第11話「雪音 ミオ先生」

 Side ディノ・ゼラヴィア


 雪音 ミオ先生。


 長いウェーブかかった黒髪。

 大人の女性らしく綺麗に整った顔立ちに長身。

 そしてとっても大きな爆乳。

 温和で誰にも分け隔てなく優しい女先生。

 

 彼女がいなかったらもっと早く学園に絶望して死んでいただろう。


「どなたですか?」


 突然の訪問に彼女はそれは驚いた。


「愛坂君の友人だったの――」


 そして愛坂 ヒデトの名前を出されるとさらに驚いた。


「ごめんなさい。私彼を――あの子を救ってあげられなかった。こうなると分かっていればいっそデートでもなんでもしてあげればよかった――」


 そう涙ながらに語っていた。


 その言葉を聞いて悲しみと同時に喜びが沸き上がる。

 自分の死を悼んでくれる人がいる。

 その事実だけでも僕は救われたような気がした。


「彼とは親しかったんですか?」


「はい。よく知ってます」


 そう尋ねられ、本当に近い嘘をついた。

 当然だ。自分自身の事なのだから。


「オタクでセガ〇ターンなどのレトロハードにも手を出しているレベルでした」


「まあ、よく知ってるのね。話題についていくの大変だったんでしょう?」


「いいえ、大丈夫でした」


 嘘はついてないよ。隣でユンは目を丸くしていた。

 彼女の心中はいかに。


「ふと思ったんだけど、この学園には入学予定で?」


「今のところはと言う感じですね」


 正直授業を受けずにフラフラして、適当なところでフェードアウトするつもりだ。

 だからどうとでも受け取れる感じに答えた。


「そう――正直言ってこの学園はやめておいた方がいいわ。今は歪んでいて優しい子には生き辛い場所だもの」


 と、雪音先生は諭すように言う。

 やはり彼女は優しい女性だと思った。


「……悪い噂は聞いています。さっきも専用機の子に罵倒されたばかりです」


「名前は?」


「オリヴィア・ウィリアムズ」


 その名前を出した途端、目に見えて彼女は落胆した。

 ユンもその時の事を思い出して表情を変える。


「あの子は決闘騒ぎで丸くなったと思ったけど、ただ綺羅 セイジ君に依存するようになっただけなのね」


「どうしてあの子はあんな感じなのでしょうか?」


 当然の疑問を僕は口にする。


「生徒のプライバシーの事を教えるのはルール違反だけど、愛坂君の友人なら構わないわね」


 と前置きして語りだした。


「綺羅セイジ君の周りの女の子は共通して癖が強くて彼に依存しているわ。ウィリアムズさんもそう。彼女は家庭環境に問題があったみたいで女尊男卑的な考えで入学当初は国際問題レベルの発言をしていたそうよ」


(そうそう。そうだった。あの時に録音でもして潰しておけばよかった。まるでセシ●ア・オルコットみたいだったな)


 セシ●ア・オルコットとはパワードスーツ系ラノベだけでなく、様々な作品で決闘イベントからの即落ち(恋愛的な意味で)と言うお約束を産み出したキャラクターである。


 正直関わりたくなかったが、先も語った通り因縁を付けてきてボコボコにされた過去を持つ。


 綺羅 セイジが朴念仁でやたら俺に付き纏うせいであり、決闘イベント以降もご察しください的な関係が続いた。


 他の専用機持ちの女の子も似たり寄ったりだ。


 この学園は人格に問題を抱えた連中の溜まり場か。


 本当にイヤになってくる。


「まあ家庭に問題があるとは言え、十代の少年少女が特別扱いされれば性格に何かしら――その、変わった部分が出るのは無理のない話だわ」


 と、オブラートに包んで雪音先生はそう言った。

 

「本当にこの学園――この世界はどうなるのかしらね」


「ははは……」


 それは俺次第ですとは言えないので苦笑して返した。



 Side 綺羅 ユキナ


 私はオリヴィア・ウィリアムズを指導室に呼び出して平手打ちをした。


 理由は簡単だ。


 何も反省してなかったからだ。


「弟との決闘で変わったと思ったが、まるで変ってなかったようだな」


「な、なにを――」


 目に見えて狼狽している。

 宇宙人が来訪している現在でも、エクスアーマーの世界や学園での影響力はまだ健在だと言うことだ。


「反省するならまだしも、罰則を愛坂 ヒデトのせいにして不平不満を口にするとはな――決闘で変わったと思ったがどうやら私の眼は節穴だったようだ……」


「まさかあの女が――」


 ユン・シェンハの事に思い当たったようだ。

 だが私は気にせずにこう続けた。


「専用機には無期限使用禁止、反省房に入れ、反省文も書いてもらう」


「そ、そんな!? あんまりですわ!?」


「それはこっちのセリフだ!?」


 何しろコイツは変装していたとは言え、帝国の皇子を罵倒したのだ。

 これでは恥の上塗りである。

 むしろこの程度で納得してくれた相手方に感謝すべきだ。


「そこは想像に任せる。反省房で震えているがいい」


 私は冷徹に言いつける。

 これで反省してくれるといいのだがどうも嫌な予感がする。


 教師や生徒だろうと信頼できる人間が欲しい。

 でないと私の身がもたない。


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