第21話「大規模侵攻の前に」

 Side 綺羅 セイジ


 大規模侵攻の報せ。


 それを聞いて、皆やる気満々だった。


 自分もやる気だ。


 だが同時に心の中で引っかかっていた。


 愛坂 ヒデトの事だ。


 何度も考えた。


 俺達が殺したようなもんじゃないかって。


 気が付けば墓地にいた。


 墓地にはこの学園で亡くなった人間が埋葬されている。


 そこには愛坂 ヒデトもいる。


 愛坂 ヒデトの墓前には一人の少年がいた。


「俺はクリス・ヴァレンタイン。愛坂 ヒデトをよく知る人間だ」


 そう名乗った彼は僕にこう言った。


「正直ぶん殴りてえ気分だが。テメェをボコボコにして退学になるなら本望だ」


「愛坂 ヒデトを知っているのか」


「ああ。お前とお前の姉のせいで死んだってのは分かるぐらいにな」


「そう……か……」


「そうかってなんだよ――今や学園の顔になってるエースがしけた面しやがって」


「それは――」


「何だ言ってみろ?」



「大規模侵攻だと――」


「ああ、それが起きる。だから――」


「それで墓参りか――はっ、俺が手を下す必要もねえ。その調子じゃ死ぬぞお前」


「それは――」


「それとも周りの女に慰めてもらうか? いいねえ、モテる男は。俺もあやかりてえよ」


「お前――」


「そいつらが愛坂 ヒデトを殺したようなもんじゃねえのか」


「ッ!?」


「確かに原因は戦死だ。だが遠からず別の要因で死んでいたぞ、例えば自殺とかな」


「それは――」


 何て言えば良いのか分からなかった。

 思考がグチャグチャになる。


「そこまでだよ」


 その時現れたのは――


「嘘だろ――」

 

 クリスが目を見開き、


「そんな――」


 僕は言葉も出なかった。


 何しろ唐突に何の前触れもなく現れたのは愛坂 ヒデトだったからだ。


「まて、本物の愛坂 ヒデトか?」


「本当は静観するつもりだったけど色々あって来ちゃったよ、クリス」


 慌てて動揺しながらも確かめるクリス。


「本物なら、その、なんだ、俺達でしか知らない事を言えるだろう?」


「あったかなそう言うの? ゲーム関連の事ぐらいしか思い浮かばないけど」


 僕は何の事だか分からないので傍観に徹するしかなかった。


「そうだよな~そうだ、雪音先生だ! 何処まで行った?」


「デートには行けなかったよ」


「そうか――」

 

 保険医の先生と仲が良かったのか?


「あの日、死んだ後――久しぶりにこの学園に来たけど、とんでもない事になったね」


「あ、ああ――宇宙人らしい。エクスアーマーより性能が上のロボット兵器を保有しているみたいだ」


「そう――もっと早く来てれば死なずに済んだかもね。まあこれは運が悪かったとしか言いようがないね」


「運が悪かったって」


「死ねば死ぬ前の事なんて夢みたいなもんだから」


「そんな事言うんじゃねえよ――本当に、本当にヒデトなのか?」


「さあどうだろうね?」


 そう言ってツカツカと僕の方に歩み寄り、一発ぶん殴られた。


「はぁ――やっぱこれだよね。スッキリした」


「ちょ、おま――」


 クリスでさえ驚いた。

 俺は殴られた痛みよりも殴れた事よりもこの異常事態で頭が混乱していた。


「死人だしね。校則も何もないよね?」


「いや、そうだが」


「ちょっと、綺羅君と会話させてね」


「あ、ああ――」


 事態を静観するしかないと思ったのか、クリスは僕と愛坂 ヒデトを見守るしかなかった。


「本当はもっとぶん殴りたかったけど、あの一発でチャラにしてあげる。」


「えーと、その――」


「僕は確かに君の事を恨んでいたよ。だけど同時に多くの人を救ってきたのは認めている」


「え?」


 救ってきた?


「君の行動には問題点は沢山あったけど、悪意はなかった。まあそれが逆に厄介でもあって泣かされた事もあったよ」


「だけど、だけど君はそれで――」


「過去は変えられない。だけど今を生きている君なら未来を変えられる」


「え?」


「ねえ、君はどうしてエクスアーマーに乗ったんだい?」


「それは――」


「女の子にモテたいんじゃなかったんでしょ? お姉さん含めて学園の皆を守るためでしょ?」


「――ッはい!!」


「だったら貫き通せよ、ヒーロー」


 そう言って愛坂 ヒデトはクリスに向き合う。


「クリス君――確かにこの学園は問題だらけだ。通う人間も欠点だらけだけど、だけどもう一度信じて足掻いて欲しい。そんな君だからこそ僕はついていったんだよ」


 そう言い残して愛坂 ヒデトは立ち去った。


「待て!! まだ――何も――」


「また何時か――」


「おい、ヒデトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 そして愛坂 ヒデトは消え去った。

 最初から何もいなかったように。




 Side ディノ・ゼラヴィア


 僕は少し離れた場所で愛坂 ヒデトからユリウス・ハートネットになる。

 何かやってる事がウルトラマ〇のダ〇星人みたいになってきたな。


「これで良かったんですか?」


 ユンが訪ねる。


「うん、いいんだよ」


「しかし綺羅にあそこまでの慈悲を――」


「意外だった?」


「ええ――まあ、はい。それと演技力が凄かったと言うか何というか」


(まあ本人が演じてるからな。よっぽどじゃなけりゃバレないわな)


 などと心の底で思ったり。


「他の人にも化けて出てやろうかな?」


「陛下がお望みとあれば幾らでも協力します」


「ははは」(ありがとうクリス君、君のおかげだよ――)


 まあこれぐらいの復讐なら神様も――いるかどうか知らないけど――多目に見てくれるよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る