第23話 衝突

 奈津子さんと激しく交わって、柊とも仲直りした日から一日たった今日。金曜日ということで、俺は少々浮かれている。


 明日は彩音さんの家に行くので、精のつくモノばかり食べているのだ。体力は大事だからな。


「あ、憲一くん!おはよう!」

「お、おう……おはよう」


 俺と裕翔がクラスに入るや否や璃乃が俺に向かって大声で挨拶をしてきた。結構大きく手を振っているので、胸がデーンと揺れて凄まじい重量感を見せつけている。


「え?さっき内田さんって工藤のこと名前で呼んだよね?」

「なんで工藤くんと内田さんが?」 


 とコソコソ言っている。


 女性陣は目をキラキラさせて憧れの視線を向けている反面、男子たちは、呪い殺す勢いで俺を睨んでいる。


 なので、俺は足早に自分の席に行って座った。


 なんか裕翔に申し訳ないな。


 すると、


「女の子に名前で呼ばれた程度で喜ぶ男ってモテないんだよね」


 橋本がわざとらしく大声で言う。


「いや、まじそうだよな〜橋本はモテるからまじ羨ましいぜ!」

「そうそう!隣校の女子たちと合コンとかやってるし!」


「ま、まあ、あれは知り合いに頼まれて仕方なく行っただけだから。でもやはり、俺のクラスの女の子もレベル高いんだからな」


 と、橋本が言って、璃乃たちのとことに視線を送る。


 ふわふわした感じの柳澤はオドオドしているが、切れ長の目が印象的な霧島は苦笑いを浮かべる。そして、内田は


 後ろ姿しか見えないから表情が見えない。


 でも、一つ確かなのは、


 橋本とそのグループは俺を見下すような視線を送って嘲笑っている。


X X X


昼休み


「裕翔、行こうぜ!」

「おう!」


 と、お腹を空かせた俺たちは猛烈な勢いで弁当箱を持ってクラスを出ようとしたが、


「憲一くん!」

「璃乃?」

「よ、よければ、屋上で一緒にご飯食べる?えっと、金沢くんも一緒で」


 璃乃が俺と金沢裕翔を誘ってきた。


 うん……ちょっとまずいんだが。


 めちゃくちゃ男達に睨まれてるしよ。


 おそらく柳澤も霧島も一緒に食べることになるんだろう。


 このカースト最上位の女子三人と一緒に食べても胃がキョロキョロするだけだ。


 裕翔もいるし、

 


「えっとな、やっぱり俺は裕翔と二人で……」


「俺は別にいいよ。一緒に食べようね」


 おい裕翔よ、お前を考えての返答だったのに真逆のことを言ったら気まずいんだけど……


 と、俺が苦笑いを浮かべていると、


 金髪爽やか系イケメンである橋本とその連れがやってきた。


「工藤くん、ちょっと調子乗りすぎじゃない?」

 

「ん?」


 突然すごくイラッとくるようなことを言われた。


 なので、俺が橋本を睨んでいると、彼が続ける。


「最近の工藤くんってちょっと目立つんだよな。それ、あまり良くないから」


 と、目を細めて俺を睨んでくる。


 別に橋本のこの態度は今に始まったことじゃない。


 クラスの男女が昼ごはんを食べることも忘れて俺たちをガン見している。


 裕翔は、悔しそうに握り拳を作っていた。


 なんせ、あいつらは男子の中でカースト最上位の集団だから。


 切れ長の目の霧島があははと笑い、言葉をかける。


「話かけたの璃乃だし、別に工藤たちは調子に乗ってないと思うけど?」


 だけど、橋本は曲げない。


「最近、工藤くんって内田さんにちょっかい出したりするからな」

「はあ?」


 霧島が「は?何言ってんだこいつ」みたいな表情を橋本に見せた。俺は霧島の目を見て顔を左右に振った。


 俺の気持ちを察したのか、霧島は一歩下がる。


 ここは俺の出番だな。


「俺は璃乃にちょっかい出したことないけど?なに勘違いしてんだ」

「は?」


 俺の反論に橋本は目力を込めて俺をキッと睨め付けてきた。でも、俺はめげない。


「だから、勝手に勘違いするなって言ってんだ。失礼だろ。俺にも璃乃にも」


 と、俺が低い声で言うと、橋本が眉間に皺を寄せて返事をし始める。


「ちょっと女の子に話かけられただけで、有頂天になって、本当にこれだから女性経験のないモブは……」

 

 橋本はため息混じりに頭を抑える。


 頭痛でもするのか、彼は俺をチラッと見ては頭を左右に振る。


 女性経験がないって、


 俺、昨日めっちゃエッチしたけど。


 でも、別にそんなことを自慢する気もなければ、遠回しの言い方でディスる気もない。


 俺はこいつと同じ類の人間になりたくないんだ。


「橋本、お前はかわいそうなやつだな」

「なに?」

「女性経験少ないと、璃乃と話すことも許されないモブってわけか?別に璃乃が嫌がるなら俺は近づきもしないし、迷惑かけるつもりもない」

「そういうところだよ。工藤くん」

「はあ?」

「君がにモテない理由」

「ぷっ!」


 やば、吹いてしまった。


 彩音さんと奈津子さんに出会う前の俺なら、きっと心が折れて再起不能になったと思う。


 なんせ、璃乃に振られたくらいで、1年間トラウマ抱え続けてきたわけだから。


 現に俺は璃乃のことをあまりよく思ってない。


 でも、


 今の俺からしてみれば、

 

 橋本は


「なに笑ってる?正気を失ったのか?内田さん、やっぱり工藤くんは危ないよ。だから今日は俺たちと……」





「いや、別に正気を失ってないから、ただ単に」


「?」








「っ!」


 

 俺に言われた橋本のコメカミのところに血管が浮いてきた。それから、俺を殺す勢いで見つめてくる。


「お、おい橋本、ちょっと落ち着けよ」

「工藤!言い過ぎだろ!モブのくせに、早く橋本に謝れ!」


 橋本の連れが彼を擁護しながら俺に冷たく言う。


 だが、俺は笑うだけだった




 すると、




「お〜い工藤!なんでアインメッセージ無視するの?生意気だけど?てか、お腹マジペコペコだから一緒にご飯食べよう」


 この学校で最も綺麗なギャルと言われている柊優奈がこともなげに俺のクラスにやってきては、俺の腕を掴んできた。


 そして、裕翔に向かって言う。


「あ、あんた工藤の友達だよね?」

「は、はい」

「工藤ちょっと借りるから」

「はい……煮るなり焼くなり」


 おい、裕翔よ、ちょっと俺への扱い酷くないか。


「行こう、

「お、おい……」


 俺を急に名前で呼んでは腕をぐいぐい引っ張る柊。

 

 不思議と体が動き出した。


「……わ、私も、一緒に食べるから」

 

 これまでずっと無口だった璃乃が、俺たちの後ろをついてくる。


「な……」


 橋本は口をぽかんと開けて、魂が抜かれたような顔で俺たち三人を見つめている。彼と連む男友達の反応も似たり寄ったり。





 追記



いるんですよね。


リアルでも橋本みたいな人が






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