ無理。

 こっちは空を飛べる。逃げきれない訳が無いのだ。


「ちょっ!」


 しかし、相手は鎖分銅を上手く使って攻撃して来た。

 アレに捕まっても、ヒノなら大丈夫だが私は大丈ばない。

 なので当然避ける。

 空中に居るのに正確に攻撃する狼に怯えながら、颯爽と逃げる事にする。

 鎖分銅を飛ばす時に溜めの動作があるので、避ける事自体は簡単簡単。


 後は適当に逃げれば良い。

 そう思っていたんだけどなぁ。ほんと、人生は上手くいかない。

 二足歩行の狼は加速して壁をよじ登って来た。

 反対側の壁に向かって飛べば問題なく攻撃は当たらない。

 しかし、相手は遠距離攻撃方法があり、しかも相手の方が高い。

 避ける事は難しい。しかし、相手は狼だ。長時間壁や天井に停止出来ない。


「卑怯だろ! なんだよ、逃げられたら捕まえて近距離に持ち込む気か! 近距離と遠距離の攻撃方法を持ち合わせるなよ! どっちかにしろよ! お前に騎士道精神は無いのか!」


 無いようなので、すぐさま攻撃して来る。

 曲がり角を加速して曲がる。

 狼はそれを追い掛けて曲がり、少し離れた場所に居る私を見て止まった。


「馬鹿正直に来てくれてありがとう。くらえ、ヒノと私のコンビ技!」


 ヒノが高速回転し、タイミングを合わせてチャックから魔剣を出す。

 すると、遠心力などが働き、魔剣は一直線に突き進み、狼の頭を突き刺した。

 血を吸うように、ドクン、と三回程魔剣が唸ると、狼は消えた。

 これが私とヒノ(0:10)のコンビ技である。名ずけるなら、武器射出ウェポンショットだ。

 ただ、武器が一つしかないから、これが外れるとまともな武器を失う事を示す。


 魔石はヒノがバリボリ、魔剣も仕舞い、私はドロップアイテムの鎖分銅と包丁を手に取る。


「⋯⋯一万はするかな?」


 さっきも言ったが、人生そんな上手くいかない。二つで二千円と判断されるのだった。沢山出回っているから、鑑定もされず、ただ安い。

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