第22話「ゴースト大作戦」
Side オリヴィア・ウィリアムズ
愛坂 ヒデトの幽霊が現れた。
宇宙人の次は幽霊?
私はウンザリした。
だが何を思ったのかセイジは何かに取り憑かれたかのように鍛錬に励んでいるのは事実だ。
――このクズ、そんな事も出来ないのですか!!
――そんなだからセイジに勝てないのですわ!!
――どうしてセイジもこんな奴と関わっているのやら……
正直愛坂 ヒデトの事は嫌いだった。
好きなのに、愛しているのに、私より近しい距離がいるアイツが。
それでいて生意気にも説教じみた事を言ってくる。
それはそうとセイジのことだ。
私も色々とあって体が鈍っている。
同室の人間もいない。
部屋から出ようとしたその時だった。
「決闘を経ても、僕が死んでも変わらなかったようだね、君は」
「貴方は――」
噂のゴースト。
愛坂 ヒデトがオリヴィアの部屋に現れた。
「何かのトリックかしら?」
「セイジの前では上手く猫を被っていたようだけど僕の前では本性を露わにしていたね」
「う、煩い!!」
私は咄嗟にエクスアーマーを展開しようとした。
だが出来ない。
「エクスアーマーの部分展開は出来ないようにしてある」
「そんな技術――」
「それよりも正論を言われただけで武器を展開するなんて本当に変わってなかったね。イギリス貴族の誇りが何だと笑わせてくれるよ」
「そうやって、セイジにも何を吹き込んだの!?」
「セイジには君の悪口は言ってないよ。でも今のセイジに君は相応しいとは思えない」
「なんですって!?」
「君は決闘で丸くなったと言うが違う。セイジに夢を見ているだけの女の子だ。セイジを基準に男を見るようになっただけの傲慢な女だ。そんなんでよくセイジのハートを射止めるとか言うようになったな」
「それは――」
「逆に聞くけどそんな女の子を好きになるような男を君はどう思う?」
「黙りなさい!!」
私は殴りかかった。
だが攻撃がすり抜ける。
「ま、まさか――本当に、いや、ホログロフか何かの筈!?」
「好きに思えばいいさ。僕がお願いしに来ただけなんだ」
「お願いですって?」
「自分を見つめ直して欲しい。イギリスの貴族とかエクスアーマーの誇りとか関係ない。一人の女の子として、一人の人間として」
「うるさい、うるさい、うるさい!! 貴方に、貴方に何が分かると言うんですか!? 綺羅 セイジのためなら何でもやる覚悟は出来ていました!! でも、段々と周りに女の子が増えてきて――だから――」
「それで僕にあんな仕打ちしたのか――」
「そうですわ――」
「何度でも言うよ。そんな女をセイジが好きになると思うのか?」
「それは――」
「一度考えておくんだな」
そして彼は消えました。
「そんな筈は――セイジが私の事を――」
私は現実を受け入れられず、ただ茫然とその場に座り込みました。
☆
Side チャン・インリン
私だけじゃない。
皆の前にも愛坂 ヒデトのゴーストが現れた。
大なり、小なり説教して立ち去って行った。
ご丁寧にセイジに「彼女達はただ自分の想いの伝え方が不器用なだけなんだ。それを分かってやって欲しい」とまで頭を下げていた。
とてもとても惨めな気分だった。
エクスアーマーの実力云々とかじゃない。
人間としての――根本的な部分の大切さを嫌と言う程見せ付けられた。
――君の愛する綺羅 セイジはどう言う人間なのか、よく考えて欲しい。
――だったらやり直せ!! チャン・インリン!!
本当は認めたくない。
だけど綺羅 セイジにもこう言われた。
「皆にも言うつもりだけど、リンがまだ愛坂 ヒデトを侮蔑すると言うのなら僕は皆を、姉さんだって拒絶するよ。彼は必死だったんだ。生きるために頑張っていたんだ。そんな彼を踏み躙って僕達は愛坂さんを殺したんだ」
「だけど、もしも、自分を省みて、やり直せるんだったら――また一から始めよう。彼もそれを望んでいた」
その愛坂 ヒデトが本物だと言う確証はないじゃない。
私は苦し紛れにそう言った。
だけど綺羅 セイジはこう言った。
「本物だろうと偽物だろうと関係ない。ヒデトの言っている事は間違いではなかった」
そう、間違いではない。
正論なのだ。
だけどそれを認めてしまえば私の何かが壊れてしまいそうだった。
☆
Side 綺羅 ユキナ
「随分と好き勝手やってるなゴースト」
案の定私の前にも姿を現した。
愛坂 ヒデトの幽霊が。
私室でいた時だ。
「ええ、やらせて頂きました」
「お前は何者なんだ?」
「何者かそうでないかはこの際関係ありません」
「……私にも説教するつもりか?」
「ええ。綺羅 セイジ達が歪んでいった責任の一端は貴方にもありますから」
「そうか――」
「貴方にとって不幸なのは問題児ばかりを押し付けられて、実の弟が死ぬかどうかも分からない戦場に送り出される事で不安だった――違いますか?」
「……そうだ」
「否定はしないんですね」
「君の言っている事に間違いはない。君の言っている事は正しい――ならば黙って正直に答えなければならない」
「僕からすれば複雑な気分です。弟を一番優先させたいだけの最低な教師だったのなら僕も恨みようがあります。ですが貴方は違った」
「ガッカリしたか?」
「いえ、大侵攻が控えている今です――手間が省けました」
「君は――まさか学園のために――」
「復讐も正直考えました。ですがクリスや雪音先生が思い止まらせてくれました。後悔も沢山ありましたが救いもあったんです」
「そうか――」
私は涙が抑えきれなくなってきた。
「正直、思い切り罵倒でも何でもしてくれれば――そっちの方が気が楽だったよ――君は愛坂 ヒデトなのか? それとも愛坂 ヒデトの名を語る何かなのか?」
「それは大して重要な事ではないでしょう」
「そう……だな……重要なのは君が本物か偽物かじゃない。言葉を真摯に受け止め、どうするかだな……」
「その様子ならもう大丈夫ですね」
そして愛坂 ヒデトは消えた。
まるで最初から居なかったかのように。
☆
Side 雪音 ミオ
夜の保健室。
そこで私は彼を待っていた。
学園を騒がしているゴーストを。
「お待たせしました」
「遅いわよ――愛坂君――」
私は抱き着いた。
だがすり抜けてしまう。
「貴方は何? 本物なの? 偽物なの? 幽霊なの?」
「それは大した問題じゃありません。それに――雪音先生の前には現れるかどうかは正直悩みました」
「そんな悲しい事言わないで!! どれだけ、どれだけ悲しんだか分かってるの!?」
「すみません――未熟なばかりに、自分の不幸を周りに押し付けずに頑張って足掻いていればこうならずには」
「それは違うわ!! それは――本来は私の、教師達の役目よ!! なのに――」
「雪音先生、僕は貴方が幸せになる事を望んでいます。大切な人に恵まれる事を望んでいます」
「そんな――聞きたくない――聞きたくない!!」
私はその場に蹲る。
「私は――私は貴方が思ってるほど強い女じゃないのよ――」
「雪音先生――」
「雪音先生じゃなくてミオって呼んで」
「ミオ――」
「はい――」
「辛い学園生活でしたけど、貴方がいたからこうして復讐とは違う選択肢を取れるようになったんです。ありがとうございます」
「お別れは嫌――せめて――もう少しだけいて――」
「はい―」
他愛のない話をして。
そして気が付いたら保健室のベッドの上で寝てしまっていて。
丁寧に布団まで掛けてあった。
そして机の上には書き置きがあった。
☆
僕は死人です。
死人がやたらめったら介入する事はもうないでしょう。
ただ雪音先生に関しては心残りがあります。
どうか幸せになってください。
復讐を考えないでください。
もう一度、綺羅 セイジや綺羅 ユキナやその周りを信じてあげてください。
また道を踏み外そうとしたら、教師としての責務を持って叱り飛ばしてあげてください。
それが僕の望みです。
☆
「優しくて、強い子になったのね――ヒデト――」
涙が止まらない。
溢れ出てたまらない。
それでも何時かは涙を止めて歩みださないといけない。
だけど今だけは――
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