第8話 革命が起きたようだ

「何故それを選択した?」


「え?」


「絶対に時空の方が強いしかっこいいしロマンあるやろ。なんでデメリットがある魔剣を選ぶねん!」


「自己再生なら死に難く成るし、デメリットはヒノの中に入れておけば飢える事はないだろうから気にする必要も無い。これ一択しょ? 考えて欲しい。私の持っているスキルは痛みを耐えるモノ。耐えて、再生する。イイじゃん」


「ま、まぁ良い⋯⋯」


 本当は全部欲しい。使わない物は売ってお金に替えたい。

 だが、それを許してくれる筈も無いし、魔剣を抜いたら他の二本は消えた。

 魔剣は素早くヒノの中に入れる。メイン武器に成る可能性が高いし、名前を考えようかな?


「最後に我と契約を!」


「お断りします」


「何故だ!」


「メリットが無い」


「契約すれば主のサポートも出来るし、このダンジョンの事も教えられる!」


 契約しないと教えてくれないのか。でも、まともな武器が手に入ったし、別に要らない。

 後はヒノと共に探索する事にする。


「待て待てい!」


「待ちませんよ」


「何故そんなに契約を拒む」


「寧ろなんで契約しないといけないんですか。言いまたよね? 私は世界に興味は無い。そんな怪しい契約に誰が乗るんですか。居たとしても、その場合、私は要りませんよね? 他の人達でやってください」


「そう言う訳には⋯⋯」


「それでは」


「勇者の任を与えた今、このダンジョンは三日後に消える。それまでに攻略するのだ。そして、我は何時でもお前を見守っている事を覚えて欲しい。魔剣の中に居る」


「警察って役に立ちます?」


「安心しろ。戦う時しか見守らない」


「良かった」


「最後に!」


「はい?」


「何故そんなに契約を拒むんだ」


 私は一度目を瞑り考え言葉をまとめる。


「信用してないから。契約してこき使われて利用されるだけの道具に成りたくない。私がダンジョンに行くのは私の意志を強くする為。それは他者の力だけでは意味が無い。私が変わる為には、自分が決断する必要がある。だから、契約しない」


「そうか。気が変わったら何時でも魔剣に言ってくれ。そこを介して我と話せる」


「記憶の端に置いて置きます」


 私達はその場を後にした。

 そろそろ時間なので帰る事にする。

 成果としては武器とヒノの新しいスキルだろうか。

 悪くない結果かも分からない。

 ヒノが世界の事を記した本を渡して来るが、受け取らなかった。


「世界の仕組みだろうが、ダンジョンの仕組みだろうが、興味無いんだ。今があればそれで良い。深く知る必要は無い。知っても意味が無い。ネットにある情報で事足りる」


 その後、戦う事も無く家に帰った。部屋の荷物をヒノに入れて行く。

 どれだけ入るかの検証も兼ねて。


「部屋って割りと広いのな」


 全部入った。ヒノの体がどうなっているのか少しだけ興味が湧いた所で私は勉強する。

 まだテスト期間では無いが、そこそこ近いのでやる事にする。


 ◆


 我は神。神は『最悪』に備えて勇者と契約する必要がある。

 だが、今回はとても珍しいケースと成った。

 契約が断固拒否されたのだ。

 本来断る要素の無い契約なのに、拒否された。


 確かに、我々は人間を利用しているのかもしれない。世界の為に。

 だが、その分我々も力の限りを尽くすと決めている。

 そして、契約出来なかった神は我だけだった。

 他の神はそれぞれの勇者ときちんと契約出来ているらしい。


 勇者は神器を獲得した存在全てに資格がある。

 神器はその人を根っこからサポートする。我々が与えるのは純粋な力。

 主と共に成長する力。

 それだけ持って行くなど初めて見た。


「他の勇者に任せるしかないのか⋯⋯」


 出来れば、我も契約したい。

 人間と共に過ごすのは、楽しいのだ。

 我は人間が好きだ。生命が好きだ。

 だが、力を得るには危険が付き物。その際に命を落とす時もある。

 魔物の習性に寄って死ぬよりも酷い目に会う可能性もある。

 我々がやっている事は本当に正しいのだろうか?

 魔物と言う『悪』が居なければ人は人同士で争う。

 それを防ぐ為⋯⋯もう言い訳にしか聞こえない。


 ◆


 晩御飯がドアの前に置かれた。

 こう言う時だけ厳しいのは母親っぽい。おにぎり一個とコップ一杯のお茶で晩御飯を味わい、特定の時間になったので風呂へと向かう。

 オケに水を半分まで入れて、タオルを浸す。

 濡れたタオルで髪と体を洗う。

 その後はタオルをもう一度水へと浸し、絞ってから体を拭く。

 それが終わったら着替える。


「おぉ」


 着替えの時にヒノを利用してみた。

 ヒノの中にパジャマが入っているので、私ごとヒノに食われ、そのまま服を出して貰い着替える戦法。

 だが、それは嬉しい結果で失敗に終わった。

 中はただの枕と枕カバーの狭間なのだが、体が発行して服が着られている。


「ジャージにチェンジ」


 パジャマが光り、霧散するとジャージに成っている。

 それは制服などでも可能だった。

 超便利。着替える手間が省けるのは大きい。私の中で革命が起きた。

 そのまま部屋へと戻る。


「ふへ〜」


 ベットを出して転がり、ヒノを枕に私は眠る。まぁ、ヒノは枕なんだけどさ。


 翌朝、体調は万全だった。万全過ぎるくらいに万全である。

 これがヒノの真骨頂だと思える。


「さて」


 ドアの前に何が置かれて⋯⋯三百円置かれていた。

 家から出るなと言いながら、用意するのが面倒で三百円だけ置いて行った様だ。

 母と父は今日もパチンコだろう。


「世帯年収は高い筈なんだけどなぁ」


 ここも戸建てだし。否、正確にはお父さんが居た時代に建てた家だ。

 名義が母親に成っていたのが悪かったのかもしれない。


「今考えたら、お父さんは優しいね」


 私と妹が分担して親権を互いに貰い、慰謝料は無し、財産分与もしっかりしている。

 しかも、私に対しての養育費も払っているのだ。

 なんで私は学校が近いからと言う理由で母親の元に残ったのだろうか。

 今と成っては後悔の連続だ。ま、そうしないと離婚が拗れるのは間違いなかったのだが。


「さて、ヒノ。私を完全装備に!」


 学校指定のジャージ、運動ズボン、そして穴が少し空いている愛用の靴に着替えながら外に出た。

 今日合わせて後三日でこのダンジョンは消えるらしい。

 本来はボスを倒したら消えるのだが⋯⋯そのボスが居ない可能性もある。

 だが、レベル的にはやはり低いと感じる。だから、再び挑む。


「流石に人は居ないよね」


 最速で二階に行き、ゴリラ型のモンスターを発見。

 ヒノが大きくなり、私を壁を使って隠す。

 モンスターが近寄って来るのを感じながら、魔剣を両手に握り息を殺す。

 ヒノが気になったのか、ゴリラが押し込む様に触る。

 それが、こちら側でも一部が押し込まれているので分かる。


「⋯⋯ッ!」


 私の意志を汲み取りヒノが小さく成る。それに合わせて私は魔剣をゴリラに向けて突き立てた。

 急にヒノが小さくなった事に寄り、相手は片腕を伸ばしきっている。さらに、この光景に衝撃を受けて固まっている。

 最高の攻撃チャンス。


「はああああ!」


 首をここで斬ったりしたらかっこいいし楽なのだが、生憎とそんな芸当は出来ない。

 腹に突き刺して、グルリと回す。


「吸血!」


 赤色のライトエフェクトの奔流がゴリラの体から魔剣に集まる様に輝く。

 苦しみ出すゴリラはそのまま私を殴ろうとする。

 当然、そんなのをまともに受ける筈が無い。

 ヒノが大きくなり間に入り、少し衝撃を和らげ、一緒に私は吹き飛ばされる。

 ヒノが私の背後に回り、踏ん張る。

 自由に移動出来ても、ヒノ自体はひ弱だ。

 なかなか止まらずに壁に当たる。それでも、衝撃は最小限に抑えられてダメージは無い。


「行くよ、」


 ヒノに跨り、飛ぶ。

 魔剣をヒノに乗せて固定し、ヒノがゴリラの周りを動き回る。

 固定した刃がゴリラの体をちまちま削り、血を吸って行く。

 そして、黒い塵となって爆散した。

 落ちているのは魔石⋯⋯そして毛皮である。


「ドロップアイテムキタアアアアアアアア!」


 これでようやく金が手に入る! 冷蔵庫にも何も無いしで、朝ごはんもまだだ。

 母親の事なので貰った三百円は晩御飯も含まれている。

 売れる物が手に入らば、晩御飯も用意出来るかもしれない。


「やったぜ!」


 私は人生最高の喜びを今、味わっている。この余韻に二分は浸かる。その間にヒノは魔石を食べ、毛皮を回収してくれた。優秀だぜ。

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