ラトソールダンジョン5
ラトソールダンジョン内で昼飯を堪能した俺達は、次の階層である36階層へと足を踏み入れた。今日中に40層まで到達するつもりで、今がお昼。悪くないペースと言えよう。
「うん、今の所出てくる魔物は変わってないな」
「だね。でも、強いのが紛れ込んでるかも、だよ」
「気を付けないとだな」
ガガガガガガ……
「うん? なんか聞こえた?」
「? 私は聞こえなかった」
「私は聞こえたよ!! なんか地響きっぽいのが! まさか、おっきい魔物?」
加奈は聞こえなかったようだが、姉さんはそれが聞こえたらしい。巨大な魔物が居たら困るなあ。ここで足止めを喰らうと40層に間に合わなくなるし、かといって放置すれば、より表層にいる冒険者が襲われるかもしれない。
ともかく、まずは場所の把握だ。魔力感知の精度を落として、その分検索範囲を広げてみる。
「……特に大きな気配はないなあ。けど、隠密系の能力かもしれないし、油断はできないけど」
「なんだったんだろうね」
「何もないといいけど……」
ガガガガガ!!!
「「「?!」」」
また鳴った! さっきよりも大きな音で!
「凄い音! 二人がさっき聞いたのもこれ?」
今度は加奈にも聞こえたらしい。姉さんと俺は頷き、「さっきよりも音が大きくなってる」と加奈に伝えた。
「むー。怖いね。正体が分かればいいのに……」
「分からない物ほど怖い物はないよな。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って昔から言われるくらいだし」
「それって、『幽霊と思って怖がったけど、よく見たら枯れたススキだった』って意味よね? 昔の人もやっぱり同じような感性を持っていたのねー」
「だな。でも、この世界の迷宮だとゴースト系の魔物っているし、今後地球でも本物の幽霊が現れるかもだな」
「それは怖いわね~」
「でも、向こうでもスキルが使えるようになったから。逆に怖くないかもだよ」
「「確かに」」
時折「幽霊は殴れないから怖い」なんて表現を目にしたりする。これってつまり、一方的に攻撃されるのが怖いって事であって、俺達側に幽霊に対抗する手段があれば幽霊も怖くなくなるんじゃないか、と加奈は言いたいようだ。うん、確かに。納得である。
ガガガガ!
ガガガガ!
ガガガガ!
ガガガガ!
ガガガガ!
ガガガガ!
「うわ!」
「きゃあ!」
「!!」
また音が鳴った! しかも今度は地面が大きく揺れ、危うく転びそうになった。右から加奈が、左から姉さんが俺の腕をギュッと掴んだ。加奈は普段は大人しくてクールな感じだし、姉さんは元気溌剌なお姉さんという感じだが、こういう風な反応を見ると、改めて二人とも凄く可愛いななんて思ってしまう。そして同時に、頼りになる兄(弟)になりたいと思うのだ。
それはともかく。
「地震か!」
「この世界では初めてじゃない?」
「震度5弱、いや5強くらいあったね」
「そもそも、ダンジョン内に地震なんて起こるのか? プレートなんて無いだろうし」
「でも、火山がある位だし……」
「それもそうか……え?」
「「?!」」
なんか、火山の頂上から噴き出る煙の量、増えてないか? あと、なんかゴボゴボって赤い物が噴き出てるように見えるのだが?!
「これは……」
「ひょっとしなくても……」
「火山噴火?」
ドッガーン!!
「「「ぎゃあああ!」」」
そりゃあ、火山ステージだもの。こういう事も起こるよな。
「ど、どうする? 前の階層に戻る?!」
「いや、ここまで来たなら、37層に逃げ込んだ方が良いと思う!」
「私もアユ君に賛成。ここから戻るなら、マグマの川の傍を通る事になるけど、それは危ないと思う」
「そう……ね。分かったわ! 急ぎましょ! アユは索敵に集中しながら、先導して!」
「了解、いくぞ!」
◆
「『フリーズバレット』、『フリーズバレット』! よし、行くぞ!」
「待って、火山弾が来てる! 『魔剣術・水』、斬れ!」
地面に着弾する前に、姉さんの斬撃が宙を飛んで火山弾を氷結させる。その衝撃に加えて急激な温度変化が起きた事で、火山弾は粉々になる。
「ナイス! 『アイシクルロード』! 地面を凍らせたから滑り降りるぞ!」
「「「ひゃああああーー!」」」
ここから暫くは下り坂。俺は地面を凍らせて氷の滑り台を生成し、二人を抱きかかえて坂を滑った。
「……どうやって停止しよう?」
「「ちょっと?!」」
「ちょっと待って、考える」
滑ったはいい物の、停止の仕方を考えてなかった。えーと、どうしようか。
そこでふと思いついたのは、まだ俺が小さかった頃の出来事だ。5歳、だっけ、の時に雪に向かってダイブして叱られた記憶がよみがえる。
「『雪』!」
大量の魔力を代償に、フワフワの雪で出来た山を生成。俺達三人は雪の中に放り込まれた。
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