8月30日(火曜日)曇り 沖縄県本部町
突如放り出されたのは、青い空と両サイドを緑に囲まれた二車線の道路。
ここはどこだ?
なにもわからないままあたりを見回すと、自分と背中合わせに、進行を示す青い標識看板がそそり立っているのが目に入ってくる。
回り込んで、地域を確かめようとするが、そこに書かれていたのは300メートル先、直進が『大宜味』と『今帰仁』そして左に進めば『海洋博公園』という文字列だった。
異界の文字……ではないが、知らない地名はそれとさして変わらない。
ただ、有益な情報としては直進、すなわちこの道は国道505号であり、海洋博公園に向かう左へ分かれる道は県道114号ということが書かれていたことだ。
まあ、そんなデカいナンバーの国道など知る由もないし、県道といってもまずここが何県かさえもわからない。
そしてさらに少し先に、もう一枚看板が立っているのが見える。
進んでみると看板が示していたのは『上本部小学校 右折150メートル』『上本部中学校 直進300メートル』というものだった。
上本部、それがどこかももちろんわからない。わかる人にはわかるのだろうか?
それでも、学校まで行けば何かしら現在位置の情報が見つかるかもしれない。
それを信じてその方向へ足を進める。
すると右手に一つ薄い水色の建物が現れる。どうやら住宅のようである。
郵便受けに傘立て、無造作に並べられた観葉植物にシルバーのプリウスなど、その生活感は今まさに人が住んでいる、という雰囲気である。
だが少し様子が変だ。その家が、というよりはこれは俺自身の問題だろうか。
家の外観にどこかぼやけたところがあり、歩道手前でそれ以上近づけない気配がある。
具体的にいえば表札の文字が読み取れない。
その少し先にある交差点も同じで、角にバス停と思しき物があるが、そこにも近寄ろうという気が起こらないのだ。
何かに拒まれている。
ただ、すべての文字がぼやけてしまうというわけではないらしく、バス停の広告看板に『小児科・内科 大兼久医院』と書かれているのは読み取れる。
その下には簡略化された地図もあるが、そんなもの、この地がどこかさえわからない人間にはなんの役にも立たない。
無理なものは無理なので、すっぱり諦めて交差点の案内に従って上本部小学校を目指すことにしよう。
道を行くと少しずつ人間の生活の匂いが増えてきて、事務所っぽいプレハブや、民家と思しき建物が並び始める。
そしてさらにその先、右手にひと目見ただけで異質な低い壁が目に入ってきた。
長く続く白い壁に一面に子供の落書きのような絵が描かれていたのだ。
いや、子供の落書きのような、ではない。これはまさに、子どもたちによって描かれたイラストだ。
こここそが、上本部小学校であった。
壁が途切れて正門にたどり着く。
校名表示『本部町立 上本部小学校』
町立かぁ……。
結局何一つ情報は増えないままであった。
小学校の校舎は至ってシンプルで、色あせたクリーム色の、四角い鉄筋の校舎が2つ並んでいる。
だがひとつ目を引くものがあるとすれば、正門横に植えられたヤシの木のような植物であろうか。
空の青さといい、それはどこか南国を思わせるものだ。
思えば先程の民家も平らな屋根をしており、少なくともここが雪国ではないのは間違いないだろう。
情報を求め、さらに前進する。
畑、造園所、ビニールハウス、平らな屋根の民家、そうでない屋根の民家、自動販売機。
生活はあるが情報はない。
車と何台かすれ違ったが、ナンバープレートはぼやけて何も読み取れない。ついでに言えば乗っている人の顔もぼやけている。
そうして進むと、右手に少し変わった物が見えた。
墓地?だろうか、その一帯が纏う雰囲気はまさにそれなのだが、どうにも少し様子がおかしい。
そこにあるのは墓石ではなく、小さなほこらのようなものが立ち並んでいたのだ。人ひとりが入るのが精一杯といった感じの、本当に小さなほこら。
よく見ればほこらの横に、〇〇家之墓というおなじみの文言が書かれたプレートのようなものが立っている。どうやら墓地ということでいいらしい。
ここはやはり異世界なのか? いや、先程のヤシの木などを踏まえると、ここはもしかしたら沖縄なのでは?
なんとなくそんな推測が浮かぶ。とはいえ根拠は薄い。
そのほこらにも近づけないし、情報も増えないのでさらにさらに奥へと進む。
曲がりくねった道を越えると、不意にT字路に突き当たる。
少し開けたその道は、建物も増え、かなりの人間の生活を感じさせられる。
その建物の多くも、これまでと同じように屋根の平らなもの目立つ。
ここなら情報量も多そうな気がする。
周囲を歩くと郵便局があったが、その名もズバリ『上本部郵便局』で、残念ながらここでは情報の新規性はまったくない。
反対方向に足を向けて進んでいくと、平らな屋根ともまた違う、独特な屋根瓦が目に入ってくる。
そしてバス停。
これが決定的だった。
『謝花入口』という名の停留所だが、重要なのはそれではない。
その上に小さな文字で書かれたと『琉球バス 沖縄バス』の文字。
やはりここは沖縄であった。
その確信が持てたところで、俺は一枚の地図を開く。
世界地図だったものがどんどんと範囲が狭まり、日本を指し、そしてやがて沖縄の上に来る。
その中を探していくと、沖縄本島の突き出た部分の左端、本部町はそこにあった。
Motobu……あなた『もとぶ』っていうのね!(ずっと『ほんぶ』と読んでいた)
ここまでくればあとは情報を詰めていくだけだ。
国道505号を探し、それを辿って先程見た上本部郵便局を見つける。
これで、地図の上での現在地を発見したわけだ。
あとは自分が降り立った場所を突き止めるのみ。
地図上の国道505号を北上し、それらしい場所を発見する。
交差点と上本部小学校の位置、そして最初に見つけた住宅から位置を割り出す。
目標物のない道の上だが、あとは、ここをめがけてピンを刺すだけ
さあ、いざゆかん!
『Your guess was 104 M from the correct location.』
えぇ……。
なにも目標物のないポイントは、かなりピンの位置の精度を欠いてしまったらしい。
こうして俺の夏休みの旅は4,998 pointsに終わったのであった。
もうジオゲッサー*はコリゴリだよぉ(アイリスアウト)
ちなみに今回の俺が旅した場所はここ。
https://www.google.co.jp/maps/place/26%C2%B041'47.2%22N+127%C2%B054'12.9%22E/@26.6964522,127.9030348,19z/data=!3m1!4b1!4m13!1m6!3m5!1s0x34e4f9819cf4d3b1:0x622ca8884e3ff9a6!2z5LiK5pys6YOo6YO15L6_5bGA!8m2!3d26.6845406!4d127.8981525!3m5!1s0x0:0x4c74f2d55421a813!7e2!8m2!3d26.6964513!4d127.9035819
みんなも俺がいかに風景を適当に見ていたか答え合わせをしてみよう!
*ジオゲッサー(GeoGuessr)
グーグルマップストリートビュー上のランダムな場所に落とされてそこから自分の初期位置を特定するゲーム。
グーグルマップでのダムの散歩が面白かったので、思い立って昨日急に始めた。
https://www.geoguessr.com/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます