第14話 どうしてこうなった

 案の定、柊優奈を脅迫し、よくないことをしようとしていたチャラ男がいた。彼は20代前半のように見えるとても綺麗なバーテンダーさんを睨んでおり、捲し立てるように言う。


「なんで俺はここでお酒飲めねんだよ!?差別してんのか!?ああ?!」


 カウンタを叩くチャラ男。


「ここはてめーみたいなチャラチャラしたナンパ男が大っ嫌いな女性客が主に利用するところなんでね、だから出て行けって言ってんの」


「俺がチャラチャラしたナンパ男だと!?ふざけんな!このあま!」


「口を慎めこのクソ野郎が!!しばかれてーのか!?ああ?!さっき私にナンパしただろ!」


「っ!んだよ。女の癖に!俺に勝てるとでも思ってんのか!?」

 

 美人バーテンダーさんが剣幕で怒鳴り込むと、チャラ男は一瞬ビビりながらびくんとなった。


 それにしても、マジであのバーテンダーさん怖いな……威圧感といい、雰囲気といい、普通じゃない。


 見た目だけなら女優に引けを取らないが、気が強すぎるから、距離を置くべきだろう。


 でも、まずは助けなきゃ。


 いくら強そうに見えても、基本女は男に勝てない。


 それに、


 俺は母と住んでいる。


 女性に対してぞんざいな扱いをするような輩を見ると虫唾が走る。


 そう思っていると、バーテンダーさんがその青色の目を細めて、挑発するようにいう。



の癖に分を弁えろ。てめえは、駅前で通りすがりの女の子にナンパしまくって、結局全部断られる敗北者がお似合いだ」


「お、お前……くっそ……くっそ……俺も、俺もS級美人とやりてーんだ!!!!」


 血迷ったチャラ男はバーテンダーさんの豊満な胸へと手を伸ばす。指はいやらしい動きをしており、今にもあの爆のつく胸に届きそうだ。


「っ!」


 戸惑う美人バーテンダーさん。


 俺は彼の手首を強く握り、制止した。


「おい、お前。本当に牢屋行きてーのか!」


 おお……

 

 この二人の口喧嘩を見たせいで、俺までヤクザっぽい言い方になってしまった。


「なっ!お前は……」


 チャラ男は首を動かし俺を見て仰天する。俺は冷静な顔で続ける。


「いいから、早くここから出ていけ。みんなが迷惑するだろ」


 と言いながら彼の手首を握っている手にありったけの力を入れる。


「く、くそ……てめえ……」


「出ていけ」


「……」


「出ていけって言ったはずだ」


「い、いたたた……くっそ!離せ!」


 と、彼は手を振り解こうとするが、俺の手は相変わらず彼の手首を捉え続ける。


「出ていけ」


「ああ!わかった!出るから!その代わりに、通報はしないでくれ!」


 と言って涙ぐむ彼の姿を見た俺は大人しく手を離した。


 すると、



「バカが!!俺が聞くとでも思ってんのか!?あはは!」


「なに!?」


 チャラナンパ男は、俺を押し退け、美人バーテンダーさんの胸を揉むべく上半身を乗り出す。


「あはは!こんな美女とヤれるなんて……顔は女優クラスで体はブラドル顔負け……申し分ない」


 こいつは、完全に気が触れていやがる。


 客もいると言うのに(全部女性客だが)。


 やばい……

 

 早くなんとかしないと。


 そう思った瞬間、



調


 カウンター越しに体を触ろうとするチャラナンパ男のミゾオチに彼女の鮮烈な拳の一撃がヒットした。


「ぐあっ!」


 苦しみにもがく暇も与えまいと、バーテンダーさんは流れるようにカウンターを乗り越えて、男を取り押さえた。


 こんな物々しい光景を見て俺は思った。




 俺の助けいらないじゃん……





X X X


 警察署


 結局、バーテンダーさんはチャラナンパ男を警察に突き出した。俺と女性客が撮った映像と証言のおかげで、スムーズに事が運んだ。


 一応、母さんにもメッセージは送った。


 幸い、俺は無傷で警察のおじさんたちが俺の母さんに電話をかけて俺のことを褒めちぎってくれたおかげで、母さんは大満足してお巡りさん達に受話器越しに俺の自慢話を並べ立てた。

 

 手続きを終えた俺はバーテンダーさんと二人きりで警察署を出て歩いている。


 別に一緒に行動することはないが、彼女が俺を待ってくれた。

 


「あ、あの……すみません。余計なお世話でしたよね」


 俺は柊優奈の件の時の反省を生かして彼女に謝った。


 良かれと思ってやったことが相手に被害をもたらすことだってあるからな。


 彼女も柊優奈のように怒るのだろうか。

 

 ちょっと緊張しながら彼女の横顔を見ていると、


 突然、彼女が

 

 俺にヘッドロックをかけてきた。


「っ!」


 だが、決して強い訳じゃなく、その気になれば解くことはできるが、彼女の巨乳が俺の頭を優しく受け止めてくれるおかげで、俺は歩く足以外は身動きが取れない。


「何言ってんだ。格好よかったから」

「は、はい……」

「名前は?」

「工藤憲一です」

「憲一か、私は柊奈津子」

?」

「奈津子でいい」

「は、はい……」


 まあ、俺の学校にも柊という苗字を持っている人は数人いるしな。


 やっと奈津子さんの腕と胸から解放された俺がため息をつくと、彼女はわざとらしく咳払いをして、言う。


「はあ〜あのクソのせいで、店閉めちゃったし、迷惑ったらありゃしない」

「それは残念でしたね」


 俺があははと作り笑いしながら言うと、彼女がしれっと聞いてくる。


「憲一は何歳?」

「えっと……21歳です」


 べ、別に騙す必要はないけど、なんかいつもの癖で言ってしまった……


「若いね」

「い、いや……奈津子さんこそ、とても綺麗で若いじゃないですか。俺と年近いんですよね?」


 と、俺が訊ねると、奈津子さんは嬉しそうに微笑みながら、俺の背中を手のひらで一回叩いた。


「っ!びっくりした……」


 俺は奈津子さんを見て微苦笑を浮かべる。


 すると、


「ねえ」

「はい」


「彼女いる?」

「い、いないです!」


「ふふ」

「?」



「ちょっと付き合って。



「っ……はい」




X X X


ラブホテル



 どうしてこうなった……

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