小説『神の棘(Ⅰ・Ⅱ)』須賀しのぶ

燃えるがごとき憂慮をもって好きな小説です。


いや、言いたかっただけです。

「燃えるがごとき憂慮をもって」って、いつか使いたいワードなんだけど、多分使い所が見つかることはないんでね。


まあとりあえず、好きすぎてヤバいやつです。


『神の棘(Ⅰ・Ⅱ)』須賀しのぶ/著 新潮文庫

以下新潮文庫公式サイトより

「家族を悲劇的に失い、神に身を捧げる修道士となった、マティアス。怜悧な頭脳を活かすため、親衛隊に入隊したアルベルト。寄宿舎で同じ時を過ごした旧友が再会したその日、二つの真の運命が目を覚ます。独裁者が招いた戦乱。ユダヤ人に襲いかかる魔手。信仰、懐疑、友愛、裏切り。ナチス政権下ドイツを舞台に、様々な男女によって織りなされる、歴史オデッセイ」


めっちゃとっつきにくそう(私見)なあらすじですが、読み始めればそんなことないです。

読みやすい文体だと思います。泉鏡花に比べれば大抵のものは読みやすい。

いえ、本当に普通に読みやすいの大丈夫、するする読めます。

ただ、内容は重いです。間違いなく重苦しいので、その辺は覚悟して読むべきかな、と。


私、歴史物は好きなんですけど、近代史というか、戦時中の話はわりと避けて通りがちなんです。

戦争の生々しさというかな、そういうのがちょっと受け付けないというか。

「戦い」はいけるんです。

ファンタジーでもね、ほのぼの系より血生臭い方がむしろ好き。ジャイアントキリング的な英雄譚とか特に血沸き肉躍る。一対多数もいいよね。ぶっちゃ俺TUEEE最高だと思ってます。

映画とかでもアクションもの好きだし、殺陣とか大好きだし。

ただ、弱者に対する一方的な暴力の描写、っていうのが苦手なんですよね。痛いのも好きじゃないし。

戦争って私の中でそんなイメージなので、避けたいし避けてます。

あと、めっちゃ引きずるタイプなんで。


なんですが、どこかでおすすめされているのを見て手に取ってみたら「めっちゃ好き……!」ってなったやつです。

コバルトの「流血女神伝」書いてた作者さんだし、まあ好みだろうな、っていうのもありまして。


大当たりよ。

まじでこれ読んだ後、プレッツェルにはコーヒー合わせる様になりました。(読めばわかる。たぶん)

最初に読んでから何年も経ってますが、今でもプレッツェル食べる時は「アルベルトこのやろう……」って思って食べてます。(多少盛ってる)

プレッツェルおいしいよね。あのパンの方ね。手のひらサイズのやつ。


読み終わって「すごい面白かった」「すごい好きだった」みたいな作品だと三日ぐらいもうそのことしか考えられないし、ずっと反芻してる私ですが、神の棘もばっちり三日コースです。

「あの時ああしてれば……」「あの時のあいつがよ……」「アルベルトオオオオオオオ」みたいなことを延々三日ぐらい考え続けてるわけです。もう大変よ。


あらすじからもお分かりの通り、わりと酷い事ばっかり起きます。悲しいことも起きるし、世界は理不尽で人は残酷です。ミカサが言ってた通りだよ。いや、ミカサが言ってたのとはちょっと違うか。でも大体なんかそんなだよ。

とにかく世界は残酷なんだけど、そんな中でも、人の強さだったり優しさだったりが胸を打つ、人間賛歌です。


最後のページを読んで、「うぐ……っ」ってなりながらも納得して、呑み込むしかないやるせなさ。

やるせないのに、読後感は悪くないと思います。

読後感爽やかとは言わないし、ハッピーエンドとも言わない。ただ、悪くないとは思う。


須賀しのぶさんの書かれるお話って大体そんななんですよね。

なんか最後こう、じんわりと胸に迫るものがある、込み上げてくるような終わり方するんですよ。

そんで三日ぐらい引きずる。


須賀しのぶさんの著作ですと他に、

ハードカバーですが、第二次世界大戦勃発間近のポーランドを舞台にした『また、桜の国で』も、目から水が出る系の素晴らしいお話です。泣ける。

あと、冷戦下の東ドイツを舞台に、ピアノ留学した日本人が主人公の『革命前夜』もおすすめ。脳内で音楽を流しながら読んでください。まじでやばい。


語彙力が死滅してるし、この辺りにしておきましょうか。


とりあえず『神の棘』です。

まだ読んだことない方、興味があればぜひ、胸に迫る込み上げるラストシーンに何も言えなくなってください。


燃えるがごとき憂慮をもってコーヒーとプレッツェルと涙を一緒に味わったらいいと思います。

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