第24話 打ち明ける彩音
柊に連れて行かれて、俺は学校の裏庭にやってきた。ここは知る人ぞ知る場所で、人は少ない。
俺はベンチの真ん中に座っており、右に柊、左に璃乃。
二人は俺を隔ててパチパチと音がするほどに互いを睨み合っている。
「あんた、なんでついてくるの?まじ邪魔なんだけど?」
「ふん〜私が先に工藤くんに声かけたけど、柊さんこそ邪魔しないでくれる?」
柊は歯がみして璃乃は色褪せた目を見せる。
「おい、争うのはよくないぞ。飯が不味くなるから」
「「……」」
俺に諭され、二人は下を向いて、こそっと俺との距離を詰める。
おかげさまで両サイドから極上の柔らかなマシュマロが押し寄せるようにやってきては、俺の体を優しく包み込みつつ形を変える。
これはまずい。
「俺、ちょっと飲み物買ってくるわ」
「あ、お金上げるから私の分もよろ」
「わかった」
俺が席から立ち上がると璃乃が切なそうに上目遣いして、柊が何食わぬ顔で100円玉を渡した。
飲み物買うの忘れてよかった。
これで、落ち着くための時間を稼ぐことができる。
璃乃、優奈side
彼が去ったのを確認した二人は向かい合わせて互いを見る。もうすでに敵意に満ち満ちている璃乃と優奈。
「前から思っていたけど、内田さんって本当うざいんだよね。ちょっとかわいいからって、ひよりすぎて、まじ見てるとイライラする」
「そういう柊さんこそ、性格悪いじゃない。あまりいい噂聞かないわよ」
「はあ?噂は所詮噂でしょ?そんなの真に受けるなんて、本当つまんないね。あんた、憲一に迷惑しかかけてないから、近づかないでくれる?」
「迷惑をかけるのはあんたの方だと思うけど」
二人は腕を組んで互いに殺気立った視線を送りあっている。まるで、背中から炎が燃え盛る勢いである。
だが、途中、優奈が口角をかすかに吊り上げて、挑発するように言う。
「あんなた、憲一のこと、好き?」
「っ……それは」
「ほら、すぐに答えられないじゃない。私は大好きなんだよね。憲一のこと」
「わ、私も好きなのよ!」
「その気持ちを憲一にも伝えた?」
「そ、それは……」
璃乃は困り顔で言いあぐねる。彼女の反応を見て、優奈は勝ち誇ったように高らかにいう。
「私は伝えたよ。まあ、憲一は私が本気じゃないふうに捉えたけど、私、これからも、憲一に好きって感情ぶつけまくるから。だから邪魔しないでよ。あんたまじで邪魔だから」
「なに勝手なことを……」
「だって、あんた、憲一を振ったんでしょ?」
「っ!!!」
「振った上に、そんな曖昧な態度ばかり取って……そんなの憲一を2回も殺すようなもんだからね。憲一っていまだに根に持ってるんだよね。あんたに振られたことを」
「い、いや!そんなはずないわ!この前話した時は、もういいって」
「本当、あんたは自分のことしか考えないのね。してもらうことばかり考えて。さっきだって、あのキモい金髪があんたの好きな憲一にひどいことを言っていたのに、なにも言えてないし。本当あんたみたいな子、私が一番嫌いなタイプよ」
「……」
機関銃ばりに放たれる優奈の言葉の数々に璃乃は悔しそうに唇を噛み締める。
そこへ、
「飲みモノ買ってきたよ」
憲一が現れた。
「あ!ありがとう。ねえ、憲一」
「ん?」
「他のとこでご飯食べよう」
「え?璃乃は?」
「調子悪いらしいから多分無理かもね」
「本当?」
憲一はベンチに座っている璃乃の様子を見てみる。
すると、彼女は暗い表情で俯いている。
「璃乃、大丈夫か?」
「う、うん……気にしなくていいよ」
「あ、ああ……」
「行こうね!憲一」
「お、おい!引っ張るな!」
優奈は自分の巨大なマシュマロで憲一の腕を挟み込んで歩き始める。
X X X
翌日
昨日は流れで優奈と昼飯を食べた。食堂で食べたため、めっちゃ注目集めた。特に男たちがやばかったけど、優奈がゴミを見るような視線を彼らに送りまくってくれたおかげで、奴らはひっこんでくれた。
ちなみに、俺も優奈を名前で呼ぶことにした。
本当に優奈は強キャラだ。
うん……
誰かに似ている。
おっと、今そんなことを考えている場合じゃない。
俺は今は、内田家にいるわけだから。
「工藤くん、どうぞ」
「は、はい!ありがとうございます!」
俺はリビングのソファに腰掛けて、彩音さんが淹れてくれたお茶を啜る。
「本当に家、広いっすね。タワーマンションにくるのは初めてです」
「あら、そう?」
と、俺が関心していると、彩音さんは急に俺の隣に座って距離を詰める。
「あ、あの……彩音さん?」
「実はね、私、憲一くんに話したいことがあるの」
「話たいこと?」
パソコンとか重いものを運んでもらって、自分もベッドに運ばれるために俺を呼んだわけじゃないのか。
俺が視線で続きを促すと彼女が恥ずかしそうに口を開く。
「実はね、私……シングルマザーなの」
「え?」
「これまでずっと隠してきたけど、やっぱり憲一には本当の私を見てもらいたくて……」
おお、てっきり大学生のお姉さんかと思ったが、子持ちのシングルマザーだったとは……
こんなに若い上に綺麗だ。
男がほっとくわけがない。
「主人が亡くなって、ずっと一人で娘を育ててきたから……」
なるほど。
離婚とかじゃなくて、死亡か。
俺の家庭と同じだな。
「憲一くんは、こんな私、嫌いになった?」
と、彩音さんは俺の手を自分の爆のつく胸に持っていって懇願するような顔で訊ねた。
本当、
彩音さんは
可愛いんだから。
俺は彩音さんを力強く抱きしめた。
「っ!!」
「彩音さん。素敵ですよ」
「……」
「作家として働きながら娘さんを女手一つで育てるなんて、嫌になるところが、ますます好きになっちゃいました」
「け、憲一きゅん……」
彩音さんは俺の胸に顔を埋めて、手で俺の太ももあたりをさすってきた。それから、彼女が俺から離れて立ち上がり、
「憲一くん……私の部屋にきて」
言われるがままに俺と彼女は部屋に入る。
「な、なんですかこれは……」
あたり一面官能小説だらけ。
トロフィーは数えしれず。
そして、
何より、
フェロモンの匂いがすごかった。
「私はね、官能小説を書く作家なの。最近は憲一を思い出して書いているんだけど、やっぱり本物が欲しいわ」
「あ、彩音さん……」
「来て」
部屋着姿の彩音さんは
まるで獲物を狙う蛇のように俺を見つめ続ける。
俺の体が
急にとても熱くなった。
追記
次回、閲覧注意
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