第17話 調子に乗る優奈

憲一side


「んじゃ、俺は先に行く」

「あ、工藤!せっかくだし一緒に帰ろう。なんならカフェ行かない?私と璃乃と工藤三人で!」

「ん……誘ってくれるのは嬉しいけど、俺、母さんに頼まれて買い物行かないとダメだから」


 母さんには感謝する。


 今度はごま油がもうないから買ってくれと、クラスに戻る途中、母さんが連絡してきた。


 今日は彩音さんとデートする予定だ。だから、万全な状態で挑むのが良かろう。


 それに、ほら。


 女子におけるヒエラルキー頂上に君臨する二人のことだ。しかも内田は学校におけるマドンナ的存在。


 うん……制服着てる俺たちがカフェで話しているところをさっきの橋本か同じ学校の連中に見られたら厄介なことになってしまう。


「またな」

「う、うん……また明日ね」

「……」


 俺が笑顔を湛え手を振ると、霧島は若干戸惑いつつも、手を振り返してくれる。

 

 だが、


 内田は


 悲しい表情を浮かべて俺を寂しく見つめるだけだった。


 なぜあんな表情をするのかは正直理解に苦しむ。


 よくないことでもあるのだろうか。

 

 だが、彼女は俺に何も言ってこなかった。


 彼女は意味深で思わせぶりなことは言ったが、ちゃんとわかるような言葉で言ってくれないと、こっちはまた変な勘ぐりをしてしまう。


 だから俺は、内田をスルーして彼女らを背に早足でクラスを出た。


(目を細めて憲一と落ち込んでいる璃乃を交互に見る霧島美波)



X X X


住宅街




 学校を出た俺は住宅街を通っている。


 ここは以前、俺が柊優奈をチャラいナンパから助けた場所でもある。


 結局助けても柊のやつ、ボロクソ言ってきたから相当辛かったけどな。


「ちょっとくらい別の柊さんを見習えばいいのにな〜顔はめっちゃ可愛いし。まあ、別にどうでもいいけど」


 見た目は似ているけど、性格は全然違うあの二人を比べて、俺はクスッと笑って微かに口の端を上げた。


 すると後ろから俺を見下す聞き慣れた声が聞こえる。


「別の柊さんってなに?」


 ああ、タイミング悪いな。


 俺は足を止めて振り返った。


 すると、そこには案の定、金髪を靡かせて健康な小麦色の美少女・柊優奈が俺にジト目を向けていた。


「また、お前か」


 俺が苦笑して独り言のように呟くと、彼女は腕を組んでキッと俺を睨め付けてくる。お陰でそのドでかいマシュマロが強調され、正直目のやり場に困る。


 見た目だけはトップレベルだよな。


 性格が結構アレだけど。


「あんた、その言葉遣い、生意気よ。分を弁えなさい」


 ここで彼女の気に障る言葉を吐いたら、面倒なことになりかねない。


 昔の俺は間違いなくカッとなって怒ったと思うが、今の俺は、至って冷静である。彩音さんと奈津子さんのお陰であろう。



「ああ。悪かった」


 彼女にだけ聞こえる声で言って、俺はいそいそと歩き始める。

 

 だが、



「なんなのそれ!?その言い方、超ムカつくんだけど?」


 と、言って柊は俺の袖をグイッと引っ張る。


「っ!」


 驚いた俺は、再び後ろを振り返る。


 ムカつく理由がわからん。


「どうしろってんだよ」

「私に謝りさない」

「はあ?」


 ますます意味不すぎる言葉を言う柊に俺は「まじなに言ってんのこいつ」みたいな視線を彼女に送る。

 

 柊は図々しい顔で、また口を開く。


「ブッサイクでパッとしないあんたのせいで、私、ストレス受けたから」


 俺の人格を傷つける言葉を吐くなんて……もし、会社でそんなこと新入社員に言ったら、パワハラで訴えられるぞ。俺高校生だからあんま知らんが、とにかく、柊の態度は実に無礼である。

 

 コメカミを抑えて俺は訊ねる。


「なんのストレスだ?」


 柊は、自信に満ちた表情を浮かべて、胸をムンと反らし、返答する。


「私、超可愛いし綺麗じゃん?でも、あんたは私と釣り合い取れないし、イケメンでもないから、それ自体がストレスよ。でも、もしあんたが謝るなら、私の下僕にしてあげるわ。光栄でしょ?」


「……」


 また見下すような視線。

 

 だが、怒るのはよろしくない。


 こいつは所詮高校生だ。


 彩音さんや奈津子さんのような大人ではない。


 だから、傲慢なこいつにちょっとくらいは現実を突きつけてやってもいいだろう。

  

 彼女の心を傷つけることになると思うが、まあ、別に構わん。


 俺をもっと嫌いになって、近づかないでくれ。



「おい、あまり調子に乗んなよ」

「え?」

「柊、お前は確かに綺麗で可愛い。男から告白も受けまくりだろ」

「ええ。そうよ。よくわかっているのね」

 

 褒められたことで上機嫌な彼女に俺は言う。



「でもさ、お前より綺麗で可愛くて性格も良くて、ナイスボディな女性もたくさんまいるからな。だから、そんなナルシストみたいな態度はやめろ。気持ち悪い。いつまでもそんなだと



「っ!!!!!」


 

 俺は、口を半開きにして固まっている彼女を一瞥したのち、ターンと踵を返して、小走りに歩く。




柊優奈side



 去っていく彼の背中を眺めながら優奈は呟く。


「なんだよ……あいつ……他の男と全然違う……マジで調子狂うから……」


 と、震える声で言ったのち、体をブルブル震わせる。


 彼の言葉を聞いた瞬間、頭の中で強い電気が走った。


 こんな刺激は初めてだ。


 いつも、モデル級のイケメンたちが付き合って欲しいと懇願してくるものだから、仕方なくマウント取りまくりながら付き合ってあげたが、どいつもこいつも身体目当てだった。もちろん、下心を少しでも見せたなら、彼女は容赦無く振ったからまだ処女ではある。


 つまり、世の中の男たちは自分のパパと同じく獣でしかいない。


 ママという綺麗で立派な女性がいるにも関わらず、浮気して、二股三股かけて、結局、病気で死んでしまった。


 男なんかみんなパパの下位互換だ。


 でも、ずっと自分の理想の男を探し求めきた。


 男なんかみんなゴミ以下の産業廃棄物なのに、彼氏はみんなパパみたいな人。


 そんな矛盾に嫌悪感を抱いて、今はフリーだ。


「……」


 工藤健一。

 

 彼は今まで見てきたどんな男と違う。


 自分をえっちな目で見ることはせず、

 

 何より、





 とても大人びている。


 本当にあれが高校生なのかと疑いたくなるほど、彼の言動は……



「工藤のくせに……」



 パッとしない老け顔の同い年の男子なのに、なんでこんな……


「ん……」


 

『でもさ、お前より綺麗で可愛くて性格も良くて、ナイスボディな女性もいるからな。だから、そんなナルシストみたいな態度はやめろ。気持ち悪い。いつまでもそんなだと




 説教じみた事を言われたのに、全然気持ち悪くない……


 むしろ……



「っ……工藤のくせに……」





 優奈の全身を駆け巡っている電気が、




 の方に集まり始める。

 

 彼女の頬はピンク色を帯びている。




X X X


 


バー



「……」


 バーに来た俺は、今二人(彩音さん、奈津子さん)からめっちゃ睨まれている。


 そういえば、彩音さんはここの常連だと言ってたよな。


 つまり、奈津子さんと仲がいいと言えるだろう。


 ということは、




 俺は彩音さんの友達のような存在と関係を持ってしまったということだ。


 なぜ今になって気づいたんだ……

 



「憲一くん」

「憲一」


「は、はい……」


「「」」

 


 やばい




追記


次回おもろ

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