朝食

 朝食。一日のエネルギーを補充する大切な食事であり、毎日欠かさず食べる事が推奨されている。

 今日のメニューはベーコンエッグトーストとさくらんぼのスムージー。さくらんぼは爺ちゃんの家で採れたものである。


「そういえば、お義父さんは仕事の調子とかどうなの? あれから何か変わった?」


「ん? そうだなあ……。あー、父さんには直接関係しないんだが、現場の方では少し」


「お? それって仕事を効率よく進めるためのスキルが発現したとか?」


「いや、それはまだ報告が無いな。まあ、身体強化的な物なら、報告が上がっていないだけで、使ってる人はいるかもしれないけどな。俺が言ってるのは生命力の存在さ」


「あー、なるほど。怪我をしても治るからってこと?」


「そうそう。かすり傷とかがすぐに治るってのは助かるんだってさ」


「なるほどなあ」


「お前たちこそどうなんだ? 咲良が前に言ってたけど、進路希望が変わったりする事もあるだろうし。後は、ダンジョンについての話題とかさ。俺達中年は『ダンジョン? 無理無理、体が動かんよ』って感じだけど、高校生ならやっぱり違うんじゃないか?」


 その問いには、姉さんが答えた。


「そうね。私の周りでも『ただ偏差値が高い大学を希望するよりも、明確にスキルが手に入る職種の方が安心じゃないか』って話があったりするわ。だって、この先、社会がどうなるか分からないじゃない? それこそ学歴よりもスキルやレベルが重視される世界になってもおかしくは無いわ」


 俺と加奈は首肯する。向こうの世界はそう言う社会だ。ダンジョン中心で回っている世界であり、ダンジョンで資源を集める冒険者、その資源を加工する薬師や鍛冶職人は社会の基盤となっている。(一部、農業や林業も行われているけどな)


 実力のある冒険者や有用なスキルの所持者は、一種のエリートと考えられており、周囲からの羨望を集める。そんな風潮が、地球でも起こり得ると姉さんは考えているのだ。


 しかし父さんは「そこまでかなあ?」と首を傾げる。


 そんな父さんに対し、姉さんは熱く語る。


「例えば、ダンジョンから有用な素材が発見されたって話はニュースになっていたわ。また、その加工方法が確立していないとも言っていたわ。それを聞いて、私は『ダンジョンで採れる資材の中には、スキル保持者じゃないと加工が難しい物がある』と考えたわ。ダンジョンは今後、レアメタルが採れる鉱山になる、かもしれない。そして、スキル保持者はそれを加工できる限られた存在になるかもしれない」


「うーむ。なるほどなあ。確かにそう言う感じのニュースを俺も見たよ。ダンジョンとやらが社会をどれくらい変えるのかは未知数だが、未知数であるからこそ、真剣に考えるべきなのかもなあ……」


 なんだか朝から重々しい話題にしてしまったな。



 その後は「昨日、テレビでこんな雑学が流れてた」みたいな雑談をして、義両親は仕事へと向かった。俺達高校生組は、もう少し時間の余裕がある。


 テレビを点け、何か興味深い話題が無いか探す。



『続いてのニュースです。自らを終焉教会と名乗る人物らが、魔法で人を攻撃する事件が発生しました』


**********〈VTR〉**********

(男女が、広場で演説しているVTRが流れる)


『今、この世界は終焉に向かっています! 皆がダンジョンと呼ぶ空間は、地獄への入り口なのです! これは神を信じない事に怒った創造主が、我々を滅ぼすために用意した物なのです!』


(そこに一人の女性が現れ、この広場は演説などの活動が認められていないと説明する)


『終焉に向かうこの世界で、人が作ったルールなど、関係ないでしょう?』


(演説をやめてほしいと再度説得する女性)


『はあ。うるさいですね』


(演説していた人物らは魔法で炎を生成し、女性を攻撃した。女性はキャーと言って逃げる)

********************


『この映像は、昨日の午後8時ごろ、○○広場で撮影された映像です。この広場での演説活動は禁止されており、近隣の住民が注意しにいったところ、魔法による攻撃を仕掛けられたようです。その後、警察によって演説は止められ、また暴行罪の疑いで逮捕されたようです。なお、注意しに行った女性は生命力に守られ怪我はないとのことです』



 なんとなく嫌な気分になった俺は、テレビを切ってため息を吐く。


「はあ。こういうニュースを見ると、嫌な気分になるなあ」


「ほんと迷惑よね! だいたい何よ、『地獄への入り口』とか『人を滅ぼすために用意した物』とか! 何も知らないアンタらが言うんじゃないわよ、って言いたいわね!」


 と姉さんが賛同する。


「ダンジョンは『ステータスシステム』の機能の一種で、それは『上位存在』ではあるけど、『神』とは違う。ってリエルさんが言ってたよね?」


 懐かしい記憶を加奈が話す。そういえばそんな事を言っていたなあ。


「そう言ってたな。他になんて言ってたっけ? ステータスシステムも一種の生物のような物で、己の利益の為に動いている、的な事も言ってたような……?」


「正確には、『私達を向こうの世界に呼んだのは、ステータスシステムの利益の為』って言ってたよね」


「うーむ。いつか、リエルさんに話を聞いてみるのも良いかもしれないな」


 当初、リエルさんと深く関わるのは危険かもしれないと思っていた。特に地球に異変が生じ始めた時は「これってリエルさんも予期していない事態なのでは?」と思って、隠していた。

 けれども、地球でステータスシステムが起動して暫く経っても元に戻ったりしない点から、こうなる事はリエルさんの予想の範疇だったのでは、と考えたのだ。

 もしかしたら、誤魔化されるかもしれないが、いつか聞いてみようかな。ステータスシステムについて。




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