父との電話2


『その魔力感知ってやつはどのくらいの精度を誇るんだ?』


「そうだなあ。うーん。索敵って意味では、少なくとも赤外線カメラよりは遠距離まで分かるかな」


 赤外線カメラを使えば壁の向こうに人物がいるかどうかが分かったりするらしい。使った事は無いけどな。でも、いくら赤外線カメラがすごいとしても、魔力感知には劣っていると思う。


『そうなのか? それはかなり便利そうだな。例えば、壁の向こうに何匹の敵がいる、とかもはっきりと分かるのか?』


「そうだな。ついでに言うと、味方か敵か、敵ならアクティブか非アクティブか、なんかもある程度分かるようになってる。あれだな。三人称視点のゲームみたいな感じと思えば分かりやすいかも?」


 実際に三人称視点という訳ではない。が、見えないはずの場所まで見えているというこの現象は「三人称視点のゲーム」と共通している。


『それは便利だなあ。それで、はじめに「索敵って意味では」なんて言ってたって事は、他にも便利な機能があるのか?』


「あー、あると言えばあるかな。これって自分の周囲の魔力の流れも知覚できるんだけど、それを使えば、ダンジョンがどこにあるのかを大まかに把握する事が出来た」


『なんだって?!』


「その事がお国の研究班にバレて、ダンジョン捜索に駆り出されたりもしたよ」


『マジか。こっちでもまだまだ未発見のダンジョンがあるとされていて、それで発見者には賞金が出る事になってるんだ。どうだ? こっちに来てダンジョン捜索しないか?』


「あー、悪いんだけど、もう出来ないんだ。これは大気中の魔力濃度が低い間しかできなかったから」


『どういうことだ?』


 当初、魔力はダンジョンから漏れ出ていたので、それを遡る事でダンジョンを捜索していたが、今は大気中にも魔力が存在するため、もはや探知できないと説明する。


『つまり、平衡状態に達したと?』


「そういう事だな」


『そりゃ残念』



「ところで、そっちでもダンジョンに入る事は規制されているのか?」


『まあな。でも、日本とはちょっと状況が違うかな』


「というと?」


『ほら、こっちってアクティブな人が多いだろ? 規制を敷いても抜け道を探す人が現れるかもしれないし、路上デモなんて起こったりするかもしれない。やっぱり、ダンジョンと聞くとお宝を想像する人が多いからな。独占するな!って言われかねない』


「だな。日本でもそんな風に言われてる」


『だろうなあ。で、日本なら大規模なデモとかは起こりにくいだろ? 精々、つぶやいたー上で愚痴を言う人が現れる程度で。デモが起こったとしても、死傷者が出るほどの物じゃない。ただ、こっちでは下手したら銃とか攻撃魔法の乱射なんて物騒なことが起こるかもしれない。日本以上に政府は緊張状態にある』


「なるほど。それで、どうなったんだ?」


『結局、国主導で探索を行う事にはなったんだが、一般人からも探索希望者を募る事になったんだ。レイドを組む、とでも思えばいいかな』


「なるほどなあ。そう言う方針なのか」


『とは言っても、参加希望者が多すぎるから、年齢制限や有用なスキルの有無である程度絞る予定らしい』


「へえ。というか、そんな状況で、よく父さんたちは自由に探索出来てるな?」


 それこそ、父さんたちは抜け駆けしている訳で。市民から後ろ指さされるのではなかろうか?


『そこはあれだ。元々探索してた人の特権だな。まあ、近々、政府主導のパーティーに探索権を譲る手筈になっているけどな』


「なるほどなあ。ちなみに、お宝はゲットできたの?」


『そうだなあ。スライムを倒した時に小さな鉱石が入手出来たくらいかなあ。他には良い物はゲットできなかったな』


「魔石か。スライムからのドロップにしては、良い方じゃん」


『あ、やっぱりあれって魔石とかそう言う類の物なのか? まだ、何の鉱石なのか分かっていないんだが……』


「……」


 やってしまった。俺にとっては、ダンジョンが社会の一部になっている世界と言うのが、「もう一つの日常」となっている。まだ日本では分かっていない事を、つい呟いてしまわないように気を付けないと。


「実は俺達もダンジョンでドロップしたからさ。それで魔石っぽいと思ってそう呼んでいたんだ」


『へえ、お前もゲットしたのか。そうかそうか。あ、そうだ。レベルって幾つになったんだ? 俺は連日潜っているから10に到達したんだ』


「……5になったぞ」


 嘘です、もうすぐレベル90になろうとしています。言わないけど。


『マジか! 一日でそこまで上がるって凄いな! どうやったんだ?』


「結構深くまで潜ったから、効率よく経験値を入手できたんだ。姉さんと加奈も探索に便利なスキルを持っていたから、三人で協力すればかなり深くまで潜れたんだ」


『なるほどなあ』


 その後も、米国におけるダンジョンに対する政策と日本の政策の違いや共通点を話した。なかなか面白い話を聞けたな。


「ありがとう、面白い話が聴けたよ」


『俺も面白かったよ、ありがとうな。あ、そういえば……』


「なになに?」


『こっちに猫が沢山出現するダンジョンがあるんだ。Cat Kingdomって呼ばれてるんだけどな』


「何それ、面白いな。俺が見た猫又とは違うのかな?」


『違うと思うぞ。Cat Kingdomでは、まずスライムにも猫耳が生えている』


「マジか。ちょっと可愛いな」


『ああ。そしてその三日後には子猫のモンスターが出現するようになったんだ』


「へえ!」


『ただ、それが問題でな。子猫のモンスターは、攻撃能力なんてまるでない、一見ただの猫だ。勿論倒せば光となって消えるからモンスターであることは確かなんだけどな』


「ふむふむ」


『で、ある若者達が、勝手にそのダンジョンに侵入したんだ。勝手に侵入しただけでも問題なのに、さらに彼らはモンスターを倒す映像を撮影、つぶやいたーに投稿した』


「あー、見えてきた。つまり、ダンジョンへの侵入で炎上。さらに、『あんな可愛い子猫を痛めつけるなんて最低!』って意味でも炎上したと」


『そういう事だ。明らかに妖怪の姿ならまだしも、見た目だけは子猫だからなあ。それ以降、そのダンジョンは動物愛護団体的な団体によって占拠されてしまった。ダンジョン内の猫を攻撃する事は禁止となり、そこは猫が健やかに育つのを見守る施設になったんだってさ』


「へー! ダンジョンのモンスターって成長するのか!」


『面白いだろ?』



 この会話の後、何か嫌な予感が頭をよぎったが、「うーん、俺が猫又とか業火之狐を倒したのがバレたら、ヤバいかもなあ」と別の心配によって上書きされてしまった。






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