第26話「歌の力(またはWの喜劇)」

 Side 綺羅 ユキナ


 =学園・司令室=


「何を考えている!? 帝国と全面戦争をおっぱじめる気か!?」


 地球のゼロサムゲームなど宇宙の遠い彼方から来た来訪者に通用するものか。

 ましてやテロリストを装っての攻撃などという、言い訳など通るはずもない。

 

 このままでは地球がディセントもろとも滅ぼされる。

     

 今でも十分世界の危機的状況なのに、どうにかして説得しなければこのままでは帝国と全面戦争だ。


 ああ、気が遠くなりそう。

 

 終わるのか。


 地球の歴史が――


「我々は――どうなるんでしょうか?」


 オペレーターがそう言った。

 今の状況を的確に示しているような一言だ。

 

「好きにしても構わん――地球はもう――」

 

 私は半ば諦めるようにそう言った。



 Side 綺羅 セイジ


(あいつら正気かよ!? こんな真似したらどうなるか分かってるのか!?)


 全面戦争。

 そんな単語が頭をよぎる。


(無駄になるのか――今迄の戦いが――)


 そう思った時、とても悔しくて、悲しい気持ちになった。


(僕達の戦いは――いったいなんだったんだ……)


 そう強く思わずにはいられない。

 オリヴィアやインリンだって茫然として突っ立っている。

 もうここまでなのか。 



 Side クリス・ヴァレンタイン


「みんな……今日が地球の最後の日らしいぞ」


 まさかこんな展開になるとはな。

 地球の終わりなんて物を目にするとは思わなかった。


「クリスさんは?」


 周りから声を掛けられる。

 明らかに動揺していた。

 まあ無理もない。


「このまま腐りたければ好きにしろ。だけど俺はヒデトと約束したばっかりなんでな――」

 

「そう――ですか――」


「無理して付き合わなくてもいいぞ?」


「いえ、お供します」


「そうか――うん?」


 ふと帝国の旗艦の方に目をやると上部甲板に何やら巨大ロボットが――

 紫色で悪魔のように禍々しいロボットと赤い騎士のようなロボットが登場した。


 新たに現れた巨大ロボットだけでも十分すぎるのにダメ押しするつもりか。

 

『聞こえますか地球の皆さん。僕はディノ・ゼラヴィア。ゼラヴィア帝国の皇子です』


「全周波帯で音声が――」


 あの皇子の声がエクスアーマーの通信装置に届いた。

 どうやら世界中に。

 あらゆる媒体で届けられるらしい。

 一体何を語りかけるつもりなのだろうか?


 まさか宣戦布告だろうか?


 このタイミングでされたら間違いなく地球は滅亡するだろうな。


 よくて支配下に置かれるのか。

 奴隷みたいに扱われたりしてな。


 もう運を天に委ねるしかないか。


 そして通信が流れる。


 

 Side ディノ・ゼラヴィア


 どうも地球の皆さん。


 今現在我々はテロリストを名乗る謎の軍事組織により攻撃を受けています。


 一体誰が、何の目的でこのテロを行ったのかは分かりません。


 ですが我々ゼラヴィア帝国と地球との仲を引き裂きたくて、どうしようもない連中がいるのはこれで明白になりました。


 僕はこの勢力に対して武力を持って対峙する決断を下します。


 何者かは分かりませんが、実は他にも目的があるかは分かりませんが、僕は地球の支配、軍事侵攻などを考えてはおりません。


 本国の人間からは甘い対応だのと言われるかも知れませんが少なくとも僕は平和を望んでおります。


 次に僕は宣言します。


 このテロリストに肩入れ勢力には例え何者であろうと、そしてこの言葉が目的であろうと武力を持って対峙します。


 そして――今地球で起きているディセントの大規模侵攻に対して地球と共同で対処する事を、あらためて宣言します。


 これは誰に何と言われようとも変えるつもりはありません。


 例え副官に言われても婚約者に言われても、父上に母上、兄妹に言われても帝国国民に反対されようともです。


 以上で、僕の演説は終わります。


 演説は正直上手く出来ているかどうか分かりませんが――正直あまり慣れてなくて――それでは敵の大規模侵攻も本格化して来たので僕も戦いに参加します。



 Side 綺羅 ユキナ


 奇跡が起きた。


 まだ安心は出来ないが希望は見えた。


 同時に皇子のとんでもない慈悲深さに涙が出てきてしまった。


 気が付けば昭和のアニメっぽいBGMが流れているのに気が付いた。


 どうやら帝国が流しているらしい。


 一体全体どう言うことだ?


  何の意図がある?



 Side クリス・ヴァレンタイン


「なんでここでロボットアニメのBGMを流す!?」


 思わず俺はそう、つっこんでしまった。

 あの紫色の悪魔のような機体はUFOのような鋭角的な軌道で縦横無尽に戦場の空を駆け回り、次々とテロリストとディセントを倒していく。


 しかも皇子様歌ってるし!!


 だが問題はそこではない。


(声は違うが――この歌い方は――まさか――いや、そんな――)


 この曲のチョイスといい。

 歌い方といい。

 どうしても愛坂 ヒデトを思い出してしまうのは何故だろう?


(しかしまあ……世界の危機的状況で、全世界に皇子様の歌声が流れている。しかもそれがロボットアニメのアニソンと来た……)


 何か根っこの部分で完敗した気分になった。

 絶望的な気持ちはない。

 ただ清々しくて、気持ちいいぐらいだ。


「お前ら、もうひと働きできるか!?」


「ええ、もう不安はありません!! やりましょう!!」


 歌が世界を救うか――まさか現実になるとはな。 



 Side 総司令官


 一体何が起きている!?


 あの連中から譲り受けた人型機動兵器も全然役に立たん。


 部下も逃亡や降伏をし始める始末だ。


 更には世界中に歌だと!?


 何が!?


 一体何が起きている!?


 こんなバカな事をしでかす宇宙人に負けると言うのか!?


 世界を、地球を守ってきたこのワシが!?



 Side ユン・シェンハ


 慈悲深さに驚かされましたが皇子にまさかこの様な趣味が――


 そう言えば婚約者の星を救う時も歌を流したと噂で聞いたことがありましたが――まさか本当だったとは――


 ジーナ様は涙目になって「一緒に止めるのを協力してください!!」と言ってきた。


 だけど私は何かこう、心が熱くなるようなものを感じた。


 地球に長い事をいますが、地球の音楽でこんな風になった事はありません。


 なんなんでしょう、これは――


(だけどこれで学園全体だけでなく地球全体の士気は大幅に向上しました!!)


 凄い戦果かつ偉業です。

 

 彼方此方から歌い声が聞こえ始めてきました。 


 これも皇子のなせる技なのでしょうか。 



 Side 綺羅 セイジ


(凄い――)


 地球全ての人と、心が一つになっていくような、そんな気持ちすら感じてくる。


「いっくぞおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ただ想いのままに戦おう!!

 

 恐さは感じない。


 ただ無限大に熱い衝動が流れてくる。


 これならディセントの大規模侵攻を乗り切れられる!!


 同時にゼラヴィア帝国の皇子は凄いと思った。

 

 こんな事を平然とやってのけるなんて。


 完敗だよ。


 だけど今は戦おう。


 皆を守るために。


 愛坂君との約束を守るためにも!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る