第22話 優奈と奈津子
「っ!!ったく……この前より上手くなってない?」
「奈津子さんこそ、すごかったです」
店には人がいるというのに、俺と奈津子さんは、こっそり抜け出して激しく求め合った。
お客を待たせるわけにはいかないから、俺と奈津子さんはありったけの力で関係を持った。
薄暗い倉庫の段ボールに寄りかかっている奈津子さんは体を小刻みに震えさせる。その反動で、彼女の金髪も揺れ動き、俺と彼女のフェロモンが充満する。
息を弾ませている奈津子さんを見ながら、俺は思うのだ。
璃乃は、俺にとって邪魔な存在かもしれないと。
俺は奈津子さんと熱いキスを交わしてから店を出た。
街路灯に照らされた夜道を歩く俺。
二人の大人と関わるたびに、自分が成長していく気がした。
土曜日には彩音さんの家でお邪魔になるわけだし、
「これも青春と言えるのかな」
と、あらぬ方向に向かって自問してみる。すると、後ろから誰が声をかけてきた。
「何言ってんの工藤」
「っ!!!」
俺がびっくりして後ろを振り向くと、そこには制服姿の柊優奈が俺を睨んでいた。
「柊……」
「なんで工藤がここにいんの?」
「俺がここにいると悪いか?」
「……悪くないけど」
俺が開き直ると、柊が目を逸らした。
ここは酒屋が多い。現に酔っ払いやナンパ男が町中を徘徊しているので、制服姿の女子高生がここにいるということは、おそらくそういうことだろう。
「ここ危ないからあんまうろつくなよ。また学校でな」
と、俺が、素気無く彼女をあしらって足を動かすと、彼女が俺の袖を掴んだ。
「ん?」
「時間ある?」
「……なくはないけど」
「ちょっと付き合って」
今度はちゃんと断りを入れてくれたな。
俺と柊は近くのファミリーレストランに入った。
「なるほど。お母さんが仕事終わるのを待ってたってことか」
「うん。ナンパ野郎たちマジでうざかったけど」
「だろうな」
彼女は性格こそ悪いが、見た目に関しては璃乃に負けずとも劣らない。だけど、俺は彼女が苦手だ。
「んで、なんの用?」
「……あ、謝ろうと思って」
「謝る?」
と、俺が不思議な顔で彼女を見ていると、柊が恥ずかしそうに口をもにゅらせる。
「この前、私を助けてくれたのに、悪いこと言って……」
「あ、それか」
まあ、あの時は結構辛かったな。
でも、プライドが高いことで有名な柊から、謝罪を受けるなんて、本当に世の中分からんもんだな。
「あんたも、ちょっと助けただけで、体目当てで近づいてくる獣だと思ったのよ」
いそうだなそんな人。
悪いことを企んでいる人が奉仕活動なり寄付なりして、俺いい人ですよアピールするのと似ていると思う。
「そうだったのか。なら仕方ないな。でも、あの時は本当に辛かったよ」
「……ごめん」
「ま、まあ……いいよ。謝ったから」
「やっぱり、あんた、変ね」
「俺が変?」
突然変人扱いされたことで、俺が眉間に皺を寄せて続きを視線で促した。
「他の男子と雰囲気全然違うっていうか、私を特殊扱いしないし」
「そりゃそうだろ。だって、柊は柊だろ?」
「……やっぱり」
「?」
彼女は顔を少し赤らめて、俯く。だが、やがて顔を上げて、俺に向かって
「じゃ、もう下僕はいいから、私の彼氏になって」
「はあ?」
「私と付き合えって言ってんの」
「いきなりすぎるだろおい」
突然学校で最も綺麗なギャルに告白されてしまった。
果たして、これは告白なのか。
一方的に宣言されただけだと思うが。
「これだから童貞はダメね。聞き分け超悪いし」
「またそうやって、決めつける」
「ふん〜その言い方だと童貞じゃないの?」
「なんでそんなの聞くんだよ。お前、ちょっとぶっ飛んでるぞ」
「……」
「用がないなら、俺はもう行けど」
と言って俺が立ち上がるそぶりを見せると、柊が切羽詰まったように言う。
「わ、私……わかんないの!」
「?」
「うち、母子家庭だし、お父さんは他の女と浮気しまくって結局病気で死んじゃったし……本当にどうすればいいのかわかんない!」
「……」
なぜ彼女が自分の家の事情を俺に言うのかは今のところ分からない。
でも、
きっと心の蟠りを抱えながら生きていたんじゃなかろうか。
それが今になって爆発したって感じかな。
詳しいことはあまりわからないけど、不安がりながら切なく俺を見つめる彼女に俺は話す。
「俺も母子家庭だよ」
「え?」
「まあ、確かに浮気をしまくった柊のお父さんはちょっとあれかもしれないけど、大事なのは今だし、考え込んでも答えは出ないよ」
「……」
「まあ、俺も偉そうに言ってるけど、振られたことをいまだに根に持つほどまともな人間じゃないんだよな」
「え?工藤って誰かに振られたの?」
「あ、ああ」
やばい。
柊が家の事情を包み隠さず言ってくれたおかげで、俺も自分の恥ずかしい話をしてしまった。まあ、でも別に隠すようなことじゃない。一年前の同じクラウの連中はほとんど知っているしな。
「内田璃乃……」
「ま、まじ?」
俺が暗い表情で頷くと、柊が急にほくそ笑んだ。
「工藤、ありがとう。私、すごく楽しい」
「切り替え早いなおい」
なかなか掴めないタイプの人間だ。
X X X
優奈side
憲一といっぱい話して連絡交換してから母の働くバーへと赴く優奈。
途中でナンパ男たちがうざったらしく絡んできたが、全部振り解いてバーの前へとやってきた。
だが、また
「お!めっちゃ可愛いJKちゃんだ!俺が見てきた中で一番綺麗なんだけど、おじさんがお小遣いいっぱいあげるから、一緒にどっかで遊ばない?」
40代らしきおっさんが鼻息を荒げて近づいてきた。
「あ、まじ鬱陶しい」
辟易する優奈の気持ちなんぞどこふく風と、興奮気味に近寄ってくる。
「うっひっひっひ」
すると、
「俺の娘に何やってんだおら!!!!」
「ヴア!」
中から出てきた奈津子が、40代のおっさんを蹴り飛ばした。おっさんはそのまま気絶した。
「どんな風の吹き回しだ?わざわざここにくるなんて」
「……私がここにいると悪い?」
「ふふ、優奈は私の娘だからいいに決まってるだろ」
「……うん」
「もうすぐ締めるから中で待ってて」
「わかった」
優奈は珍しく奈津子の仕事を手伝ってくれた。
そして、店を閉めて二人の母娘は帰路に着く。
「優奈」
「何?」
「どんな男?」
「え?」
「男でしょ?他に何があるの?」
「……」
「まあ、言いたく無ければ言わなくていいけど」
「……同じ学校の男子で、ちょっと顔は老けているけど、優しくて私を特別扱いしないの」
「それはすごいね」
「でしょ?」
と、優奈が自慢げにでかい胸をムンと逸らすと、奈津子が満足げに笑って、優奈の形のいい肩を抱いて、自分のところに寄せる。
「ママ?」
「だったら、絶対逃しちゃだめね」
「っ!!」
優奈は迫力のある自分の母の顔に圧倒された。
それと同時に、
嗅いだことのある匂いが、自分の鼻腔をくすぐった。
「そうね。もう絶対逃さない」
優奈はさっきの憲一とのやり取りを思い出しては、お腹をさすり出す。
追記
この関係がいつまで続くのでしょうか。
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