第18話 3人が集まった……
「憲一くん、元気いいわね」
「……」
「ったく……奈津子さんとセフレだったなんて、全然知らなかったわ」
「……」
カウンター席に座っている彩音さんと、向かい側で高そうなウィスキーが入った瓶を握っている奈津子さんは腕を組んで、俺をめっちゃガン見している。
悪意があるわけではなかったが、彩音さんというパートナがいるにも関わらず、別の女性と寝たのは、ちょっと不謹慎な気がする。
俺は黙って渡されたレモネードをちびちび飲みながら二人の顔色を窺う。
もしかして、俺、このまま捨てられるパターン?
もうこれ以上彩音さんと会えないの?
い、いやだ……
そう絶望していると、急に彩音さんが俺にくっついて、色褪せたマゼンタ色の目で俺を捉える。
俺の鼻を刺激するフェロモンが遠慮なしに入ってくる。
「憲一くんはダメな子ね」
「うう……すみません!」
「お仕置きが必要かしら」
「ど、どんな罰でも受けます!なんでもいうこと聞きますから!」
「本当?」
「もちろんです!」
「ふふ……私を差し置いて、他の女と……憲一くんにはたっぷり対価を払ってもらうからね。一生私の奴隷になったりして……」
「ああ、彩音さん……目がマジです……」
こ、怖い……
普段はおっとりとした感じの美人なのに、このギャップは鳥肌ものだ。
しかも、奴隷だなんて……
隣にいる好戦的な奈津子さんならまだしも、いいところのお嬢さんみたいな雰囲気を漂わせる彩音さんの口からあんな単語が出てくるとは。
それほど、彼女は怒っているということか。
でも、途中、奈津子さんが吹いた。
「ぷっ!!彩音さん、揶揄うのはやめな」
「ふふ、そうね」
「え?」
奈津子さんの言葉を聞いて、彩音さんの瞳は元の色を取り戻し、ニコニコしながら、俺を見つめる。でも、目は全然笑ってないのが気になるな。
彩音さんは続ける。
「そうね、憲一くんに悪意はなかったし、むしろ奈津子さんを助けてくれたから」
「そうだよ!私、憲一と彩音さんがそういう関係だということ、全然しらなかったし、まあ、しょうがないよ」
「は、はい……」
意外とあっさり許された。
まあ、思えば、俺と彩音さんは別に付き合ったりするわけでもないし、浮気ということには当たらないだろう。
でも、俺高校生だからどう反応すればいいのかわからん。
とりあえず反省する素振りを見せよう。
と考えた俺が再び俯いてため息をついた。すると、彩音さんが俺の肩をポンとと叩いて話しかける。
「そんなに気負わなくていいから」
「……」
すると、奈津子さんがさらに俺に顔を近づけて、俺と彩音さんにだけ聞こえる声で言う。
「彩音さんも憲一に悪いことしちゃってるから。私もだけど」
「え?」
俺はキョトンと小首を傾げて、二人を交互に見ていると、彼女らは色っぽく笑って甘美なる吐息を吐くだけで、何も言ってくれない。
その代わりに、
「憲一、今日は早めに店閉めるけど、ちょっと付き合って」
「え?」
「ちなみに、彩音さんも一緒だから」
と、意味深な事を言われたので、彩音さんを見ていたら、
「……」
彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めて、美しい美脚をしきりに動かしている。
まさか……これは……
(美女二人に囲まれた憲一を見た女性客は羨望の眼差しを向ける一方、男性客は嫉妬の視線を送る)
X X X
明日
朝
学校の正門前
昨日は俺の人生において最も輝いた日だと思う。
3Pは、現実世界では存在しない幻の概念だとばかり思っていたのに……
童貞を卒業して間もない俺だが、二人の美女と実に激しく交わった。
行為が終わった後、濃いフェロモンを撒き散らしながらベッドで熱い息を吐く二人の表情は、俺の脳裏にこびりついてなかなか離れない。
二人とも
俺の想像以上にすごかった
俺もだけど。
「っ!やべ、ここは学校だぞ……」
と独り言を言って自分を戒めても、この高揚感は無くならない。
今日の裕翔は寝坊したらしく、俺一人で昇降口へと向かっている。すると、この間、俺に殺気立った視線を送ってきた橋本(雄也)とその友達数人の話し声が聞こえる。
「雄也!女の子にモテるコツとかない?俺、ずっと振られっぱなしだしよ〜ねえ〜」
「あはは、今見たいにがっついたら嫌われるよ」
「なるほど!さすが雄也!この間も後輩の子に告白されたよな?どうだった?」
「あはは……丸く収まったって感じかな?」
「やっぱり雄也は大人だな〜羨ましい」
周りの友達から褒められると、橋本はクスッと笑ったのち、周囲を見渡す。そして、
俺と目があった。
警戒するような目。
異物でも見ているかのよに、俺を見下す彼の視線は、柊よりもタチが悪いように思える。
俺と彼が睨み合っていると、後ろから声が聞こえた。
「工藤くん!」
「?」
振り向けば、学校一の清純派美少女である、内田が一人で俺を見ている。
「内田……」
「おはよう……」
「お、おう、おはよう」
いつもは、切ち長の目が印象的な霧島とほんわかした感じの柳澤と一緒に登下校するが、今日は珍しく一人だな。
ていうか、なんでわざわざ話しかけたんだろう。
そこまで仲良いとは思わんだが。
と、いろいろ思いを巡らせていると、彼女は素早く携帯を取り出してそれを俺に渡す。
「?」
俺が小首を捻ると、彼女はにっこり笑って言う。
「アインアカウント交換しよう」
「お、おお」
なんだ。連絡交換か。
別に俺のアインアカウントを教えたところで、すり減るわけでもないから、しようか。断るのもそれはそれでおかしいし。
さっさと済ませて早く教室行こう。
と、俺が内田の携帯をイジると、彼女が照れながら続ける。
「あ、あのね……工藤くん」
「ん?」
「私、工藤くんに一つ、お願いがあるの……」
「お願い?」
携帯をいじりつつ適当に言って続きを促す俺。
「最近、新しいカフェができちゃって……もし、今日あたり放課後時間あれば、一緒に行かない?」
「ん?なんで俺が?」
「そ、それはね!えっと、カップル限定メニューがあって、それを撮ってSNSにあげたいの」
「別に、俺じゃなくて他の男子といけばいいんじゃね?」
「……」
俺がこともなげに言うと、彼女はしばし沈黙する。
ん、これID入力しても俺のアカウント出てこないんだけど、なぜだ。と、俺が内田の携帯と睨めっこをしていると、
「私、母子家庭だから、同じ母子家庭の工藤くんと一緒の方が気が楽というか……他の男子は、ちょっと怖くて……」
なるほど。だから俺に頼んできたのか。
なら致し方あるまい
「そっか。そういうことならいいよ。今日は予定ないし」
「っ!ほ、本当?」
「今日はたまたまフリーだからいいんだけど、こういうのは数日前に言ってくれよ」
「ごめん……じゃ、これからはアインでいっぱい連絡するから」
「うん。そうしてくれると助かる」
アカウント追加を終えた俺は、スマホを彼女に渡す。
内田はとても明るく笑っていた。
だが、
彼女の表情はある人物によって引き攣ってしまった。
「私の下僕に手出すな」
「「え?」」
後ろを振り向けば、
金髪を靡かせ、着崩してデカい胸が強調される格好の柊が、内田を睨みついて言ってきたから。
追記
おう、
憲一くん忙しい
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