第2話「地球の狼狽」



 Side 綺羅 ユキナ


 今、地球は危機的状態に陥っていた。


 人類の天敵ディセントの襲来ではない。


 新たな異星人の来訪である。


 敵対的なのか友好的なのか分からない。


 最高戦力と言われている私も自分専用のエクスアーマーの準備を急がせる。


 一キロメートル以上の漆黒の艦が大気圏突入し、エクスアーマー養成学園「アーク」に降り立とうとしている。


 戦闘機も他国のエクスアーマーも軍艦も遠目から見ているだけだ。


 ヘタな手を打てば――ディセントだけでも一時は地球人類の滅亡の瀬戸際だったのに、万が一侵略目的だった場合はもうどうする事もできない。


 いや、侵略目的ならとっくの昔に攻撃は開始しているがそれは地球人の常識で考えた場合だ。


 実際は分からない。


(あまりにも早すぎる!! 人類は試されているとでもいうのか!?)


 新たな異性体の出現。

 接触。

 そしてピンポイントにこの学園に乗りつけるようにして降下してくる。


 もうこの時点で詰みだ。


 生徒達はパニックなっているか、あるいは新たな敵生体の襲来と思って泣き崩れているかのどちらかだ。


 教員たちも似たような物である。


 全長一キロメートルの宇宙船。


 倒したとしても動力が何を使っているか分からない以上は破壊した時の爆発で学園を巻き込んでしまう。

 爆発に巻き込まれなくても爆風や艦の破片が降り注いで学園は破滅だ。


 仮に倒したとしても――火星と月にいる仲間が全力で殺しにかかってくる。


 そうなれば地球人類は滅亡だ。


 もうこうなれば天に身を委ねるしかない。





 この養成学園アークは巨大な人工島であり、様々な設備がある。

 そして人工島から少し離れた海上で停止。 


『こちらはゼラヴィア帝国の皇子、デュノ・ゼラヴィアだ。我々に交戦の意思はない。エクスアーマー養成学園であるアークにて会談を行おう。今後の両惑星間の友好のために賢明な判断を期待する』


 と、若い少年の声でそう世界中のあらゆる周波帯で告げられた。

 

 ユキナとしては最悪の事態ではなかったことに安堵するが、まさかこの学園を会談の場所に選ぶとは思いだにしなかった。


『その前に学園の上陸許可を求む。その際、戦闘機と人型機動兵器の護衛を伴うので注意されたし』


 その判断に学園長は即決した。

 そして艦内から現れたのは約20m級の黒い人型機動兵器と同じく漆黒の戦闘機の群れ。

 それと大型で純白の流線的なフォルムの輸送機だった。

 そこに要人を乗せているのだろう。


 学園の敷地内に機動兵器とともに降り立ち、戦闘機は上空を徘徊している。

 

 輸送機の中から降り立ったのは黒い軍服に身を包んだ人間達だった。


「なっ!?」


 その事に驚いてしまった。

 肌の色も地球人と変わらない。


 だからと言って地球人ではないだろう。


 約20m級の人型機動兵器と1キロメートルの宇宙船を作る超テクノロジーが地球にあれば、人類はディセントに負けてはいない。

 そもそもエクスアーマーすらいらないだろう。





 Side ディノ・ゼラヴィア


「アレがエクスアーマーですか? あんなパワードスーツで外宇宙の敵生体相手によく滅びませんでしたね」


「それだけの性能があるんだろうね」


 傍にいたジーナは空中を遠巻きに飛び回るエクスアーマーを見て懐疑的な意見を述べるが俺はそう説明しておく。

 実際エクスアーマーはそれだけの性能を秘めているのだ。

 まあ性能を発揮するには適正値が必要だと言う欠陥を抱えているが。


「そうですか――これからどうするんですか?」


「先立ってこの学園の代表者と会談しておこうかなと。大使館もついでだからここに建設しておこう」


「ここに大使館をですか?」


「まあね」


 ここに大使館を建設するのは生前の恨み、嫌がらせである。

 何しろ罵倒を浴びせられながら生活していたのだ。

 この学園を焼け野原にしないだけありがたく思って欲しい。


 理由なら「世界最強の兵器が沢山ある場所が一番安全でしょ?」とでも言えばいい。

 なんなら武力をちらつかせてもいい。



 学園の応接室。


 学園長のセフィアさん。

 見掛け二十代半ばの長い金髪の美女だ。

 

 隣には黒髪のクールビューティーの綺羅 ユキナがいる。


 まあ妥当な人選だろうか。


 此方は護衛の完全武装の兵士二名。(海外のFPSゲームに出てきそうなパワードスーツを身に纏っている)

 室外にも数名待機している。


「ここに大使館をですか?」


 と、学園長のセフィアさんは驚きの声を挙げている。

 まあ驚くよな普通。


「そうです。聞けばエクスアーマーは世界最強の兵器なんでしょ? ならここに大使館を置くのは妥当ではありませんか?」


「それは――」


「それとも、エクスアーマーで地球を守って来た実績は嘘だと仰りたいんですか?」


「いえ、そんなことは――」


 いや~美人学園長をこうして弄れるなんて転生して舞い戻って来た甲斐がありましたね~。


「まあ確かにエクスアーマーは少々不安な点がありますね。女性の適正地がなぜか高くて、女性優遇思想ですか? が、蔓延して社会問題となっているとかどうとか」


 これは事実だ。

 とある有名なラノベの言葉を借りれば女尊男卑と言う言葉である。

 学園内でもそう言う生徒は多くいた。


 まあ綺羅 セイジは特別扱いされてたけどね。


「事実なのですか?」


 と、副官のジーナが学園長のセフィアを睨みつけるように言う。


 セフィアさんは「はい、事実です」と返した。


「他にも小耳に挟んだ話では男子学生の一人を精神的に追い詰めて謀殺したとかもありますが、これも噂の域を出ませんしね」


「ッ!? それはどこで!?」


 セフィアさんが明らかに狼狽した。隣で座っているユキナは顔面を蒼白させている。

 

 驚いてる驚いている。

 相手側からすれば未知の宇宙人とのファーストコンタクトだ。

 ファーストコンタクトで重要なのはいかに自分達に悪印象を持たれないかと言うことだ。

 その点でこの学園は大失態を犯した形になる。

 

「おや、本当だったんですか? ネットの噂って奴ですよ。その様子を見る限りでは心当たりがあるそうですね」


「それはその――」


 とセフィアさんは困り顔だ。


「殿下? 本当にこの様な場所に大使館を作ってよろしいのですか?」


「まあ他に適当な候補もないし、彼達の実績は本物だ。それに政治的にも色々と面倒事はないしね。ここを拠点にするよ」


 副官のジーナは「そこまでお考えであれば言う事はありません」と言ってくれたが俺は(何か勘違いされてる気もするけどまあいいかな?)などと内心思ったりしていた。


 もうこうなってしまえば政治的に彼女達はなんとしてもここに大使館を建造して貰わなければならない。


 そうなれば政治生命や人生が破滅するからだ。


 より分かり易く言えば――


 せっかく友好的な(たぶん)異星人がこの学園にやってきて大使館を作ろうと言った矢先に、その考えを変更した理由が学園内のしょうもないイジメとかが理由だったなんてなってみろ。


 例え人類の天敵から身を守ってくれているとはいえ、間違いなく世間からの見る目が変わるぞ。


 最悪セフィアさんと綺羅さんの命はないな。


「ともかくそう言う噂がありますから、ちょっと子供の教育には気をつけた方がいいですよ?」


 と、念押ししておく。

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