第32話 入った

 奈津子さんの戸惑う反応が非常に気になるわけだが、俺は柊家をでた。


「うん……優奈がこれから俺の彼女。しかも母公認か」


 正直、見た目だけで考えれば、俺と優奈はとてもじゃないが釣り合いが取れるとは言えない。


 それもそのはず。


 だって、学校一かわいいギャルだもん。


 初恋は失敗に終わった俺にもいよいよ本当の意味でのピンク色溢れる春がやってくるのか。


 そう思いながら俺は歩く。


「今日お母さん、友達とどっか旅行に行くって言ってたしな。スーパーで寿司でも買って帰ろっと」


 と、つぶやいて俺は商店街へ赴く。


(憲一の後をつける謎の影達)


X X X


家の前


 スーパーから色々買ってきた俺が鍵を開けようとすると、不穏な雰囲気が漂ってきた。


 なので俺は条件反射的に後ろを振り向いた。


 すると、


「っ!!璃乃!?」


 俺の後ろには璃乃が立っていた。


「あら、憲一くん。偶然ね」

「いや、偶然も何も……ここおれんちだし」

「憲一くんを見かけてね、ついてきちゃった」

「あ、ああ」

「なんで目を逸らすの?」

「……」


 目を逸らしたのには二つの理由がある。


 一つ目は、俺はもう優奈と付き合っているわけだから、二人きりってのはちょっと気まずい。


 二つ目は、


 

 彼女の表情から漂う威圧感が半端なかったから。


「ねえ、憲一くん。なんで私を避けようとするの?」

「……いや、別に避けようとしたんじゃない。ただ」

「ただ?」

「俺、優奈と付き合う事になったからな。俺の家の前で二人きりってのはちょっと……」

「ああ。今日は友達と旅行だけど、それがどうした?」


 俺が小首を若干ひねって問うと、制服姿の璃乃は手を後ろに組んで、俺に微笑みかけた。


「憲一くん」

「な、なに?」



「寝取りって知ってる?」



「ね、寝取り!?」


 俺が聞き返したら、璃乃は答えてくれず、その代わりに、後ろに組んだ手を解く。


 すると、その右手にはスタンガンが握られていた。


「な、なに……うっ!」


 俺は璃乃からのスタンガン攻撃を受けて気絶した。



X X X


「……」


 気がつけば俺は自分の部屋のベッドで寝転がっていた。


 目を覚めたら、


 ものすごいが俺の体を襲ってきた。


 一体なにがあったのかと、目を擦りながら部屋中を見渡すと、


「あら、憲一くん。起きたの?」

「あ、ああ。てか、なんで璃乃が俺の部屋に?」


 と、俺が横になったまま璃乃に質問した。


 が、


 俺は璃乃の返事を待つこともできずに顔を顰めた。


「っ!!」


 なぜなら、


 部屋中が濃すぎるフェロモンでいっぱいだったから。


「璃乃!一体俺になにをした?」


 俺が真面目な顔で聞くと下半身をブルブル震わせる璃乃は俺の部屋の窓を開けてから、その艶のある唇を動かした。


「ふふ、やっと一つになったね」


「お、おい……まさか」


 璃乃は艶やかな黒髪をかきあげてそのマゼンタ色の目で俺を捉えた。


 俺は気まずさマックスに達したので視線を外してベッドのシーツを見る。


 そこには彼女目の色と同じ色のシミがつていた。


「……」


 俺が口をポカンと開けていると、


「憲一!開けなさいよ!憲一!!璃乃と二人きりでしょ!?」


 下から優奈の声が聞こえた。


 なので、俺はいそいそと疲労困憊になった体をなんとか動かして玄関へと向かう。


 そしてドアを開けたら、


「憲一……」

「優奈……どうしてここがわかったんだ?家の位置、教えてあげたこと一度もなかったのに」

「そんなのはどうでもいいの!」

「いや、どうでも良くない!」

「そんなことより……璃乃!でてこい!」


 怒り狂った優奈は家の中に視線を送って叫んだ。すると、璃乃が余裕のある姿で現れる。


「あら、優奈、どうした?」

「どうしたもなにも!私の彼氏を気絶させてエッチしてる動画を送るなんて、マジなに様のつもり?嫌がらせにも程があるでしょうが!」

「やっぱり寝取りは最高だわ」

「ね、寝取り!?」

「ああ……私、憲一くんのことますます好きになった……」

「こ、この……」


 優奈は歯噛みして悔しそうに璃乃を睨んでくる。


 そして、


「この泥棒猫!!!!」


 璃乃に飛びかかろうとするが、


 誰かが素早く優奈に近づいて彼女の体を抑えた。


 見覚えのある綺麗でメリハリのある体。


 健康そうに見える小麦色の肌。


 うん。


 間違いない。


「ママ!?」

「優奈……落ち着け」


 と、奈津子さんが低いトーンで言って彼女を落ち着かせた。


 そして、俺の後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。


「あらあら、璃乃、私の官能小説、読んでいたのね」

「お母さん……うん。お母さんの官能小説、すごく良くて、一作あたり最低でも30週はするの」

「……やっぱり血は争えないわ」

 

 彩音さんまでやってきた。


 いや、この二人にも俺の家の住所教えたことないのに、どうやって来れたんだよ……

 

 と、戸惑いつつ彩音さんと奈津子さんを交互に見ていると、二人は悲壮感漂う面持ちで口を開く。


「中に入りましょうか」

「憲一含むみんなに話したいことあるから」


 俺は二人の顔があまりにも真面目すぎたので彼女らの勢いに押される形で結局みんなを家にあげた。





追記



うん。


入った




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