第31話 戸惑う奈津子

優奈side


 憲一と結ばれた優奈は、いまだに余韻に浸かっている。


 さっきまでの自分は完全にメスになっていた。


 あれだけ男を獣だと罵っていた自分を恥ずかしく思えてくる優奈。


 彼女は一つ学んだ。

 

 世の中には悪い獣といい獣が存在するということを。


 そして、いい獣は、


 自分を今まで味わったことのない快楽と幸せへと導いてくれるということを。


「っ!」


 行為が終わってから1時間が過ぎた。


 憲一は用事があるからさっき帰ったばかりである。

 

 現在は、彼と激しく交わったこのベッドで、彼のフェロモンを嗅ぎながら、実に色っぽい吐息を吐いている。


「はあ……」


 本当に、自分の気持ちを素直に打ち明けて大正解だった。


 これから自分は彼と、


 いや、


 と幸せな人生を築くことができる。


 優奈は満面に笑みを浮かべて、モノがついている自分のベッドを写真に収めた。

 

 そして、それを、


「ふふ、私の勝ち♫」

 

 と、鼻歌まじりに撮った写真を璃乃に送った。



X X X


璃乃side


璃乃の部屋


「な、何よ……これは……」


 優奈から送られた写真は、自分を絶望という名の坩堝にどっぷりハマらせてあまりあるものだった。


 自分の目の色と似ているマゼンタ色の液体が染み付いたシーツと、ゴムの数々。


『私、憲一と付き合うことになったよ〜』


 ただでさえ衝撃を受けているのに、このメッセージは自分にとっていわば死体蹴りのようなものだ。


 心が痛い。

 

 自分が情けない。


 自分は今年に入って憲一と同じクラスになって、彼と親しくなれる機会は優奈と比べ物にならないほど多かった。

 

 でも、自分は……


『私は憲一を振ったりはしてないよ。でも、あんたは振ったんだからね〜今更手のひら返しても、全然気持ちを伝わんないんだけど?あんたみたいな人を欺瞞者っていうのよ』


 自分は欺瞞者なのか。


 自分は悪い人間なのか。


「……一年前に、告白を受け入れていたら」


 と、歯噛みをして、過ぎ去った事を思い出しては悔しがる璃乃。


 だが、


「ふふ……うふふふ……」


 急に色彩がなくった目で璃乃は呟く。


「奪えばいいだけの話だよね……だって」


 一旦切って制服姿の彼女は、続ける。






「お母さんが書いた小説に出てくる女主人公もみんなしてるから……」


 と、璃乃は自分の胸を鷲掴みにして、深く息を吐いた。


「お母さんまだ帰ってきてないから、今のうちに読んでおこう……」


 璃乃はそう言ってスマホを取り出して、電子書籍アプリを取り出す。


 画面にはリストアップされた本のタイトルの数々が表示されている。


『未亡人だけど、子持ち社長息子に溺愛されています』

『結婚したイケメン男優を寝取ることが大好きな女』

『私が好きだから、全部奪います』



 などなど、


 そのほとんどがNTRものであり、璃乃はずっと前から自分の母が書く官能小説の大ファンだった。


 つまり、このNTR官能小説の幾つもの世界観が璃乃の頭の中に刷り込まれている。


 璃乃は恋愛経験がゼロである。


 彼女はこの小説と通して恋愛を学んだと言えよう。


 今まで自分が憲一に対して曖昧な態度を取ったのは、





 彼が彼女を作ってからじゃないと燃えないからだと内なる自分が囁きかける気がしてきた。





「……憲一くん」


 彼の名を口にする彼女は



 今まで以上に蕩け顔であり、心臓は爆発する勢いでバクバクしている。




X X X


 明日


柊家


「マジかよ」

「はい。マジです」

「……」


 流石に処女を奪ったわけだから、責任を取るのは自然の摂理だ。だから、俺は優奈と付き合うことにしたわけである。


 彼女は自分の母である奈津子さんに報告し、俺が呼ばれて今に至る。


「本当にうちの娘と結婚するつもりでヤッたの?」

「それは……」

「ママ!そんなのは今はどうでもいいの!だから、もう憲一とエッチしないで!」

「……優奈」

  

 奈津子さんは力無く自分の娘を名前を言ってから、俺を睨んでくる。


 が、


 やがて、


「ふん……まあいいだろ」

「え?」

 

 奈津子さんはあっさりと、俺たちの関係を認めてくれた。


 その代わりに、




「ぶっ!」


 奈津子さんの鮮烈なパンチが俺のお腹にクリティカルヒットした。


 俺が息ができずに呻き声を上げていると、


 彼女は、俺に耳打ちした。




「避妊しないと、マジで殺す」



「ひゃ、ひゃい……」




 飛ばされた俺を見て優奈が慌てながら奈津子さんに文句を言う。


「ちょ!なんで殴るの!?憲一は何も悪いことしてないじゃない!」

「はあ?人のセフレ奪っといて何ほざいてんだ!」

「……それは悪いと思うけど」


 反省の色を浮かべる優奈。


 奈津子さんはとても困ったようにため息をついて、俺と優奈を交互に見る。


 最初こそ威圧感が半端なかったが、今は、まるで冷や汗をかいているかのように緊張した面持ちだ。


「ママ?どうしたの?」


「な、なんでもない……」



 お腹を抑えている俺と優奈は奈津子さんを見て小首を傾げた。


 まあ、とりあえず認められたってことでいいかな?




 


追記


 

タイトルは大事

 

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