第11話 人生変わるきっかけ、その2

 家出をして、コンビニで豪華な晩御飯を食べて休んでいる。

 コンビニと言うのは良いね。深夜帯でもやっている。

 それでいて腹が膨れるまで食べる事が出来るんだから。

 勿論、その分金も飛ぶ訳だが。


 ヒノを浮かせて、机替わりにしている。

 ヒノなら食べ物を万が一にも落としても大丈夫だと思ったから。

 ヒノは枕でありながら、ベットにも壁にも乗り物にも机にも成れる。

 もう枕であり枕では無い。ま、神器だからそうなのだろう。


「ヒノ、私は強く成れるかな?」


 枕に何を聞いているんだと笑われるかもしれない。

 でも、つい誰かの話したくてヒノに呟く。

 私が唯一心を許して話せる相手はヒノ、枕だけだ。

 ヒノはゆっくりと右に回転する。


「ありがと、ヒノ」


 撫でると喜ぶ素振りをするので、本当に可愛い。

 愛着が日に日に大きく成っている。

 もしもヒノの存在が世間に広まり、ヒノを欲しがる人が居たら、嫌だな。

 ヒノは便利で有能だ。壊れない汚れないの優れもの。

 ただの枕として使うのも良し、道具を運ぶのも良し、人を運ぶのも良し。

 でも、どんな大金、或いは世界を差し出されても、私はヒノを手放さい。

 最高の友を相棒を誰が売るだろうか。いくら私でもしない。


 この先どうするか、所持金は三千円そこらしか無い。

 ダンジョンでヒノに囲って貰って寝る⋯⋯ヒノは壊れないけど柔らかい。

 逆に潰される可能性もあるので、その案は無し。

 【硬質化】は硬くて枕として使えない。寝るのに不便になる。

 ヒノなら、壁に成りながら布団の役割も出来るのだ。


「ネカフェ⋯⋯ホテル⋯⋯金がなぁ」


 私の年齢で泊まれるホテルって高いのよ。

 ネカフェも近場の分からないし。

 お父さんの暮らしている場所も分からないから行きようが無い。


「どうしたら⋯⋯」


 何をするにしても金が必要。金がないから稼ぎたい。稼ぎいけど眠い。眠いから寝る所を探している。探せば探す程に金が必要になる。

 いっそ空の上でヒノを使って寝るか?

 考えてみたら意外と有りだ。


 体力の回復にも精神の回復にもヒノは使えるし、それに今のヒノはとても柔らかい。

 大きく成れば折り畳んで私を包む事も可能だから、寒さも凌げる。

 問題があるとすれば、それが人々に見つかってSNS等のネットに流される事だ。


「⋯⋯」


 そう考えていると、正面から話しかけられる。

 声的に男だが、そこそこの年を重ねていると思われる。


「お嬢ちゃん大丈夫かい? もし良ければ、家来るかい?」


 家出して野垂れ死にしそうな子供に見えただろうか?

 こう見えてもきちんとしているつもりだ。

 服やお金だって、今抱えているヒノの中にある。

 ヒノを抱えている⋯⋯枕を抱えて蹲っている姿にしか見えない、のか。

 確かに、訳あり少女にしか見えないだろう。

 私なら見て見ぬふりをするが。


「良いんですか?」


「あぁ。嫁さんが飯作って待ってくれてる筈だ。こっちだ」


 優しい声音に甘えて私は行く事に。

 今の季節の夜はとても寒い。それに、何故だか彼からは優しさを感じた。

 昔のお父さんと重ねて見てしまった。辛い時に一緒に居てくれたお父さんと。

 現実主義の人なら「誘拐」だの騒ぐだろうね。


 家に到着した。

 家に上げて貰う。


「おーい、女の子拾って来たぞー」


「あらそう? 取り敢えず警察呼ぶわね」


「待て待て誤解だ!」


 私含めて三人で会話をする事になった。

 お嫁さんはとても若かった。二十代だろう。対して男は四十代な気がする。

 確実に一回りも年が違うのに、夫婦だとは⋯⋯。

 この二人は訳ありなのだろうか? 一番の訳ありが何を考えているのやら。


「何があったか聞かないわ。でもね、何もしないでここに泊める⋯⋯ってのは出来ない」


「ちょ、お前」


「貴方は黙ってて。別に出て行けとは言ってない。私達の仕事の手伝いをして。そしたら泊めるし食事をあげる。当然給料もね。あ、食事代とか引くから」


「はい」


 寝床を確保した。

 夜の仕事らしく、家の下に案内される。

 そこではワインとか提供する夜のバーだった。

 未成年の私、ましてや高校生の私が働いてはダメな場所だ。

 それでも、今はそのご好意に甘える事にする。


「着替えはあっちね」


「はい」


 更衣室に行き、着替えをする。

 ヒノを利用した着替え方法なら、一瞬で終わる。

 途中からバレない様にヒノを小さくして持ち歩いている。


「あら、速いわね」


 流石に疑問の目を向けられた。着替え終わっても少しは待った方が良かったかもしれない。

 そのまま奥さんの横に立ち、説明を受ける。

 私の仕事は接客だ。流石に酒を提供させる事はしないらしい。

 あくまで、お客さんと会話する事らしい。


 でもね奥さん。

 自慢じゃないけど、私人と話すのって苦手なんだ。

 実際学校ではいじめの的ですからね、私。


 開店してから十分後くらいに中年のおじさんがやって来た。


「ママ来たよ」


「いらっしゃい源さん」


 源さんと呼ばれた男性の事を小声で教えて貰った。

 常連の方らしい。


「いらっしゃいませ」


 定型文を読み上げる。

 その後、私はどう会話を切り出せば良いのか分からず、固まる。

 その姿は正しく石像だ。

 もうね、カチコチに固まっている。



「⋯⋯新入りさんかい? 可愛いね」


「え、あ、えと、あの、えと、その」


 可愛いと言われてオドオドしてしまう。

 嬉しい⋯⋯のか分からない。でも、そんな言葉はお父さんと妹にしか言われた事が無かった。

 嬉しいと言う寄りも、少し恥ずかしい。


 でも、この源さん、少し危険な臭いがする。

 なんか、私の事を勘づいているのに喋らない感じがする。

 もしかして、私が高校生だと気づいた?


「いきなりおじさんに話しかけられたびっくりするよね。ごめんね」


「いえ、そんなんでは」


「ここでバイトするって、やっぱりお金?」


「えと、まぁ、それも、あります?」


 正直分からない。

 確かに寝床に困っていたのは事実だ。だけど、切羽詰まった状況だった訳では無い。

 私には最高の相棒が居るから。


「体には気をつけなね。君、随分細いからさ」


「あ、はい」


「あんまり栄養取ってないでしょ。分かるんだよ。僕ってそう言う仕事してるからさ、相手の健康状態とか」


「え?」


「源さんって大きな病院の院長なのよ、こんななりでね」


「こんななりとは失敬な! こう見えても凄腕でモテるんだぞ!」


「殆どが金目的なんだろ。ほい、いつもの」


「そうだけどさぁ。どうも」


 そんな会話を聞きながら私は何も答えれずにいた。

 あ、名前言ってないや。


「あの、私、七瀬世羅と言います。よろしくお願いします」


 深々頭を下げて言うと、一瞬静まり返る。

 何か間違えた⋯⋯タイミングが悪かったのだろうか?


 刹那、三人が声を上げて笑った。

 それはもうゲラゲラと笑われた。

 ただ、私は少しほっこりした。この光景やこの空気で私は少し、皆に打ち解けれた気がした。


 そして、ここをきっかけに、人と関わる事に寄って、私の人生は大きく変わって行く。

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