第26話 バタフライ効果

 俺は裸のままベットの下で正座させられている。


 部屋着に着替えた彩音さんは困ったように俺と璃乃を交互に見ていた。


「なんで、憲一くんがお母さんといやらしいことやっていたの?」

「……」

「早く言いなさい」

「い、いや……俺も彩音さんが璃乃の母だなんて思ってなかったから」


 俺は頭を下げたまま、ベッドに座っている璃乃をチラチラ見た。すると、スカートの中からパンツが見え隠れする。

 

 トップピンク。


 いや、俺は一体なにを見てんだよ。


「えっと、璃乃」

「なに?」

「憲一くんと知り合い?」

「同じ学校の同じクラスの同級生なの」



「は?」





 あ、もうだめだ。



X X X


 俺はこれまでのことを全部璃乃に話した。


 彩音さんを助けたことも、それからいけない関係を持っていることも。


「……お母さんを助けてくれたのね。それは本当にありがとう。後で必ずするから」

「あ、ああ」

「でも、こんなのよくないと思うよ!私を産んだお母さんなのにおばさんなのに……」

「いや、どう見ても20代半ばにしか見えないだろ」

 

 俺が、切羽詰まった顔で話すと、彩音さんが急に照れ始める。


「あら、憲一くんったら」

「お母さん!なに照れてるの!?」

「だって、憲一くんから……」


 彩音さんは璃乃に事情を話した時から、興奮気味である。おそらく、火事の話をした時から、「はあ……あの時の憲一くんは……」とか言いながら急にモジモジしていた気がする。

 

「お母さん……」


 璃乃が目を細めて自分の母にジト目を向けてきた。


 ていうか、俺が年騙したのうやむやにされちゃってるし。


 璃乃は正座している俺の隣にいる彩音さんのところに行って真顔で訊ねる。


「憲一くんをこれからどうするつもりよ?」

「そうね。璃乃」

「?」


「新しいパパいらない?」


「「なに言ってんだ!?」」


 俺と璃乃の声が完全にハモる。


 マジでそんなことは冗談でもやめてくれ。


 まあ、無理もないか。ついさっきまで俺と彩音さんは激しく関係を持った。彼女はした後も、最低でも30分は余韻に浸かりながら、体をびくびくさせるからな。


 つまり、今の彩音さんは冷静じゃない。


 そんな彼女の口から放たれる言葉は



「私は、憲一くんさえ良ければ、続けるつもりだけど?」

「……」


 急にこの母娘の目の色が変わり、お互いを見つめ合う。


 まるでライバルでも見ているように、視線がぶつかるたびにパチパチと音がする勢いであった。



X X X


カフェ


 姉妹にしか見えない柊母娘がとあるカフェで談笑を交わしているところだ。


「んでさ!私、めっちゃ上手くいけてるんだよね!」

「優奈、あんたいつも男に対して嫌味ばかり言ってじゃん」

「……そんなの、もうしないし、まあ、憲一以外の獣にはもっと酷いこと言うけど」

「へえ、名前憲一って言うんだ」

「そう!工藤憲一!ちょっと老け顔だけど、イケメンなんかと比べものにならないほど優しいし、私をちゃんと守ってくれるから」


「ん?」


「どうしたのママ?」


 奈津子が顰めっ面で何かを考え込む仕草をすると、娘の優奈が小首を傾げた。


「優奈」

「?」

「その工藤憲一という人のアインアカウント知ってる?」

「あ、この間交換したよ〜ほぼ毎日やりとりしてるんだよね」

「ちょっと見せて」

「え?」

「確認がしたいから」

「なんだよ……まあ、いいけど」


 優奈は渋々スマホをポケットから取り出して、憲一と自分二人だけのグループチャットを見せた。


「このプロ画……」


 と言って、奈津子は自分の携帯を取り出して、早速見比べる。


「……」


「ママ、どうした?」


「優奈、憲一は私の男だ」


「はあ?」


 奈津子と優奈は小一時間、話し合った。


 母娘いや、完全に姉妹にしか見えない二人は間違いなく血のつながった家族だ。


 だけど


 二人は




 目を細めて、





 まるで恋敵を見るように話した。


 それはもう、周りの客がびびって、さらに止めに入った店長もビビるほどに





追記


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