第10話 家出少女と最大の味方
体育ではまず、腕輪を装着する。
レベルシステムは本来の身体能力に付け加える感じのモノである。
そのレベルシステムを遮断出来るのがこの腕輪(名前なんて知らん)。
これで平等(笑)で体育等が出来るらしい。
ちなみに卓球が始まると分かった事がある。
花美が何故この人とペアを組んだのは分かった。この卓球部の人だ。
しかもめっちゃ上手い。
私何もしなくても勝ち上がって行く。最高だぜ。
寄生プレイ程最高なモノがこの世にあるだろうか? いや無いね!
「あ」
だが、もしも相手が同等の力がある場合、私の出番も存在する。
そして、部活の中でも上手い方であろうペアの子に寄生していた私は反応出来ず、一点取られた。
次は私の番であり、相手のサーブを受ける事に。絶対に返せない。棒立ちに成る。
でも、嫌々でも私に手を伸ばしてくれたこの子に迷惑を掛けてしまう。
「うぅ」
相手のサーブめっちゃ速い。
ラケットを振るうが突然ボールに当たる筈なんて無い⋯⋯んだけど、打ち返せた。
しかも、だいぶ強く打ち返せた用で点数をゲットする。
その光景に驚く相手とペアと私。
「⋯⋯」
ヒノが何時の間にか付いて来ていた様だ。
バレない様に【硬質化】でサポートしてくれたようだ。
目視ではなかなか見れないサイズで浮遊している。
後で叱るべきなのかもだが、今は助かったので、お咎めなしにしておこう。
それから私達のペアが一位となり授業は終了した。
終わり後に優さんが話し掛けて来そうだったが、女子が群がりその心配は無く成った。
「疲れたぁ」
レベルのある体とない体では体力もかなり違う様だ。
体育の時間が苦痛過ぎるよ。
昼放課。
「うぐっ」
私は早々のサンドバッグと成っていた。
理由としては優さんであった。正確にはイケメンの人が私に関わるのが気に食わいのだろう。
その事を教える為にこの様に暴力を振るう。
こいつら三人、私よりもレベルが高い。当然、元の身体能力等もこいつらの方が高い。
抵抗なんて出来る筈も無かった。
「ほら、言えよ」
頭を踏まれて地面にデコを擦り付けられる。
これならまだ痛みは感じない。
感じてはダメなのかもしれない。ヒノが来てしまう。
ヒノにだけは、見られたくない。今の私の思いを感じて欲しくない。
「私、のような、下等生物が、上等生物と、会話をして、申し訳ござい、ませんでした」
なんだよ、上等生物って。
「気持ちが籠ってないなぁ。美波やっちゃえ」
「いやーふー!」
意気揚々と私を空中に投げ出して、腹に向かって連撃を放って来る。
その重み、そして感じる痛み!
前とは異なるその攻撃。この歳って、陰口とか悪口が主流じゃないのだろうか。
「あれ? ちょっと硬く成ったんじゃない? 今レベル22なんだけどなぁ」
有り得ないだろ。
こちとら11で、そのくらいのレベルアップを同じ期間で終わらせるなんて。
しかも、こっちには魔剣の【成長加速】があんだぞ。
ふざけんな。どうしてこうも、搾取する側が有利なんだ。
「がはっ!」
この世は弱肉強食。
弱ければ食われ、強ければ食う。
そして私は弱い。ただ強者に食われるだけの弱者。
⋯⋯成りたい。強く成りたい。
強者に食われる弱者ではなく、強者だと思っている様な奴を食らうくらいの強者に成りたい!
それから下校の時と成った。
「私の精神好戦的に変わったのかな?」
無性に強くなりたい。
この世が弱肉強食なら、食う側に成りたい。
その為には強くなるしか他ない。
強くなる方法は明確に存在する今の世の中は私に取って最高なのかもしれない。
モンスターを殺し、己を鍛え、レベルを上げる。
ゲームの様な世界だろうが、ゲームじゃない。
「ネットでレベル上げに有効そうなダンジョンでも探すか?」
今日は部活で滝宮君も居ないし、最高の帰り時間だ。
しかも、財布の中にはまだ千円以上もあるから贅沢も出来る。
「いや、今日は寝よ」
いつも以上にボッコボッコにされたのでまだ体が痛む。
ヒノで寝てちゃっちゃっと回復しよう。
帰ってすぐに寝て、夜遅くに起きる。
夜十時だ。晩御飯を食べよう。
「痣も何も無い。ヒノ、君は最高だよ」
撫でると喜ぶ素振りを見せる。可愛過ぎる。にしてもコレ、利用出来るかもしれない。
枕にペットに向ける愛情を向ける私は変だろうか? 全く変じゃないよね。
私の味方だし、当然だよね。
夜だし、部屋の前に晩御飯も無いし、リビングへと向かう。
洗面所の電気が付いていた。見ると、そこには義父が居て体を拭いて居た。
「あ」
「へ」
裸に私は硬直した訳じゃない。私が見た光景、湯気を出しながら全体を吹いている光景に硬直したのだ。
まるでシャワーを浴びたかの様な姿。風呂場のドアか開いていた。
そこではお湯が溜まっていた。
「なに、して」
「あーいや」
「ふ、ふざけないでよ! どれだけ頑張って節約していると思っているの! なんで無駄金を使おうとするの! 未だに借金は増える一方なのに、なんで努力しないの! ふざけないでよ!」
「んだとてめぇ、誰のお陰で飯が食えてると思ってんだあぁ!」
「それは私がきちんとやりくりしているお陰だし、そもそもあんたは自分の給料を全部パチンコに使い潰すでしょうがっ!」
「親に向かってその態度はねぇよなぁ!」
腕を掴まれて壁に押し当てられる。
筋力で敗北し、抜け出せない。
なんでこんなに力が強いんだよ。なんでパチカスがこんな筋肉してんだよ!
お前の仕事はなんだよ!
「離せっ!」
「教育が必要だよなぁ。親に反抗するなんて」
「え、止め」
私の無駄なでっぱりに向かって手をゆっくりと伸ばして来る。
脳裏に過ぎるのは初めてダンジョンに潜った日のあの光景。
恐怖、混乱が入り交じり何も思考が出来なくなる現象。
嫌だ、逃げたい、そう思っても体が言う事を聞けない。
なんであの時は動けたの? なんであの時は戦えたの?
そう考えてしまう。
義父の目が、義父の笑みが、私の中から吐き気を生み出す。
学校でも、家でも、私は食われる側の人間なのか。
嫌だ。
こんな所で死にたくない。
私は強くなるんだ。
弱者を食らう強者に成るんだ。
私は今は弱い。だけど、味方が居る。
「助けて、ヒノ」
あの日動けた理由も戦えた理由も、私の最大の味方のお陰だ。
「何を言って⋯⋯ひぶっ!」
ヒノが義父に体当たりしてバランスを崩させ、私は開放された。
すぐさま玄関に向かって走る。
私の物は全てヒノの中にある。
ヒノが靴を食べ、私を担いで夜空に飛び立つ。
「もう、嫌だ」
ヒノにしがみつく。今は全体的にヒノに乗っている状態だ。
涙が止まらない。
「ヒノ、一緒に強くなろう。世界なんてどうでも良い。私とヒノが強者に成れるなら、食う側に成れるなら、なんだって利用してやる! ヒノ、遠くのコンビニに行くよ! お腹が減った!」
涙を払い、私は次のステップの為に腹を満たしに行く。
腹が減っては戦は出来ぬ。
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