第27話 芽生える何か

明後日の朝


 まるで生きた心地がしない。


 一昨日の璃乃と彩音さんはマジでやばかった。


 年齢詐称したことで、てっきり俺は彩音さんに怒られるのかと思ったが、彩音さんは意外と許してくれた。


 そして、自分の母に大人の余裕を見せつけられた璃乃も、俺に対して怒りをぶつけることをせず、彩音さんを睨みながら、無言の圧力をかけ続けた。


 俺は二人を落ち着かせたが、急ばしのぎにすぎなかった。

  

 結局、俺は璃乃に家を追い出されて、ハラハラしながら日曜日を過ごし、今に至る。


「憲一、なんか今日、ゾンビのような顔だよ」

「あ、ああ……」


 と、裕翔が心配そうに俺を見つめるが、俺は黙りこくったまま足を動かした。


 すると、後ろからドス黒い何かが感じられる。


「憲一くん」

「っ!り、璃乃……」

「土曜日は楽しかったのかしら?」

「……」


 目の色が既に死んでいる璃乃の話に俺はただただ、口ごもりながら、頭をさげるしかない。


 そこへ、


「憲一」


 今度は違う感じのドス黒い感じの雰囲気が漂ってくる。


「ゆ、優奈……」


 金髪ギャルの優奈が俺を睨んでくる。


 お前は何怒ってんだ……


「あはは……憲一、お前ちゃんと青春してんな。邪魔して悪い。んじゃ」

「お、おい!」


 裕翔よ、お前、巻き込まれたくないから逃げてるだけだろ?


 と、怨嗟のこもった視線を彼に送ったが、もう裕翔の姿は見えない。


 気まずそうにしてる俺に優奈が意味ありげに口を開いた。


「うちのママと仲いいね」

「っ!!」


 思わせぶりなことをいう優奈。彼女の言葉に早速反応したのは、


 他ならぬ璃乃だった。


「柊さん?お母さんがどうしたの?」

「別にあんたには関係ないことなんだけど?」


 優奈がなめ腐った態度を見せながら璃乃に返事をした。


 すると、璃乃が急に優奈のとこに行って耳打ちする。


 

「こそこそ……」

「っ!!!!あんた、どうやって」

「柊さん、昼休み、時間大丈夫かしら?があるの」

「……ふん、わかったわ」


 と、二人は謎すぎる会話を交わして足速に歩き俺から去った。


X X X


璃乃、優奈side



 二人は午前の授業が終わるや否や、それぞれの友達に断りを入れてから、人気のない裏庭に来ている。


「んで、あんたどうやって私のママと憲一がラブラブなの知ってんの?」

「それはね……」

「早く答えなさいよ」


 煮え切らない璃乃の態度にイライラを募らせる優奈。


 




「憲一くん、私のお母さんともとっっってもラブラブよ」






「なっ!!なに!?」



「ラブラブすぎて、本当に腑が煮えくりかえる思いよ」



「……そんなに仲言いわけ?」



「エッチ、してるくらいだし」



「マジ!?」


 優奈は目を丸くしてドン引きする。だが、やがて表情がだんだん暗くなっては、



「じゃ、あんたのお母さんに手を出したってことは、もしや私にママにも……」

「可能性としては高いわね」

「……ママのあの表情は、絶対やってる」


 と、優奈が青空を見上げて顔を歪めた。


 しばし静寂が訪れる。


 雀の鳴き声、グラウンドで男子たちがサッカーをやる音、そして、二人の息づかい。


 この二人が憲一を嫌うことはできない。


 だって、自分の一人しかいない大切な家族を守ってくれたから。


 それに、自分達の母の外観は冗談抜きで本当に20代半ばくらいしか見えない。おそらく、憲一もなにもわからずに自分らの母に恋している可能性が高い。


 憎いけど、憎めない男。


 いまだに思い出すだけども、がとっても熱くなる。


 むしろ、自分らの母を助けたその男らしさまでもが加わって、もう全身がキュンキュンである。


「ねえ、柊さん」

「何?」

「まだ、憲一くんのこと好き?」

「あんたはどうなの?」

「私は大好きよ。柊さんはどうよ?」

「……」


 これまでずっと曖昧な態度ばかり取ってきた璃乃が今度は自分の気持ちをはっきり言った。

 

 璃乃の堂々とした態度を見て、優奈は



「私も好きに決まってんじゃん!ママに取られてたまるかっつーの!」

「本当にそれよ!」

「……」

「……」


 これまで二人は仲違いしてきた。


 恋敵として、二人は互いのことを蹴落とそうとしていた。


 でも、二人の前にで強力な敵が現れた。


「なあ、あんた」

「何?」

「このままだと、私たち絶対負けちゃう」

「……そうね。私のお母さんすごく綺麗で、その……私より女としての魅力ありすぎだし……」

「私のママもね、めっちゃ強いけど、その……正直私なんかより魅力あるっつーか。なんで年取ってんのに老けないんだよ!」


 そう言って二人は落ち込む。


 でも、


「柊さん!諦めるにはまだ早いわよ!」

「え?」

「だって、私たちは若いから!それに、どう考えても、私と柊さんのお母さんはが憲一とあんなことをするのは……やっぱり間違っているわ!」

「内田……」


 璃乃の言葉を聞いた優奈は少し感動したように目を潤ませる。


 そして、


「そんなの当たり前っしょ!私たちは若いかんね!いくら二人に魅力があっても所詮おばさんよ!年甲斐もなく何やってるんだよって話。だから、憲一にはぴちぴちJKの良さを教えてやれば、こっちのもんよ!」

「柊さん……」




「優奈と呼んで」

「ゆ、優奈」

「り……璃乃」

「うん」




 二人の間に友情が芽生えた。





追記



皆さん喧嘩は良くありません。




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