第9話 カップ麺に涙を流す少女

 お腹も空いたし、ゴリラの毛皮一枚を手にして私達は外に出た。

 そのまま買取屋へと足を運ぶ。そこには色々な探索者達が揃っていた。

 殆どの人は武器や防具を所持している。対しては私はジャージである。

 ヒノは小さくなってポッケに入っている。

『サポータ』と言った色々と探索のサポートをしてくれる人を雇って、大きな荷物を運んでいる人も居る。

 探索者が集まり結成した企業的なモノをギルドと良い、大きなギルドになると専用の買取屋があるらしい。


 私の順番が回ってくる。姿が姿なだけに色んな人に奇妙な目を向けられた。

 さっさと終わらせよう。

 ダンジョンの売り物は一度鑑定に掛ける必要がある。詳細が分からないのに売値なんて付けれない。

 鑑定スキル持ちが仲間等に居たら、鑑定料が引かれる事は無い。


「五百円に成ります」


 低いレベルのモンスターの素材など、鑑定料を引かれたらこんなモノだ。寧ろ今の私でも倒せるモンスターで五百円は高い方である。

 五百円玉を受け取り、ポッケに仕舞う。

 さすればヒノが食べて仕舞う。これで安心安全である。


 その足で私は次にコンビニへと向かった。

 コンビニを利用するのは久しぶりだ。お父さんと幼い頃に来てから二度と利用していなかった。

 スーパーとかの方が安いけど、やっぱりコンビニに行きたくなるよね。


 手に取ったのはカップ麺と水のペットボトルである。

 購入し、お湯を注ぐ。家でお湯なんて使えない。

 そのまま時間が経つのを空腹に耐えながら待つ。


 時間経ち、私は蓋を剥がした。

 割り箸を割り、食べる事にする。


「割り箸綺麗に割れた⋯⋯いただきます」


 一口食べる。カップ麺も懐かしい。

 一度食べた後からはお父さんが自作のスープで麺類は作るのでカップ麺にお世話に成る事は無かった。

 昔食べた事があり、その時の思い出が蘇る。次に今の人生が思い浮かぶ。


「美味しい」


 涙が流れてしまう程に私は感動していた。その光景を見ていた店員二人。片方は店長の様だ。


「店長、あの人泣いてますよ」


「きっと複雑な家庭環境なんだろ。ジロジロ見るな」


 間違ってない。だから店長、あんたもジロジロ見ないで欲しい。

 涙が戻って行く。


 それから同じ様にヒノを隠れ蓑に使い、不意打ちでモンスターを倒しまくった。

 慣れて来たらだいぶ楽に倒せる様に成った。

 結果、一日で五千円も稼ぐ事に成功した。時々しか素材がドロップしなかったのは泣ける程に辛かった。

 時々装備のドロップもあるようだけど、そう言うのは無かった。


「五千円! 五千円!」


 私は一枚の紙を丁寧に両手で広げる。私の一日の成果。

 これで一週間は余裕で持つ。

 未だに防具も何も無いから、効率的に狩りは出来ないけど。

 後少しで目の前のダンジョンは消える様だし、ボス戦でもやろうかと思ったけど、ネットの情報的に不意打ち出来そうに無いし、正面から戦うのも無理だし、無視する事に決めた。

 消えるまでせいぜい私の人生を潤わせてくれたまえ。


「おやすみ」


 ◆

 七瀬世羅

 レベル:11

 スキル:【神器保有者】【魔剣契約者】【痛覚耐性Lv4】【精神保護Lv1】【気配遮断Lv2】

 ◇


 ◆

 神器:ヒノ(枕)

 所有者:七瀬世羅

 レベル:4

 スキル:【破壊不可能】【自由移動】【自由意志】【回復魔法Lv4】【催眠術Lv4】【硬質化Lv4】【睡眠回復】【サイズ変化】【性質保護】【収納空間】

 ◇


 ◇

 血飢えた魔剣ブラッド・シュヴェールト

 所有者:七瀬世羅

 レベル:2

 スキル:【破壊不可能】【血液保存】【吸血Lv2】【自己再生Lv2】【成長加速】

 ◆




 翌朝、水分だけ取って学校へと向かう。

 登校と言えばアイツも当然居る。


「おはよう世羅ちゃん」


「あ、うん。おはよう滝宮君」


「貴音って呼んでって」


「あーうん」


 私の隣を歩く幼馴染。

 話し掛けて来られても困るから止めて欲しいが、相手には通じないし自分から言う事も無い。


「なんか世羅ちゃん顔、明るく成ったね?」


「え? そんな変わらないと思う、けど⋯⋯」


 もしかしたら昨日のまともな食事のお陰かもしれない。

 そんな思いがキーホルダーに成っているヒノにも通じると嬉しい。

 毎朝苦痛の登校もヒノが傍に居ると考えたら気持ち的に楽に成る。


「⋯⋯その、何かあったら本当に何でも言ってね。力に成るから」


「何も無いよ」


 言ったところで何かが変わる訳でもない、寧ろ人気者のこの人が関わったら余計に悪化するだけだ。

 私の事は私だけにしか解決出来ない。教師、親、友、幼馴染だろうが関係ない。等しく皆意味を成さない。

 頼りに成らないし頼りにしても何かが変わる訳では無い。

 人の思いや気持ちは簡単には他人に分からない。


 それに、私には親しい、友も教師も幼馴染も居ない。

 これが底辺ボッチの生活なのだろう。

 だが、今日から私は違う。今のレベルは11、美波に一レベル及ばない程に成長した。

 ま、元々武道経験者の相手と比べたら一レベルの差でも10くらいの差はあるのだけど。元の肉体や技術面で圧倒的に私は下だ。


「⋯⋯」


「どうしたの、そんな心配そうな顔をして」


「いや、なんか世羅ちゃんが、良くない事に足を踏み入れてそうで」


「酷いなぁ。私をなんだと思っているのよ」


「ご、ごめん! 別に変な意味じゃ無くて」


「本当に大丈夫だから。変な気遣いとか要らないからね」


 そして今日、私は最悪を味わう。

 現在三限目の体育。今の季節は本当に寒い。

 殆どの人が長袖の体操服を着込んでいる中、今回の体育は一味違った。

 それは何か? ボッチ撲滅競技、ダブルスの卓球であった。

 互いのコンビネーションがモノを言う競技。

 仲の良い人と組むか、卓球部の上手い人と組むか、はたまた恋人で組むか。

 だが、今置かれている私の現状では誰かとペアになる事は不可能。


 しかも、最悪なのはまだある。

 今日の人数は偶数、確実にペアが完成するのだ。

 そして、私は誰よりも『ハズレ』、誰もペアに成りたくない。

 それに寄って始まるのは「お前行けよ」の擦り付けあい。

 私がクソサン共に目を付けられなければ普通の学生生活を出来たのだろうか。ペアも簡単に出来たのだろうか。


 いたたまれない。

 皆の感情と空気が読めない程、私は愚か者では無い。

 ここは潔く、見学するとしよう。その方が皆の為であり、己の為にもなる。


「七瀬さん」


「はい?」


 話し掛けて来た人はクラスメイトである。

 しかし、私はその人物に心当たりが無かった。いや、ある?


「あ、滝宮君の⋯⋯」


「あ、そう。タカの親友のまさるだ。良かったら俺と組まないか?」


 野球部か。⋯⋯伸ばされた手を見て私は思い出した。ペアの体育の時、必要な時は私に向かって積極的にペア及びチームに誘ってくれる人。

 他者に興味なくて毎回忘れては思い出している気がする。そう考えると、毎回自己紹介してくれてるのか。

 そして、毎回同じ事が起こるのだ。


「え〜だったら僕と組もうよ〜」


 そう、クソサンメンバーの花美である。


「いや、でも君もう既にペア居るじゃん」


 ペアの人に向かって耳打ちしている花美。

 花美のペアは私に向かって手を伸ばして来た。


「私とペアに成りませんか?」


「よろしくお願いします。優さんそう言う訳です。お誘い感謝します。空いてます花美さんとペアに成ってください」


 優と言う男もイケメンである。そうじゃなきゃ花美は動かん。

 嫌そうな、面倒そうな顔をした女性とペアに成った。名前? 勿論知らんよ。

 クソサンは基本的に同じ階級の3人で連む。

 他の人は3人の権力等に怯え、いじめられたくない人達だ。

 彼女もその一人だから、こんなに素直なのだろう。

 分かりやすくて助かる。

 私は適当に体育を乗り切れれば良いのだ。

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