ラトソールでお買い物

 初日の目標であったラトソールダンジョン30層をクリアした俺達は、ダンジョンを後にし、ギルドへと向かった。内部の状況の報告をしないといけないからだ。ついでに手に入った素材を売るつもりである。


「こんちには。ご用件は何でしょうか?」


「スタンピードの対処を受けている冒険者です。調査報告と、素材の売却をしたいのですが」


 そう言って姉さんはギルドカードを鞄から出す。


「銀ランク?! ということはあなた方が噂の? 聴いてはいたけど、想像以上に若いですね……! 私と同じ……いや私よりもお若い?」


「噂、ですか。良い噂だといいのですが」


「それはもう。『トレジャーハンター』さんには良い意味で驚かされるって聞いています」


「『トレジャーハンター』?」


 なんだそれ?


「あれ、『トレジャーハンター』さんですよね?」


 俺達は互いに首を傾げる。


「それであってるぜ、その子たちが『トレジャーハンター』だ」


 とそこで、奥の部屋からチャールさんとプレーリーさんが現れた。あってる、のか? 俺達、トレジャーハンターなんて呼ばれているのか?


「お前たち、良く珍しい物を納品するだろ? エスケープラビットの肉、白虎の瞳、その他諸々」


「ですね」


 白虎の瞳は、無限ダンジョンの70~80階層にあるジャングルエリアに現れる強敵『ホワイトタイガー』から落ちるレアドロップ。地球のタイガーアイのような見た目の宝石である。正確には、地球のそれよりももう少し色が薄く、透き通っている。


「そういう珍しいもんをいっぱい卸していくから三人は『トレジャーハンター』って呼ばれているんだよ。ギルド職員の間でな」


「なるほど、そうだったんですね。知らない間に二つ名がついていたんですね」


「二つ名ってのはそういうもんだからな」


 後から聞いたが、(いい意味での)二つ名がつけられることは冒険者にとっての一種のステータスらしい。名誉、とまでは言えないが、一目置かれるって感じかな。


「で、三人は何をしに? もう30層まで行ったのか?」


「はい。で、その報告をと思って」


「流石だなあ……」



 30層までに起こった出来事をギルドの代表者的な人に報告すると、「なるほど、如何にもスタンピード前って感じだな。ありがとう」と言って、それで終わった。以外にあっさり終わったので、ちょっと拍子抜け。


「で。報告も終わったので、これを納品したくて」


「こ、これって! 水晶の髪飾りじゃないですか!」


「結構珍しいのですかね?」


「そうですね……。珍しいって程でもないですが、少なくともダンジョンに潜った初日に取って来れる代物では無いですね」


「なるほど」


 確かに、水晶騎士は少し強めの敵ではあるが、ベテランであれば倒せるくらいの強さだ。そう考えると、「珍しいって程でもない」と言うのが妥当な評価と言えよう。エスケープラビットのように、「取ってきたら驚かれる」ような品では無いのだろうな。


「明日以降は30層より先へ進むので、もっと珍しい物を手に入れたいと思います!」


「頑張って下さいね。……ところで、差し支えなければ、ご年齢を聞きたいのですが」


「構いませんよ。私は18歳。二人が16歳です」


「そっか……。私より若いのね……」


「?」


「いいえ、何でもないです」


 受付のお姉さんは遠い目をしていた。



 ギルドを後にすると、もう日がだいぶ傾いていた。夕飯を食べる場所を探すためにも、俺達は町をぶらぶらする事にした。


「こうしてみると、やっぱりセントロマイナとはだいぶ違うな」


「うんうん。工芸品とかの店が多い気がするわね。あと武器屋と」


「ガラス細工、とっても綺麗」


 金属を加工した武器はもちろん、ガラスを加工したガラス細工もこの町の特産品である。江戸切子のような見た目のグラスや西洋風なワイングラス。あと、様々な色のガラスを組み合わせて作られているアクセサリーは美しい上に実用的だ。


「これ、良いわね」


 姉さんが目を付けた者は、赤色と緑色のガラスで出来た、小さな剣のアクセサリー。鑑定すると。



剣のアクセサリー

作者:アラン

効果:火属性ブースト・風属性ブースト



 火属性と風属性が強化されるのか。○○ブーストとはその属性の威力が約5%上昇するという効果を持っており、なかなか使い勝手が良い効果である。

 あまり詳しくは無いのだが、この世界ではアクセサリーを作る際に、スキルを使って行うことで何らかのバフが乗る。(偶にデバフや呪いが乗っているが、それはあくまで例外である)

 ただ、生産系スキルを手に入れるには、相当その道に長けていないといけないし、さらに生産スキルを手に入れた後も安定してバフ付きのアイテムを完成させるには長年の修行(レベル上げ)が必要だ。

 よって、世に出回っているアクセサリーの半分以上は何の効果も無い飾りであり、何らかのバフが乗っているアイテムは珍しいのだ。



「お似合いですよ。火属性と風属性のブーストが付いているので、少しお高くなっていますが」


 片眼鏡モノクルのような道具を出しながら店主が声をかける。

 あの片眼鏡は「目利きのモノクル」と言うアイテムだ。アイテム鑑定士の称号を持っていなくても、一時的にアイテム鑑定スキルを使えるという物で、ギルドの素材買い取り場などで使用されている。


 別にモノクルが無くても鑑定できるのだが、怪しまれないように姉さんはモノクルを受け取ってそれを通じてアイテムを見る。


「いいですね、これ。是非買わせて頂きたいです」


「10万ゴールドになりますが」


「はい、これで」


「(この子達、若いのにこんな風にポンと10万ゴールドを出せるなんて……。何者かしら?)丁度になりますね。では、どうぞ」


「ありがとうございました!」


 これで姉さんの風属性の魔剣術がパワーアップしたな。うん、良い買い物をした。



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